今週 注目するのは、古本をノートとして再生した【本だったノート】。

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手掛けているのは、長野県上田市を本拠地に古本の買取・販売などを手掛ける バリューブックス という会社です。バリューブックス の神谷周作さんにお話をうかがいました。

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サイズとしては、文庫本と同じ大きさ。まるで本のように、カバーと帯もかけられています。中はノートになっているんですが、その紙に

文字のかけらのようなものが混ざっているページがあります。古本を再生した【本だったノート】。まずは、これを作ることになったきっかけを 教えていただきました。

「最初は、バリューブックスに本を売ってくださったお客様に年末年始の福袋企画としてコーヒー豆やビールをプレゼントしていたんですね。そのプレゼントのひとつ、つまりノベルティとして本にまつわるグッズを作れないかと考えたのをきっかけとして、【本だったノート】が構想として生まれました。

自分たちが本を扱う会社なので、本や紙にまつわるものを作れたらいいね、ということになり、その中の選択肢のひとつとしてノートを作ろうということになりました。そのノートの紙や仕様をどうしようかと考えているときに、同じく長野県に本社を構える藤原印刷という会社がありまして、そこの専務の藤原隆充さんに相談していたところ、その議論のなかで バリューブックス から日々出る古紙回収にまわす古本から再生紙を作ってノートにできないか、というアイディアを聞いたんです。」

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そして、そこにはこんな背景もありました。

「バリューブックスには、平均すると一日2万冊もの本が集まってくるんですけど、その半分、およそ1万冊がオンライン上で販売することができず古紙回収にまわっています。それらの本は決してボロボロというところに限らず、市場の需要と供給のバランスといいますか、市場にその本があふれかえちゃっていてやむを得ず古紙回収に回しているという現状があります。

その本はリサイクルに回っているという意味で必ずしも古紙回収が悪いわけではないんですが、もっと自分たちで何かできないか、と常々考えてきたなかで、その古紙回収に回す予定だった本を利用して何かできないですかね、というのを相談させていただきました。」

やむを得ず古紙回収にまわす古本から、再生紙を作ろう。では、その再生紙はどうやって作ればいいのか?藤原印刷の藤原さんが提案してくれたのは、大阪にある山陽製紙という会社でした。

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「実は、山陽製紙さんも初めての取り組み、ということで、『やってみます』という前向きな声はいただいたんですけど、具体的にこういうものができます、というのは未知数なところからのスタートでした。

実は、【本だったノート】の最大の特徴といいますか、文庫本から作られた紙なので【本だったノート】の紙には、ときどき文庫本だった名残が感じられる文字のかけらが残っているんですね。それが特徴だと思っているんですが、山陽製紙さんは初めてその紙ができたとき、不良品ができてしまったと思ったらしいんです。おそるおそる『字が混ざってしまったんですけど』とご連絡をいただいて、ただ、僕たちとしては本だった名残を感じられる紙が作れた、ということで、それすごくいいじゃないですかと。偶然の産物ですが、最大の特徴の紙ができたなと思っています。」

古本は、大阪の山陽製紙で再生紙に加工され、今度は、長野の藤原印刷で、印刷がおこなわれます。

「通常、印刷というのは、指定の色だったり、理想の色を印刷するためにインクを調合しながらテスト印刷をして濃度調整をしているんです。ただ、【本だったノート】は濃度あわせをしない・調整をしない印刷をしていて、いろんな色を混ぜてグラデーションのカラー印刷をすることで、まず調整用の紙が必要なくなる、というエコな部分と、あとはどんどんグラデーションで違う色の表紙・印刷が生まれるので、クリエイティブな点というのも両立させているのも特徴だと思っていて、そこが藤原印刷さんならではの印刷だなと思っています。あと、印刷には捨てられるはずだった廃インクを使っています。」

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古紙回収にまわさざるを得ない古本、毎日およそ1万冊を、何とか 古紙回収ではない形で、新たな価値を持つものとして再生したい。そんな想いから誕生した、【本だったノート】。商品が完成した今、バリューブックスの神谷周作さんはどんな感想をお持ちなのでしょうか?

「本というのは不思議なもので、本を作った書き手の人はもちろんありますが、読み手の想いもこもったものだと思うんですね。そういう『本』という、誰かが大事にしたものをやむなく手放されて、本ではなくなったとしても別の形に生まれ変わる。そういうものを作れたのはよかったなと思っています。

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あとは【本だったノート】のもとである紙を活用してくださる企業さんやクリエイターさんが出てきたらいいなと思っていて、例えば文具メーカーさんだったらこの紙を使ってレターセットを作ったり、和菓子屋さんだったら包装紙に使われるというような、いろいろな活用法が生まれたらいいなと考えています。実際に都内のB&Bという本屋さんでは、その紙を活用してブックカバーを作ったり、ギフトの梱包用紙として使っていただいたりしています。」

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