調理道具の『おろし金』を極め、オロシニストと名乗る方がいらっしゃいます!浅草 合羽橋の料理道具専門店、飯田屋、飯田結太さんのHidden Story。

オロシニスト・飯田結太さんは、飯田屋の6代目。ご実家・飯田屋の仕事をする前は、IT系の会社を経営されていました。
「元々、飯田屋に入るつもりは本当に全くなくて、たまたま飯田に寄ったんですね。久しぶりに母親に会ったんですけど、そのときの母親がすごく弱々しく見えたんです。僕の母親ってすごく強い女性で、僕は弱音を言ったり弱い姿を見せている姿を見たことなかったんです。でも、そのときの飯田屋は、経営があまりうまくいってなくて、母も本当に連日働きづめで、すごくやつれて疲れているように見えた。その時でに、何か手伝えることないかな?もしよかったら一緒に働かせてもらえないかな?って口にしたのを覚えてます。」

飯田屋で働き始めた飯田結太さん。少しすると、改革に乗り出します。そのときの指針は【とにかく安いものを売る】。しかし、、、
「売り上げがどんどん上がるかと思ったんですよ。それこそ、間違いなくあの当時、河童橋で一番安いのは飯田屋だったと僕は断言できるんですね。でも、実際に店の商品の価格をどんどん下げてお客様がいっぱい来るかって思ったけど、全然来ないんです。」
合羽橋で一番安い値段、しかし、売り上げはあがりませんでした。途方にくれる飯田さんを救ったのは、ある出会いでした。
「実は、あるお客様との出会いがきっかけになったんですけども、そのお客様がある質問をしてくれたんですね。当時、飯田屋にはおろし金が3種類あったんです。大・中・小っていう。『そのおろし金の中で、どれが一番ふわふわな食感になるの?』って聞いてくれたんです。
僕、当時はたまたま家業が扱ってるに過ぎない道具で、大した興味もなかったんで使ったこともなかったんですよ。なのでわからなくて。でも時間を持て余してたんで、『良かったら使ってみますか?』って言って、当時、飯田屋の裏にはスーパーがあって、そのスーパーで大根の切れ端をもらってきて、お客様と一緒に使ってみたんです。
で、食べてもらったんですね。どれかふわふわな柔らかい食感になってるんじゃないかなと思って。そしたら、そのお客様から言われたのが、『なんだよ、どれも柔らかくないじゃないか。全然、ふわふわじゃないよ。』ってお叱りの言葉をいただくんですね。『俺さ、急いでないから、ふわふわになるおろし金が見つかったら連絡してくれよ。』って宿題にしてもらうんですよ。」
飯田さんは、さまざまなメーカーの『おろし金』を取り寄せて、自分で確かめます。
「こっちのおろし金にすると、ふわふわっていうかただ水っぽいだけだな。こっちのおろし金は、いつまでたっても全然おろせないな、すごい力がかかるなこれ、とか。その時、僕びっくりしたんですけども、1個1個のおろし金がもう全部個性が違って、全部使い勝手も違えば、全部同じ大根なのに味も違うんですよ。
こっちは辛くなるな。こっちはすごく甘くなったぞ。僕、すごいラッキーだったのが、たまたまその10種類ぐらいとり取り寄せたおろし金の中で、1個だけ他とはもうレベルが違うぐらい、ふわふわにおろせるおろし金があったんですよ。
『うわ、これだ。絶対これだ!』と思って、すぐお客様を呼んで、実際に食べてもらいました。そしたらそのお客様がもうおろし金で大根を吸って食べてもらった瞬間から『うん、うん!』って。ものすごいもう満面の笑みで『これだよ!これ!!』って言ってくれたんです。」

そのおろし金は、他のおろし金より高いお値段=5250円でしたが、お客さんは大満足。この出来事によって、安ければいい、というそれまでの考え方が変わりました。料理道具を詳しく知って、それをお客さんに伝えよう。飯田さんいわく、『人生を変えるきっかけになった』、というおろし金は、世界中の商品を集め、実に250種類をラインナップしました。
「250種類ある中でも、まだお客様のニーズを叶えられなかったのが、実は生姜だったんですよ。生姜が難しいのは、生姜はとにかく繊維質で繊維が強いのが原因なんです。生姜を下ろすとき、例えば和食の料理人の方だったら、1回普通のおろし金でおろした後、おろした生姜をわざわざまな板の上に乗せるんですよ。まな板の上で包丁でトントントントンと叩いて繊維を切るんですね。そのおろすのが難しい生姜の繊維。その繊維を全て断ち切って、口に入れて口どけするような、そんなおろし金ができないかなぁってずっと探していたんですよ。各おろし金メーカーにもこういうおろし金作ってくれないかな?作ってくれたらうち、すぐ仕入れるし、紹介したお客様いっぱいいるんだって言っても、やっぱりですね、なかなかそれを作ってくれるところがなくて、もう自分で作ろうかなと思って開発に乗り出したのが、飯田屋オリジナルの『エバーおろし』。」
飯田屋が独自に開発した おろし金『エバーおろし』。そのHidden Story。
「一般的なおろし金の歯って、トゲトゲしているトゲの構造物なんですよ。トゲだと繊維を断ち切ることはできないんですね。トゲじゃなくて、おろし金のあの1本1本のあのトゲを包丁を横に寝かしたみたいな歯の形状にしたらどうなるかなって。
実際に現存する西洋のチーズおろし金の形状って本当に細かいちっちゃい歯を1個のおろし金の板の上に無数に取り付けたような特殊な構造をしているんですね。
それを応用できないかな?っていうのが最初の発見でした。」
小さな刃をびっしり敷き詰めたようなスタイル。実は、この刃の角度も重要なんだそうです。この『エバーおろし』は、一般の家庭から ミシュランの星付きのお店まで、大人気になっている、ということ。
飯田屋の6代目、飯田結太さんに最後にうかがいました。飯田屋の今後、、、どんなことを考えていますか?
「万人に合う道具ってやっぱりないと思うんですよ。この人には使いやすいけども、この人にとってはすごい使いにくい道具。そういうふうに万人に合う道具はないけども、たった1人の目の前のお客様にぴったり合う道具は世の中に必ずあると思います。なので、これからもたった1人のお客様のために何か道具を作ったり、もしくは、世の中にある道具を探して繋ぎ合わせるという仕事をこれからもこれまで以上に突き詰めていきたいなと思います。
だから店舗いっぱい展開するとか、いっぱい売上を上げるとかよりも、たった一人の目の前のお客様に寄り添える、街の商店街の1店舗として、これからも営業できたらなと思います。

飯田屋では、飯田さんも店頭に週に5日は立たれているそうですし、そのほかのスタッフのみなさんも、詳しく相談にのってくれる、ということ。ちなみに、先程、「エバーおろし」という おろし金を体験させていただきましたが、実は、このたび、新商品、「エバーおろし プロ」が完成!
~レストランなどで、お客さんの前で、チーズやトリュフを削るパフォーマンスがしやすい形になっているそうです。12/13発売予定です!

詳しくは、飯田屋のオフィシャルサイトをご覧ください。
