今回は、前回に引き続きマカロニえんぴつのニューアルバム『大人の涙』のHidden Story。ヴォーカル・ギター、はっとりさんにお話をうかがいました。まず教えていただいたのは、曲のアレンジについて。マカロニえんぴつは、どんな風にアレンジを作っているのでしょうか?

「普通はプリプロなんかがあって、固まった状態でレコーディングで多分皆さん挑むんですけど、僕は真っさらの状態で始めて同時進行にアレンジを考えていくっていうやり方に慣れてしまったのと、それがやりやすくなってきたっていうので。だからアレンジの全貌はある程度時間が経たないと分からないんですね。だから俺は、レコーディングは最終日を迎えても仕上げではないと思っていて。 レコーディングは全部素材集めなんですよ。全部はミックス作業にある。編集作業、映画作りもそうなんですけど、 テープ繋げるのが1番お客さんに届く最善の作業なんで、レコーディングは素材集め。それをどのバランスで配置するかのミックス作業が肝だったりはします。」
そんなレコーディングで生まれたサウンド、例えば【リンジュー・ラヴ】のイントロは、どのようなものなのでしょうか?
「変わったイントロで始めたいなっていうのはあったんですよ。 というのも、あの世とこの世がうっかり繋がるっていう不思議な歌を書いてるので、イントロも不思議であった方が良いし。ちょっと浮遊してる感じを出すために。これはシンセベースも聞きどころではあるんですけど、実は裏でなってるカリンバ四重奏なんですね。
カリンバをツアー先でノリで買って、それで買って使わないのもあれだなっていうので、カリンバの音を中音、高音、低音でフレーズを弾いてったのをガッて重ねて、この雰囲気。イントロは、カリンバとシンセベースとアコギが重なってます。」
そして、この曲のことも語っていただきました。昭和歌謡に挑戦した曲、【嵐の番い鳥】

「やりたさは昔からあったんですよね、こてこての歌謡曲。どうせやるなら、もうデュエットとかしたらめちゃくちゃ面白いんじゃないかというので、レーベルの後輩のヤユヨっていうガールズバンドのリコちゃんが手伝ってくれて、すごく良い曲にしてくれました。普通に良い曲で、なんなら3周目から泣きそうになるんですよ。頑張ってるわりに向こうが全然乗り気じゃない、このおじちゃんの健気さに泣けてくるっていうか。"家どこ?"って聞いてるのに全然教えようとしないですよね。相手にされてない感じとかもなんか面白いじゃないですか。
セリフ、あれ全部アドリブなんですよ。合間で入ってる小芝居はテイク数も割と少なくて、3回4回ぐらいしか通してやってないんですけど、全部セリフ違かったんですよ。本編ではカットしましたけど、イントロで毎回、僕、口上をやってたんですよ。1人で曲紹介。《それでは聞いてください。嵐の番い鳥》みたいな。《男と女の恋慕情》とか言いながらずっと喋ってるのが4テイクぐらいあるんですけど、さすがにこれはふざけすぎってなって消しました。泣く泣く消しました。」
そして、この曲の次に入っているのが、メロディック・ハードコアに振り切ったナンバー【frozen my love】!
「でも結構サウンドはメロディックハードコアを真っ当にやってますからね、。合間までパンテラみたいなリフの後に初デスボイス。初デスボイスが思った以上にキマっちゃって。最高なんすよ、このデスボイス。」
アルバムのラストに入っているのは、iPhoneのボイスメモで録音され、マカロニえんぴつ史上 最も収録したままという曲、【ありあまる日々】。
「これね、実は歌いながらほろっと、僕泣きそうになっちゃった曲で。実はきっかけになったものがあるんですけど、Netflixの〈あいの里〉っていう恋愛バラエティの設定がとっても面白くて。〈あいのり〉のスタッフさんが手がけられてるっていうような話を聞いたんですけど、30歳以上の方しか参加できないっていうので、みんな色んな事情を抱えてたりっていう人たちが集まって。だから60代の人もいたりするんですけど、最年長の[中さん]っていうおじさんがいるんですけど、その中さんの...これは見てない方のために細かいことは言わないですけど、中さんがすごい辛い過去を背負って参加てるんですけど、それを最後の最後までメンバーに言わないんですよ。それで、最後にそれを言った時に、僕はもう泣いてしまって。こんなことってある?っていう。でも、中さんの強さとか優しさにとても感動して。 実は中さんに想いを馳せながら作った曲なんですね。だから、そのことを思いながら歌ったら、とっても泣けてきて。自分で歌って泣けるってなんて幸せなんだって思ったんですよ。」
最後に、こんなことをうかがいました。ニューアルバム『大人の涙』について、はっとりさんご自身としては、どんな感想を持ってらっしゃるのでしょうか?
「いや、傑作だと思いますよ、本当に。マカロニえんぴつをなめてる人にはちょっと聞いてほしいっていうか、ちょっと今回頑張ったので、ちょっと聞いてもらっていいでしょうか、っていう。 まとまった作品として聞いた時に、やっと表現ができてきたなっていう風に思います。自分がやってきたこと、やっていることって、人は表現と呼んでくれるけど、自信がそこまでなかったし。 ずっと曲作りの練習をずっとしてる延長な気がしていて。でも1個表現をちゃんとできてるっていう風に胸を張って言える作品になりました。音楽っていうものを味方につけて、何かそこに伝えたいものがあって、それで誰かを巻き込みにいっているっていう。十分な表現ができたなっていう自信を持って言えますね。僕自身でもあります。このアルバムは。」