今週は、あるお味噌屋さんをご紹介します。豊かな森と美しい水に恵まれた鳥取県八頭郡若桜町。ここで、全国でもまれな、天然の麹菌によって味噌づくりをされている方がいらっしゃいます。お届けするのは、【藤原みそこうじ店】の Hidden Story。

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藤原みそこうじ店の店主、藤原啓司さん。現在は鳥取県で味噌をつくられていますが、そもそも、味噌づくりの道に進んだのはどんなことがきっかけだったのでしょうか?

「発酵やお味噌について興味を持ったのは、本当に大学卒業してすぐです。大学時代に民俗学っていう学問を専攻してまして、日本の地方であったり離島であったりそういうところの行事とか風習とかっていうのを調べたりしてたんです。そういう日本で昔から繋がれている行事とかっていうのは基本的に全部、漁業であったり農業っていうものを中心に行われてたんですけども、そういう行事を今後も続けていく上で、農業の衰退が結構ネックになってくるのかなと思って、それで大学卒業後は農業法人さんに就職して、日本の農業を立て直したいなという思いで農業関係に入ったんです。その就職した会社が農業部門と味噌部門がありまして、たまたまこの人が足りてないんで味噌部門に配属されて、味噌作りを目の当たりにしてそこですごい衝撃を受けたっていうのがきっかけです。」

農業法人の味噌部門に配属され、味噌の奥深さに気づいた藤原さん。味噌について一から勉強したい、と考え、京都の老舗のお味噌屋さんに移り、そこで8年間 働きました。そして、2017年、独立することになるのですが、場所探しには、時間がかかりました。

「本当にどうやって移住をしたらいいのか最初は全然わからなかったんで、とりあえず車で地方・田舎の方走ってみて、本当に手探りで、とりあえず歩いている人がいたら、『味噌を作りたいんで田舎にいたいんですよ』って言って。でも、そんな歩いている人もそんなこと言われてもわからないじゃないですか。本当どうしたらいいのかな?ていう思いだけが先に立ってた感じです。でも最終的には大阪で移住相談会っていうのをやってまして、そこで自分たちこういう思いでこういう環境下で味噌を作りたいんだっていう話をしてたら、この若桜町の担当者が『それやったら、若桜はすごいぴったりだよ』っていうふうに教えてくれて。それで若桜町に連れて行ってもらって、水もすごい美味しいですし、僕たち畑とか田んぼもしてるんですけど、耕作放棄地も溢れているので自由に使えますし、蔵付きの物件があったりとかそういうのが全部マッチしてたんで、決めてからは結構早かったですね。」

鳥取県の若桜町に移住した藤原さん、次に準備しなければならないのは、味噌の原料 でした。

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「まず農家さんを探すところからはじめました。僕たち扱ってる原料はなるべく農薬と化学肥料を使わない原料を求めてまして、そういう農家さんも意外と田舎には少ないので、なるべく地元のものを使いたいですし、ちょっと足を広げて今は鳥取県、岡山県内の農家さんで約20件ぐらいの農家さんに支えられて、お味噌を作ってる感じです。若桜町って山に囲まれた集落なので、でっかい1枚の田んぼとかがないんです。ちっちゃい田んぼが山肌に無数にあるような感じなんで、農家さん自体も管理してる圃場はすごい少ないんですね。なので、やっぱりどうしても農家さんの数が増えてくるといいますか。その農家さんの数の分だけうちは味噌を作ってまして、なるべく農家さんが作った米と同じだけ、その農家さんが作った米と大豆で一つの味噌を表現したくて。」

藤原啓司さんによると、味噌の製造で最も重要なのは、麹づくり。蒸したお米に麹菌をつけて つくるのが、麹、ですが、【藤原みそこうじ店」の大きな特徴は、その麹菌を 自然の中から 採取していることです。

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「多分、野生菌を取って味噌にしているのはうちだけだと思いますね、全国を見ても。本当に蒸したお米を置いておくだけなんですけど、そうすると菌が降りてきてくれるんです。本当に嘘のような話なんだけど、でも本当に取り方はいたってシンプルで、そうやって取ってます。、麹菌が自然界に浮遊してるんでけど、蒸したお米を外に置いておくと、お米が餌なので、餌目掛けて降りてくるっていう感じなんです。でもそれがすごい難しいんです。自然界には麹菌以外にも無数の菌がいるので、麹菌をピンポイントに取ろうと思うとかなり難しいんですよ。僕たちも最初、半年間ぐらい採取するんですけど、ちゃんと取れるのは本当数回ぐらい。たまに、年に1回はびっしり麹菌だけ降りてくるときがありますが、それ以外のときは、本当に麹菌だけをピンセットでちょっとずつ取って集めていくっていう作業するんですけ。」

そして、その全国でもまれな、天然の麹菌を使って麹が作られるわけですが、蒸したお米に麹菌をつけて麹蓋、と呼ばれる箱に入れ、麹が育つのを待ちます。

「麹蓋で麹を作ってると2時間ごととか1時間ごとにその温度管理に行かないといけないんですけど、麹も生き物なので時間の経過とともに発熱するんです。発熱しすぎると良くない現象が起きるといいますか、その麹が酵素っていうものを出すんですけど、その酵素が一番住みやすい温度帯っていうのを保ち続けなければいけないんですけど、ほっておくと温度が上がるんですね。温度が上がってきたら今度はそれを冷ましてあげる。冷ましすぎたら今度また麹にとって良くないんで、下がってきたらまたその温度をあげるっていうのをずっと何日か繰り返すっていう感じです。これは『積み替え』って言いまして、木蓋を何枚も積み重ねるんですよ。熱は上に行きますので、上の麹蓋ほど温度は高くなるので、一番上のやつを今度一番下にやったり、下のやつを上にやったりとか。本当に置いている場所がちょっと違うだけで、その微々たる温度差が変化していきますんで、この麹蓋の状態の列をこっちに移動したりとか、本当にもう単純な作業なんですけど、移動か上下を積み替えるかどっちかだけです。空調の管理は一切しないですね。」

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藤原啓司さんに最後にうかがいました。これから、どんな味噌を作っていきたいと考えていますか?

「当たり前のものを作りたいっていう想いが一番最初にありまして、味噌って本当に米と大豆と塩だけでできるんですね。米と大豆と塩だけできるんですけど、米と大豆と塩だけで作ってる味噌がほとんどないんです。そのちゃんとしたお味噌を作りたいっていう思いがあります。しかも、スーパーとかに置いてあるお味噌っていうのは短期間で熟成されたお味噌なんですけど、本当の味噌っていうのは、冬場に仕込んで夏を越して約1年ぐらい熟成させて食べるもんなんですけど、このサイクルはすごい遅いんで、経営的にはなかなかそこまでやる味噌屋さんは少ないんです。なので、あたり前な原料を使って当たり前の作り方をしたいっていうのが第1にありました。ちょっと大きいことを言うようですけど、味噌は日本ならではの調味料なんで、それが少しでも多く食卓に上がって食べてもらえるような、そんな味噌にしたいと思いますし、お味噌の作り方で言ったら、なるべくその地域のこっている在来種。その地域に残ってる意味がある作物っていうのを、今後も残していきたいと思ってますので、それを味噌を通して魅力を伝えていけたらなっていうふうには思ってます。

藤原みそこうじ店ウェブサイト