今回は、同時通訳者・田中慶子さんのHidden Storyです。

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これまでに テイラー・スウィフト、デビッド・ベッカム、U2のBONO、ビル・ゲイツ、台湾のオードリー・タン デジタル担当大臣 などの通訳を担当されてきた田中慶子さん。そもそも、通訳の仕事を始めたきっかけは、どんなことだったのでしょうか?

「きっかけは失業したことなんですよね。私は当時、NPOで働いていまして、自分も参加した国際交流プログラムでスタッフとして働いていたんですけれども、そのプログラムがある日突然、財政難で破綻してしまい失業をしたんですよ。かなりショックを受けて、それできることを何でもやってみようって思ったんですよね。すぐに再就職するとか、仕事を見つけるとかそういう気力がなかったので、とにかくできることをちょっとずつやって生活してみようと思って、少し元気になってきたぐらいに、『そういえば通訳ってちょっと興味があったから学校に行ってみよう』と思って通訳学校に行ったっていうのが、きっかけといえばきっかけだったんです。」

通訳の学校に通い、その技術を学んだ田中さん。そんな中、アメリカのニュースチャンネルCNNの英語ニュースの同時通訳について、オーディションの話が舞い込みます。田中さんいわく、『記念受験のつもり』で受けたところ、見事合格。CNNの放送を同時通訳する仕事が始まりました。経験も浅く、最初のころは...

「すごい大変でした、本当に大変でした。(笑) だからあの頃は、もう朝から晩までずっとCNN見てました。今、どんなニュースが流れてるのか、ニュースってどんどん新しくなっていくので、もう1秒たりとも逃してはならぬっていう感じで、本当に朝目が覚めてから夜寝るまでずっとCNNを見て、わからない言葉があったら調べてっていうことをやってましたね。」

放送の通訳をしているうちに、国際会議をはじめ、さまざまな通訳を担当するようになっていきます。レコード会社との関わりもでき、アーティストの通訳も担当されてきました。例えば、テイラー・スウィフト。

「テイラーは大好きです。何度かお会いさせていただく機会があったんですけれども、もう言ってみればスーパースターじゃないですか。でも、人としての人に対する接し方っていうのがすごくちゃんとした方だなというふうに思うんですよね。その場にいる人たちに対しても、必ずお礼の言葉、『本当に今日は時間をとってくださってありがとうございます。』とか『皆さんが頑張ってくださっているおかげで、私も本当に嬉しいです。』みたいな。

お礼の言葉とか、ちょっとした声をかけるとかっていうことをすごくされるんですよね。それもまたとってもチャーミングで、私のことも覚えていてくださって、2回目3回目にお会いすると、『また会えて嬉しい!』っていうようなことを言ってくださったりとか、あと着てる服とかも褒めてくれたりするんですよ『You look beautiful!』って言ってくれて。でも、テイラー・スウィフトに私が『Beautiful!』って言うのは、ちょっと何かが間違ってる感じがして私はすごい緊張してしまったんですけど。(笑)」

もうおひとり、この方にまわつるエピソードも教えていただきましょう。デビッド・ベッカム。

「ベッカムさんも本当にもうジェントルマンでめちゃくちゃ優しくていい人なんですよ。すごくイギリス紳士というか、優しいんですよね。だから同行させていただいてるんですけれども、私のためにドアを開けてくださったりするんですよね。『After You.』っていかにもイギリス人ぽい語尾をちょっと上げるアクセント。もうすごいなんとも素敵な言い方で『お先にどうぞ』って言ってドアを私のために持ってくださるんですよ、開けて。どうしていいのかわからず、もう『いやいや、とんでもございません!』みたいなこと言って、どっちが先にドアを通るかみたいなのでいつもゴタゴタしていました、はい。」

通訳者として数多くの仕事をされてきた田中さん。通訳をするときにこころがけているのは どんなことなのでしょうか?

「訳す上では、これは私の大先輩であり先生である方に言われたことなんですけれども、『What he said.』ではなく、『What He means.』を訳しなさいって言われたんですよね。つまり相手の言ってること、言葉をそのまま表面的に訳すのではなく、『What He means.』って相手が言わんとしてること、何を言おうとしているのかということを汲み取って、それを訳として訳出しなさいっていうことを、これはもう本当に、通訳の仕事を始めた頃か始める前くらいに大先輩に言われて。それはもうずっと私の中では通訳をするときの心がけみたいな感じですね。」

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田中慶子さんに最後にうかがいました。通訳の仕事の楽しさ、どんなところに感じていますか?

「いろんな分野の方々ですよね、ベッカムさんもテイラー・スウィフトもボノもオードリー・タンさんもそれぞれの分野で第一線で輝いてる方って、やっぱり学ぶことがすごく多いですし、それからその言葉に込められている想いっていうのもすごくご自身の生き方みたいなのが込められてるなって感じることが多いので、それを伝える仕事ができるというのはやっぱり、楽しいですし自分でも好きなんだなと思います。でも、名前がそんなに知られてない方とかでもやっぱり感動する話ってたくさんあって、そういうのも仕事の楽しみだなと思います。」

WEB サイト

田中慶子さんの著書「新しい英語力の教室 同時通訳者が教える本当に使える英語術」

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