今回は、前回に引き続き、スマートフォンやタブレットのカメラを画集の絵にかざすことによって専用の音楽再生ページへ接続して、絵を見ながら曲を聴くことができる、ヨルシカの音楽画集【幻燈】のHidden Story。

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ヨルシカのギター、コンポーザーのn-bunaさん、ヴォーカルのsuisさんにお話をうかがいました。まずは、グリム童話《ブレーメンの音楽隊》をモチーフにした曲、『ブレーメン』について。

"精々楽していこうぜ/死ぬほど辛いなら逃げ出そうぜ/数年経てば/きっと一人も覚えてないよ" このリリックも印象的なナンバーです。

n-buna: これは、現代の人間のブレーメンでもあるので。現代の人々の行進というか、そこに楽観的な意味を持たせられたらすごくいいなというのは思いますよね。僕は苦しい状況があるなら逃げちゃえばいいじゃんという人間なんで、その楽観的なものを逃げ出せない人たちが持ってくれたら嬉しいな、というのはちょっと思いますよね。今、SNSだったり、人の声を簡単に聞ける状況というのが発生していて、それによって今までのデジタルがなかった時代だったら受け取らずに済んだ人間の声だったり、関係の深まり方だったり、浅く広くいろんな声を受け取れる状況。それって面白くもあるし、それによって思い悩む人たちもたくさいるじゃないですか。ただ、それで苦しくなってる人がたくさんいるって考えたら、便利なのか不便なのかわかんないな、というのは思いますよね。」

この曲、辛い状況をポジティブに吹き飛ばすようなsuisさんの、"あっはっはっは"という歌も耳に残ります。

suis: デモをもらった当時、それからレコーディングした時以上に、歌っていくうちにどんどんこの"あっはっはっは"の気持ちがわかるようになっていくというか。このパートは特になんですけど、歌うほど年をとるほど、どんどん『ブレーメン』の歌詞に寄り添えるようになってるなと感じています。n-bunaくんからデモをもらってしばらくして、外でブレーメンを聞きながらこの曲を覚えよう、どういう風に歌おうかなというので聴きながら散歩してたんですけど、その時、自分も結構追い詰められてて、ちょっと辛いメンタルの時期で。『ブレーメン』を聴きながらいきなり全部投げ出して明日からヨーロッパとか行きたいな、みたいな気も...

n-buna : いいじゃん。

suis: なんか普段はそういうことあんまり考えないんですけど、ほんとにちょっと明日、飛行機に乗って行ったことのない場所に飛んじゃおうかなって、そういう背中の押され方をするというか、心がそうしてもいいんだ、という気持ちに自然とこの曲を聴いてるとなってきて。『ブレーメン』をもらっている状態の自分ではなくて、じゃ次はn-bunaくんから自分がもらった『ブレーメン』を、聴いてくれるみんな・この世界に生きてる辛い人たちに、同じ気持ちで手を引いてあげたり背中を押してあげたりっていうことができる歌を歌いたいなと思って。自分がもらったものを初心として忘れずに、すごく楽観的に大丈夫だよ、っていう。イタリア行ってもイギリス行っても大丈夫だよっていうような、そういう気持ちで。そこを忘れずに歌いました。

n-buna: ブレーメンだったら、ドイツじゃないんだ?(笑)

suis: 行きたかったのは、ドイツじゃなかった(笑)。思いつかなかったドイツのこと。

n-buna:それでどっか行った?

suis: え、どこも行かなかった。なんか結局、行ってもいいんだって思ったら、その瞬間にちょっと救われて、行かなくてもよくなったっていうとこはあったかもしれないです。そう思うと、ほんとになんかこの曲の持つ力というか。うん、すごいなって。」

音楽画集【幻燈】第1章《夏の肖像》のラストは、『アルジャーノン』。

n-buna: 歌詞だったり世界観は、ダニエル・キイスの《アルジャーノンに花束を》を引用しつつ、チャーリーが迷路の上からネズミのアルジャーノンが迷路をさまよいながら外に向かおうとする様子を見ている、というような歌詞にも取れるようにしていますし、他にもあなたという対象に向けてゆっくりと変わっていく、迷路の先をそれぞれ進んでいくあなたが僕にはまぶしいっていう曲にも取れるようにしていて、色んな取り方ができるように歌詞を書いています。

suis: 仮歌の時点で歌を組み立てる時に、今までのヨルシカで歌ってきたsuisの歌唱だと、ちょっと表現しきれない、なんかいい感じにならないメロディと歌詞で、そこは結構模索を繰り返しました。これだったらいいかな、どうかなっていうのを結構細かく組み立てた、というのもありつつ。歌詞に寄り添うという点では、アルジャーノンがネズミ。うちにウサギがいるんですけど、歌い方のテクニック的なところはできている時に、次はじゃあ気持ちをどうやって入れようかなって時に、そのウサギを見ながら気持ちを作っていくというのをして...

n-buna: ウサちゃん見ながら、この子に向かって歌った?

suis: そう、なんか(笑)

n-buna: ゆっくり成長していくねと。

suis: 成長を見ている対象としてはウサギがいたので、ちょうどよくそこを自分で共感して、すごく親身というよりはちょっとこう俯瞰になった目線で。誰かの成長を見るという気持ち、それが歌声になるとどうなのかっていうのは、そういうところで作っていきました。」

音楽画集【幻燈】の第2章《踊る動物》についてもうかがいました。この第2章は、夏目漱石の《夢十夜》をモチーフに、第一夜から第十夜まで、10の作品で構成されています。第一夜の絵で描かれているのは、踊りながら百合の花になる女性。

n-buna: 第一夜は夏目漱石が見た夢の中で、死に行く女性に[100年待っててください]と言われるんですね。で、いつの間にか100年が経ってるっていう。そこで百合の花が咲いてる、という美しい小説なんですけど。要は第二章の方もちゃんと文学のモチーフとしての夏目漱石の《夢十夜》というものがあって。その上で好きに作ってるんで、その枠組みをもらって、第一夜はそれになぞらえて作って、あとは僕たちが好きに作ってます。」

加藤隆さんによる絵。その絵とリンクしたヨルシカの音楽。モチーフとなっている文学作品。いくつもの角度から楽しめるのが、音楽画集【幻燈】。最後に、この作品についてsuisさんのコメントをいただきました。

suis: こうやって画集になって加藤さんの絵の力を大きい絵で見られるという。やっぱり紙で見られるっていう、その画集としての喜びがあって個人的にすごく感動しました。プラス、読み取ると音楽も聴けるから、画集を見て読み取ってそのページの曲を聴きながらそのページの絵を見てっていう味わい方が、他じゃやっぱりできないことだなというのはすごく感じたので、皆さんにも音楽を大事に聴く体験をぜひこの時代にしてもらいたいなという気持ちがあります。」

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