今回は、金井真紀さんの新刊、【聞き書き 世界のサッカー民 スタジアムに転がる愛と差別と移民のはなし】この本に登場する世界のサポーターのこと、そして、さまざまな国のサポーターを取材してどんなことを感じられたのか? 金井真紀さんにお話をうかがいました。
現在は、文筆家、イラストレーターとして活動する金井真紀さんですが、以前は、テレビ番組の構成作家、リサーチャーなどを担当されていました。文筆家として文章を書き始めたのは、7年ほど前ということですが、そのきっかけはどんなことだったのでしょうか?

「以前、テレビの仕事をしていて、街の人の取材をするような機会が多かったので、いろんな人の話を聞くことを経験してきたんです。テレビで使う場所っていうのはいかにもテレビ的な面白い話っていうのがテレビに採用されるんですけど、そこからこぼれるちょっとしたエピソードとかちょっとした人生の断片みたいなのが私は好きだったので、個人的に書き留めていて。
あと、30代半ばぐらいに新宿のゴールデン街で手伝いをしてたんです。そこでも面白いことがいろいろ起きて、それも面白いから書き留めていたんですけど、そのお店がなくなってしまったので、ちょうど飲み屋さんに来ている編集者の人と相談して記念に書き留めたことをまとめようかっていうような感じで本にしたのが初めの頃です。」
では、今回、サッカーのサポーターをテーマにした本は どんな経緯でつくることになったのでしょうか?

「なんとなくその始まりのときからいろんな人の話を集めたいっていう願望だけがありまして。サッカーも好きですし、とりわけ応援する人っていうのに私は昔からすごく興味があって、なんなんだこの馬鹿馬鹿しい、応援してる人のバカバカしさというか、だけど愛おしいというか。サッカー場に行っても野球場に行ってもゲームを見るんですけど、それよりも応援してる人たちにすごく目が奪われて。なので、いつか応援する人たちの話を聞きたいなとはずっと思ってました。」
『聞き書き 世界のサッカー民』におさめられたエピソードの中から、ひとつご紹介いただきましょう。冒頭に入っているのは、イタリアのクラブ、フィオレンティーナのサポーターにまつわるお話です。
「これはティノさんっていうフィレンツェに住んでいて、フィオレンティーナっていうチームのサポーターです。イタリアのいわゆる武闘派で他のチームのサポーターと喧嘩する、喧嘩だけじゃなくて入ってこれないように妨害するとか、いろいろギリギリなこともやってるようなおじさんなんですけど。ただ、フィレンツェの郊外に住んでいて、どこの国でも同じかもしれないんですけども、郊外の団地っていうのは割と経済的にもしんどかったりとか移民が多かったり、失業率が高かったりとか。
そういうところにつけ込んでくるマフィアみたいなのがいて、危ない目にあったりするんです。そういう団地で若い人とかがもうギリギリの、なんていうのかな。麻薬とかに染まって人生が台無しにならないように、ギリギリのところでサッカーチームを応援するっていう暴れ方でちょっと発散するっていうか、団結するっていうか、そういう感じの側面もあるというのが、話を聞いていくとわかってくる、という感じで。」
世界には、本当にいろんな環境のもと 運営されているチームがありそのチームを応援するサポーターがいます。次のお話いただいたのは、南アフリカの、あるサポーターについて。
「ヨハネスブルグ近郊にあるソウェトっていう場所で生まれ育った方で、今もソウェトに住んでる方です。南アフリカでアパルトヘイトがあった時代に、白人と黒人は住む場所は分けられてたんですけれども、最大の黒人居住区だった場所がソウェトっていうところで、あそこに住んで育って、ソウェトでは人種差別に対抗するような抗議行動みたいなのがあって、それを高校生がやって殺されたりとか、いろんなひどいことがあったんですけど、そういう中で育ったっていう方で。ネルソンマンデラさんが27年間、牢屋に入れられて、そこから解放されて外に戻ってくるっていうときに、その時、高校生ぐらいでみんなでマンデラさんを迎えに行った話とかも聞かせてくれて。南アフリカは昔は黒人リーグと白人リーグでサッカーもわかれていて、本当にひどいことがいろいろあったんですけども、そのソウェトのチーム、カイザーチーフスっていうチームをずっと応援しているっていうおじさんですね。」
さらに、こんなチームについてもエピソードがおさめられています。
「スウェーデンリーグで、なぜかクルドのチームがすごい活躍してるって噂を聞いたんですね。最下部リーグだから上から8番目のところからプロに参入していって、最後は日本で言うと、J1まで登りつめて、今J2にいるっていうような感じだと思うんですけど、すごいクルドのチームがあるっていうのを聞いてて。前提として話しそびれちゃったんですけど、クルドっていうのは国がなくて、国を持たない最大の民族と言われています。元々、トルコとかイランとかイラクとかシリアとかあの辺に住んでたんですけども、後からその四つの国ができて分断されてしまって自分の国がなくなって、それぞれの国の少数民族みたいな感じで住まなきゃいけなくなって弾圧されたり、それで日本に逃げてきたクルドの方たちもそうやって2000人とかいるんです。だからクルド人っていうのは自分の国のチームがないので、ワールドカップに自分の母国が出る予選に出るっていうことすらないし、そういう人たちにとってそのスウェーデンにできたクルド人のチームっていうのがなんていうかナショナルチームの代わりというような感じで、その活躍をみんながすごく喜んでいて。」
クルド人のチーム、、、スウェーデンのウプサラ、という街をホームタウンにするダルクルド、というチームで、2004年に結成。いまは、クルド人だけでなく、さまざまなアイデンティティの選手がプレーしているそうです。
金井真紀さんに、最後にうかがいました。世界各地のサポーターを取材して、どんなことが強く印象に残りましたか?

「本当にいろんな背景を持ってる人、いろんな人生の局面にいる人が、自分も含めてですが、みんな週末になるといそいそとスタジアムにでかけたり、テレビの前で応援したりするっていうところだけが共通していて、そういうふうに世界中の人が週末になるとそういう応援するのに血道をあげてるのかなと思うと、なんかいいなって思いました。いろんな人がいる社会がやっぱり面白いなと改めて思いました。」
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