今回注目したのは、デザインとプロデュースによって日本の工芸や製造業をもっと良くしたい、という想いで事業をおこなう会社『CEMENT PRODUCE DESIGN』

「いま大阪・東京・京都を拠点に、商業施設ですとか色んな企業のグラフィック、ウェブ・プロダクトのデザインの仕事をしている会社になります。その中で600社をこえる日本各地の工芸や工場の現場の方々と一緒に、流通を見据えた形での商品開発とサポートも伴走しています。」
お話を伺ったのは、『CEMENT PRODUCE DESIGN』代表の金谷勉さんです。1999年に会社を設立。さまざまな依頼を受けデザインを提供する中、自分たちもものづくりをして発信しようと考え、【ハッピーフェイスクリップ】という自社のグッズを制作。その過程で、金谷さんは地域のものづくりが抱える課題に気づきます。

「よく耳にしたのは"デザインが合ってないんじゃないか"とか、"素材とか風合が合ってないんじゃないか"、"PRが不足してるんじゃないか"とかです。要は、その地域の地場産業の方々の課題っていうのを聞くたびに、これってその職人側で解決できないこと多いよなと思って。僕らみたいな業界の方から解決できることの方がむしろ多いんじゃないのかなと思いました。そもそも僕らの仕事の発注者は誰なんだろうって考えていくと、こういった人たちが縮んでいくと我々の業界も縮んでいくよなっていうのを当時すごく感じたのを覚えています。それがきっかけで、こういったことに困ってらっしゃるんだったら、デザインだけじゃなくて販売していくことも含めて一緒に協力し合っていけば良いんじゃないかというようなことを考えて、本業の傍ら 自分たちの商品開発もやっていきたい時に、一緒に作って一緒にやりましょうよっていう流れができあがっていった感じですかね。」
地域の製造業への関わり。金谷さんが最初に取り組んだのは、こんな仕事でした。
「1番最初のきっかけは、愛知県瀬戸市にある、陶磁器の原型である陶磁器の原型職人。型屋さんなんですよね。最初に相談に来られた時に、実はシンプルなパスタプレートを作ってらっしゃって。そのパスタプレートを売るのを手伝ってくれないか、というお話だったんですけど"いや、この皿か、難しいな"と思って。 それで1回現場に伺った時に、ものすごく細かな技術で作られた、商品でもなく遊びで作ったものが工房に転がっていたのを見つけました。こんな凄いことができるのになんでシンプルなプレート作ってるのか、と思って《むしろこういった技術をしっかり伝えられるようなものを商品にした方がよくないですかね》って話をして。技術を最大値を振り切る・その人たちのすごさをちゃんと伝わるようなプロダクトにしないと、お値段が安くならない以上、そこが大事なんじゃないかと思ってニット柄の陶器のカップを作ったのが始まりですね。 」
そして、デザインの力が大きく発揮されたプロジェクトがありました。
「眼鏡の産地の材料を取り扱っている会社との取り組みが、自分たちのデザインがそんなに会社を変えていくんだっていうことを1番実感しました。ここの会社は実は素材をイタリアから輸入して、眼鏡の産地も分業なので、この素材を仕入れてくる人と作る人って全く別なんですね。すごく細かな分業産地なんですけど、眼鏡自体も皆さんが知っている海外で作られたものを売っているサプライチェーンのお店はたくさんあって、国内の需要はすごく増加してるにも関わらず鯖江市からの供給っていうのは、やっぱり増えてないっていうことが分かったんです。素材が扱ってもらえる機会が減っていくので、当然素材が余っていくんですよね。なので、素材自体を有効活用できないだろうかという相談がありました。悩んでいたのは眼鏡を作っても、眼鏡業界が厳しい。メガネ業界以外で適用できるもの作れないかっていうのを考えたんですが、その現場にある設備を使うしかない。現場でできることで何ができるだろうかっていうので、考えたのが耳かきだったんです。」
この商品は、「鯖江みみかき」という名前で大ヒット。さらに他にも、靴べらや爪切りも制作。この会社の売上は、5年間で実に12倍に伸びたそうです。

全国の製造業、伝統工芸と一緒にものづくりを進める『CEMENT PRODUCE DESIGN』。課題に感じているのは、自分たちのように ものづくりをプロデュースする人がなかなか増えていかないこと。最後に、その突破口として 今考えていることを教えていただきました。
「同じような職種の人がまだまだ増えてないっていうのは、各地域に行ってすごく感じています。デザインする人も少しずつ増えてきて、職人はもちろんいて、形にはできるんだけれど、その先で全体をプロデュースできるような方々は意外とまだ増えていないというところを感じているんです。その中で今ちょうど 地域の金融機関の若手人材を、そういったプロデュースをできる人たちにできないかっていう風に考えて取り組みを始めています。僕らプロデュースをしてる人間にとって必要な要素はなんだろうかって思った時、金融機関の人たちはすごく近いもの持っているなっていうのがお話をする中で感じたんですね。マッチングをしたり、マネジメントしたりっていう感覚が非常に金融機関の方々は高い方が多いので、 そこにクリエイティブの知見っていうのを少しずつ磨いていくようなきっかけ流れができれば 彼らを地域で活躍するプロデューサーにしていくことは可能なんじゃないかな、という風に思いまして。そういった金融機関の方々と取り組みを今進めたりというのは、これから必要だなと思っているので、登場人物と言いますか関わる人たちをたくさん増やしていくことで、地域を強くしていく土壌作りっていうのを、これからもっと深めて進めていきたいなっていう風に思っています。」
