今回は、話題の本『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』の著者、済東鉄腸さんのHidden Story

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済東鉄腸さんは1992年千葉県生まれ、今も千葉県市川市にお住まいです。済東さんの文学との出会いは、10代の頃になります。

「ここから歩いて20分のところに大きな図書館があって、その図書館で谷崎潤一郎の『蓼喰ふ虫』っていう本を読んだ覚えがあるんですよ。でも全然分かんなかった。本当に意味が分かんなかったんですけど、なんかこう、すごいもん読んだなっていう感覚があって。そこから純文学系の方向にいき、いつの間にか芽生えていった。積み重ねていったら自然とそうなって、なにか書こうとしていた。」

その後、済東さんは大学で日本文学を専攻しますが大学生活・就職活動がうまくいかず。また、うつ病もわずらい、次第に自宅に引きこもるようになりました。そんな中、済東さんは鑑賞した映画について、ノートをつけ始めます。

「見た映画はほぼ記録を、全部感想を書けてるわけじゃないですけど、名前はもう全部記録してる。自分って全部言葉にしないと気がすまないというか、やっぱりそれは書くっていう行為なので、それがまた何年かかけて積み上がっていくことで文学を書くみたいな。そっちの方の情熱も数年かけて戻ってきた、という感じはありますね。だから本当に、こういうノートを書くのは重要でした。それで、次の段階になったのが映画批評を書く、ということだったんですよ。」

済東さんは映画の感想から一歩踏み込み、映画の批評を書くようになりました。特に、日本で取り上げられる機会の少ない国の映画をピックアップするようになったそうです。

「その中で、ヨーロッパ映画自体は結構日本でも来るんですけど、東ヨーロッパはあんまり来てない。チェコとポーランドくらいは来てる。でも、例えばルーマニアとかブルガリアとかアルバニアとか、そういうところのは来てない、っていうのに気づき。で、結構ルーマニアは海外の映画好きには有名で、2007年に、『4か月、3週と2日』っていう作品がカンヌ映画祭の最高賞を取って、そこから批評家の間で「ルーマニア映画すごいぞ」ってなっていき、その情報を知り、で、俺もちょっとルーマニア映画見てみよう、みたいな感じになり、で、そこで見たのが、映画『ポリティスト、アドジェクティブ』で、これに衝撃を受けた、という流れですね。 」

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ルーマニアの映画、そしてルーマニアの文化に興味を持った済東さんは、ルーマニア語を学び始めます。その過程でこんなこともおこないました。facebookで、たくさんのルーマニアの方に友達申請。

「4500人とか、多分それ以上に友達申請を送ったと思うんですけど。facebookって友達かもみたいな欄があるじゃないですか。そこに出てきた人にだだだだと友達申請送りまくって、受理されれば受理されるほど、この人と友達かもっていう共通の友達っていうものが出るようになり。そうすると、さらに相手も"あ、そうなんだ"っていう感じで、結構受理してくれるようになる。それがどんどん増えていって、そうするとタイムラインがマジでルーマニア語で埋まっていく。さらに自分がルーマニア語でなんか書いたりすると、そこにルーマニアの人が反応してきたりして。 でも、日常の会話すらルーマニア語では喋れなかったんで、辞書を引きながら10分20分くらいかけて書いていくわけですよね。それがやっぱり自然とルーマニア語を身につけていくみたいな行程になんか繋がってったかな。」

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そして、済東さんは徐々にルーマニア語で テクニカルな文章を書くようになっていきました。

「ちょっとずつちょっとずつテクニカルな文章としても長くなっていって、必然的に小説にたどり着いていく。それと並行して映画批評を書くうちに、自分でもどう小説を書いていいか分かってくるようになりました。つまり、映画批評をやるにあたって、物語の構成の分析とかも自然とやっていたんですよ。その積み重ねが生きてきて、短い小説でも書いてみようかっていうところで、日本語で小説を書くっていう試みも同時にしてたんで、じゃあこの日本語で書いた小説をルーマニア語にしてみようと。それでfacebookのポストに、"自分、日本の暗部についての小説をルーマニア語で書いたんですけど、読んでくれる人いません?"みたいな感じで、ちょい下心出しながら書いたら、結構反響があって。そこに、ミハイル・ヴィクトゥスっていう、今もめっちゃ親友なんですけど小説家兼編集者みたいな人がいて。その人がDM送ってきて、"ちょっと興味あるよ。もし面白かったら自分の文芸誌に掲載したい"みたいなことで。えー?って動揺ながらWordのファイルを送って1日くらい待ったら、またいきなりDMが来て、"面白かった。俺の文芸誌に載せるよ"みたいな。」

201941日、【リテル・ナウティカ】というルーマニアの文芸誌に作品が掲載。つまり、済東鉄腸さん、ルーマニアで小説家デビュー!!実は、腸の難病であるクローン病もわずらいながらの執筆活動ということ。最後に、もし ルーマニアに行く機会があったら、どんなことをしたいと思ってらっしゃるのか伺いました。

やっぱりね、本屋に行きたい。本屋とか図書館行きたいっすよね。日本にいながらルーマニア語の本を読むっていうのにはやっぱり限界がある。だから、図書館行って1週間くらい、ただただルーマニア文学を読むとか、そういうことをやりたい。でも、それと同時に腸の難病なんで、食事制限とかトイレの問題とか色々出てきて。そこで不安になっちゃって、どうしようみたいな。未だに脱引きこもりは続けてるんですけど、今年の1月に初めて埼玉行ったくらい。遠出はまだそのレベルなんで、まだルーマニアは遠いかな、精神的にも。でも、数年かけて、やっぱりルーマニアは行きたいっていう思いはあります。」

済東鉄腸さん X

済東鉄腸さん note

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