今週は、およそ1000年の歴史を持つ伝統工芸・備前焼。その備前焼の産地、岡山県備前市で、廃棄される陶器をリサイクルするプロジェクトが始まっています。株式会社【the continue.】代表取締役の牧沙緒里さんにお話をうかがいました。

まずは、【the continue.】とは どんな会社なのか?代表の牧さんに教えていただきました。
「こちらの会社は、実は私を含めた仲間が岡山県備前市のレンガ工場で働いてるんです。そのレンガ工場の中でレンガはリサイクルされているのに、私達の身近にある陶器がリサイクルされてない、ということに気がつきまして、これをリサイクルすることで世の中にこういう鉱物資源とか焼き物類というのは循環可能な資源だ、ということを伝えていこうと、そういう企画で社内ベンチャーのような形で始まった会社です。」
実は、岡山県備前市は『耐火レンガ』例えば、鉄をつくるときに使う窯=いわゆる溶鉱炉などに使うレンガの一大産地なんだそうです。その一方で、伝統工芸、備前焼のふるさとでもあるんです。
牧さんは、三石ハイセラム、という会社のレンガ工場で働きながら【the continue.】を設立しました。そもそも、どんなことがきっかけだったのでしょうか?
「実は、この備前市のレンガの会社で働き始めた頃のことですが、私は元々、経営支援とか法律とかの仕事に携わってまして、地域の経営支援員という仕事をしていました。その中で、地域の窯元さんにいろいろ備前焼が面白くならないかということでお邪魔していたんです。そして、その生産現場にお邪魔すると、生産現場の近くにたくさん陶器のかけらが山積みにしてありました。それを拝見したときに、私達の業界ではそういったものは原料として大切に扱われているので、『これはリサイクル原料なんですね?』ということでお尋ねしたら、『そんなわけないじゃない。これは埋立処分すると、ある時期からお金がかかるようになって、それも勿体ないから、うちは土地がいっぱいある田舎だからためているのよ』というような話をお聞きして、これを埋め立てているんだな、と気づいたのがきっかけです。」
備前焼を造るとき、窯のなかで、溶けてしまったり、割れてしまったり、どうしても作品にできない素材ができてしまう。この状況を目にして、牧さんはこう考えました。
「陶磁器というのは土を固めたものの上に色柄をつけるために金属が混じったガラス状の釉薬というものを使って絵付けをするんですが、備前焼というのは土を焼いただけ、というのを特徴にしている焼き物です。釉薬がかかっていない特性もレンガと似ていますから、リサイクルしやすいんじゃないかなというふうに思いまして、最初は産地の方に提案したというところから始まりました。」
その後、陶器のかけらなど 不要になった素材を レンガ工場に持ち帰り、プロダクトの試作がスタート。最初は、コーヒーのドリッパー。さらに、マグカップづくりが始まりました。

「このリサイクルに関わっている【the continue.】は、いまだにレンガ工場の中に会社がある、という感じになっています。なので、突然、工業的なことをやっている会社の中でコップが転がっていて、みんなびっくり仰天という状態です。
最初はだいぶまずかったです。やっぱり会社で扱うのは工業製品なので商売の規模も非常に大きく何億円という商売をするんですが、それが突然、2000円や3000円のコップが転がって、重役とかは『何やってんだ?!』っていう話で。その何人かで2階の隅っこの方で隠れてやっていました。コップがひたすらは何百もできるわけですね、失敗作ですね。だいぶまずい状況ではありましたね。」
そして、備前焼のリサイクルのプロダクトとして、コーヒーにまつわるアイテムからスタートした、ということなんですが、これはどんな理由からだったのでしょうか?
「備前焼というのが、かなり古い書物から、お茶が美味しくなるとか水が美味しくなるとか、やたら飲み物が美味しくなるという伝説があるんです。怪しいじゃないですか、そういうのは。それで思い切ってその味覚センサーという、食品会社さんなどで使われるようなイオンを測る装置があるんですが、その味覚センサーにかけてみたところ、実際に、後口に残る薬のような苦味が軽減される。それはその元になってるイオンのセラミックによる吸着効果だよっていう結果が出たんです。コーヒーの時間というのはみんなの休憩時間なんですよね。ほっと一息ついて我に帰るとき、そういう時間に環境のこととか、例えば『このマグカップってリサイクルでできてるのよ。』という、そういう話題ができたらいいし、そういうリラックスしたときに環境のことを考えていただきたいなと思って、コーヒーカップからしようと、そういうふうになりました。」
株式会社【the continue.】、代表の牧沙緒里さんに最後にうかがいました。今後のヴィジョン、どんなことを考えられているのでしょうか?

「もともとこれを作ったときは正直、商品やお客様のことより、リサイクルすることしか考えてなかったんですが、実際にこの1年弱ぐらい販売活動を通じて、買っていただく方が、自分用ではなくて、自分の大切な人の贈り物に選んでくださってる。そういう中で、お客様が優しい気持ちと環境問題というのを繋げて商品を選択されていると気づきました。そんな優しさがあふれているところにこれからも寄り添っていけるような商品作りができる会社になっていきたいと思っています。
商品展開として今はコーヒー関連で展開しているんですが、今年以降はコーヒー以外のシリーズというのの販売が始まっていく予定になっています。お酒に関するお問い合わせが多くて、『ずっと話をできていなかったお父さんに贈り物をしたい』というお話があったんですよね。それってすごいじゃないですか。ずっと話をしてなかったお父さんに息子が贈るなんて。そういうシーンに何かこう見栄を張る物じゃなくて、暖かく贈れるロックグラスみたいなもの、というのを最初考えましたので、まずロックグラスから。その後お酒にまつわるものでちょっと今の生活に合ったもの、というものを企画しています。」
●「the continue.」の企画展情報
the continue.「再生備前」展
会期|2022年12月28日(水)~2023年1月15日(日)
会場|Discover Japan Lab.
住所|東京都渋谷区宇田川町15-1渋谷PARCO 1F

