2022年、大ヒットした映画『トップガン マーヴェリック』。実は、この作品の撮影に、日本のメーカーが製造した「カメラのレンズ」が使用されました。そのメーカーとは、神奈川県川崎市に本社、そして 福島県の会津に工場がある、株式会社シグマ。商品企画を担当された、若松 大久真さんにお話をうかがいました。

20221230h01.jpg

レンズメーカーのシグマは、創業以来、写真用のカメラのレンズをメインに作ってきました。映画をはじめとする動画用のカメラのレンズ=シネマレンズを最初に発表したのは、2016年のことでした。

「一般的な写真のカメラ用のレンズとは違って、映画撮影のプロが使うために作られていて、そのために様々な部分が最適化されているようなレンズのことをシネマレンズと言います。例えば、一般的なカメラ用のレンズっていうと自動でピントを合わせる、オートフォーカスとか、そういった機構があると思うんですけど、映画のプロは全て自分の手で操作する。しかも動いてるものにピントを合わせたりとか、そういう神技みたいなのができるんですけど、それに対応できるようにリングがすごく滑らかに動くようにできていたりとか、いろんなところが最適化されているのがシネマレンズです。」

20221230h02.jpg

シグマが動画用のシネマレンズを開発することになったきっかけは、利用者からの声でした。シグマの写真用のレンズを、どうにか工夫して 動画撮影に使っていたユーザーから、「動画用のレンズをつくってほしい」というリクエストがあったのです。実に5年をかけて完成したシネマレンズ。その実力に ハリウッドの映画製作者が気づきます。そして、こんなリクエストが届きました。

2018年の7月頃にトップガンマーベリックの撮影チームから弊社のアメリカの子会社に連絡が来まして、まだその時タイトルもしっかり決まってなかったんですけど、ハリウッドで撮影してる大きな撮影に使いたいという要望がございました。

少し細かい話をしますと、元々、普通に売っているものを一部をテストして使ってくれていて、既に撮影が少しスタートしていたんですね。ただ、撮影にはカメラとレンズが通信する通信システムみたいなものがあるんですけどそれを、それがシグマのレンズには搭載されていなかったんです。他社のレンズには一部そういったものもありました。写りがすごくいいので、シグマのレンズを使いたい。でもその通信システムが付いていない。なので、その通信システムを端的に搭載してほしいっていうオーダーでした。」

しかし、そこには大きな壁がありました。開発期間として提示されたのは、わずか2ヶ月、だったのです。

「2ヶ月っていうのは、一般的なレンズの開発スケジュールからするともう全くフィットしてこない、非常にタイトなスケジュールだったんですけど。この間にエンジニアと私とで、工場で何日も泊まり込んで作り上げることができて、ここに関しては本当にうまくいってよかったなと私達も考えてます。もう夢に見てましたね。毎日レンスを組んで動作確認みたいなことやってたので、夢に見るんですよね。

ちょっと面白いのがあって、この2ヶ月という期間が2018年の7月頃なんですけど、2ヶ月後に納品して欲しいっていうオーダーだったんです。ちょうどその間、トム・クルーズさんが別の作品のプロモーションで世界中を飛び回ってるので、撮影がストップする期間だったんですね。2018年の7月といえば、ミッション・イン・ポッシブルのフォールアウトが公開されていて、その間で日本にも来てるんですけど、アメリカとかヨーロッパとかいろんなところ回っていました。なので、ちょうどこのレンズの開発期間がなんとか捻出できたっていうような、ラッキーな状況でした。」

なんとか開発し、納品したシネマレンズ。撮影中、トラブルもなく、無事『トップガン マーヴェリック』の撮影が完了しました。

「まず撮影が終わって無事に全部取り切ったって話を聞いたときは本当にほっとしました。2ヶ月でぱっと作って1本1本が試作品のような作りだったので、故障しないで全部撮りきれるかというところは非常に不安を持ってたので、そこはほっとしました。上映された作品を、もちろん私も見に行ったんですけど、自分たちの急ごしらえで作ったレンズがこの作品を撮ったんだなって。このシーンうちのレンズだなっていうのがわかったのは、もう本当に感動しました。具体的に言うと、トム・クルーズとヒロインのペニーが、2人でいろんなとこで話してるシーンがあるんですけど、あれで背景が柔らかくフワッとぼけてるシーンなんかはシグマのレンズで撮られています。あと、甲板を離発艦する戦闘機を外から撮ってるシーンはシグマのレンズですし、あとトップガンにエリートパイロットが集められてるシーン、そのグループを撮ってるのもシグマのレンズだなっていうのがわかっています。」

ちなみに、レンズのプロである若松さん、普段、映画やテレビドラマを見るときには、その映像がどんなカメラやレンズで撮影されているか、、、そうしたことが気になるそうです。

「作品を見ていても、正直、映画を見てると、どのレンズ・どのカメラ、そういった描写にばっかり目がいってしまってなかなか話が頭に入ってこなかったりとか集中できないことって多いんですよね。

ただ、トップガンマーベリックに関してはやっぱり映像も素晴らしかったですし、没入感がすごかったので、一時的に機材について考えるのを忘れるぐらい、感動して映像を見ているシーンが多かったです。」

シネマレンズのプロダクト・マネージャー、若松 大久真さん。最後に お話いただいたのは、今回、『トップガン マーヴェリック』にレンズが使われたことについての感想、そして、今後のものづくりについて。

「元々、実はシグマのシネマレンズってそういった本当にハリウッドの大予算のプロジェクトで使うことをメインとした製品ではなくて、もう少し予算の限られた現場ですとか、それこそ個人のカメラマンの方が買っていただけるような、そういった商品を、ターゲットに作ってきた製品なんです。なので、純粋にそういう写りを見ていただいて、選んでいただけたっていうのはもう本当にびっくりしましたし、本当に嬉しかったですね。

引き続き、そういった作品作りにメーカーという立場から貢献できるような製品を作りたいなと考えてます。あと特にシグマの製品に限って言えば、やはり会津工場で日本で作っていますし、いわゆる海外に工場がないんですね。なので、全ての製品がメイドインジャパンですし、だからこそできることも非常に多くて、この日本でのもの作り、あるいはその中にある匠の技みたいなものを感じられる、そういった強いオーラのあるような製品を作りたいなと思っています。」

株式会社シグマウェブサイト