今回は、視覚に障がいのある方の歩行を、足に振動を与えることでサポートするナビゲーションシステム、【あしらせ】のHidden Story。

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【あしらせ】。装置の見た目は、靴の靴紐を結ぶ部分に小さな四角い箱を取り付け、その箱から柔らかな細長い素材がのびていてそれを靴の中に入れ、かかとから、足の外側の側面、そして足の甲へフィットさせます。これをスマートフォンと連携し、足に振動を与えて、歩行のナビゲーションをする、というのが【あしらせ】。

「私達が基本的なオペレーションとしているのは、例えば、まず右の足の甲か左足の甲のどちらかが振動したりしています。これによってこの先の曲がり角をどっちに曲がっていくかっていう情報が得られます。あとテンポという情報があります。テンポというのは何を表現してるかというと、その曲がり角までの距離が遠ければ遠いほどゆっくりな振動になっています。例えば40・50メーターぐらいであればゆっくりのテンポのものが振動しています。そこから歩いていってですね、周り角に近づいていくと、これが1秒間隔ぐらいになっていて、そろそろ曲がり角なんだっていうのが直感的に理解できると。実際に、曲がり角に差し掛かったときに、全体を連続DE振動させて通知してから、曲がりきるまでこれが続いて、その後、曲がりきったなと思ったら次の指示に切り替わっていくっていうようなオペレーションが一般的なオペレーションになっています。」

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お話を伺ったのは株式会社Ashirase、代表取締役の千野 歩さん。足に振動を与えて、それによって歩くことをサポートする、ということなんですが、では、そもそも、こうした機器を開発しようと思ったのはどんなきっかけからだったのでしょうか?

「私の前職が自動運転とか、電気自動車の制御というようなことをやっているエンジニアだったんですが、3年前ぐらいに妻のおばあちゃんが歩行事故で、川に落ちて亡くなるっていう事故があったんですけ。やはり高齢だったので、目が不自由とか、そういったところもあって、足を踏み外したんじゃないかというようなお話があって、視覚障害っていうキーワードであったりとか、歩くといったところをキーワードに開発できることってはないか、ということで考え始めました。」

当時、Hondaでエンジニアとして働いていた千野さん。視覚障がいのある方をサポートするものを開発したいと考えました。

「仮想的に点字ブロックが作れないかっていうところからスタートしたんです。これを現実的にやろうとしたらどういう手段があるのかなっていうので、インフラをその大きく変えていくっていうのはちょっと難しいかもしれないと。じゃあ、例えばそれがICTとか、そういった身に着けるデバイスとして何かできることはないかな、ということで、例えば、音声ナビゲーションとか手に振動を与えたらどうなるんだろうとかいろいろ試していきました。視覚障がい者の方を僕は全く知らなかったんですが、やっぱり安全確認に多くのインターフェース使ってるなっていうのがありました。例えば視覚障がい者であれば、聴覚が非常に敏感に使われてたり、白杖と呼ばれる杖とか盲導犬とかそういったものを引っ張るための手へのインターフェースっていうところ。すごくいろんなところを駆使しながら安全を確認されてるってのがわかってきて、そういったところでやはり安全を確認しているときに、そこを邪魔するとやはりなかなか新しいものを受け入れてもらえないんじゃないかとか、その安全といったところを最優先に考えたときに、違うアプローチがあるんじゃないかと。じゃあ、体のどこなら感じ取れるのかといろいろやっていくと、顔とか手の次に神経が表面に出ていて、振動を感じ取りやすそうなのは、足の甲っぽいみたいなところで今の形になりました。靴の中に立体的に、踵とか側面とか足の甲とかに振動を与えるという形になっていったと。」

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ポイントとしたのは、『直感的に、無意識的に感じられる方法で、歩く方向をナビゲーションすること』。 それができれば、これまで安全確認に使ってきた、聴覚や手の感覚などを邪魔しない。そこで考案されたのが、足に振動を与えることでした。今年度中のサービススタートを目指して、現在も開発が進められている、ということなんですが、特に難しいのは、どんなところなのでしょうか?

「日本の交通というか歩道の環境というのは千差万別というか、すごい綺麗に碁盤の目のようになっている道もあれば、ぐちゃぐちゃなところもあったりするんですね。それを全て網羅的にこうできるよねっていうふうにすると、やっぱりどうしても時間がかかるんです。僕らとしてはそういった、ナビゲーションとしてわかりにくいときには、例えば、方位でうまく進むべき方向を伝えてもらえるように足でトントンってすると方位を教えてくれるみたいなのも今は入ってたりするんですけど。そういった全てのナビゲーションの品質を100%取りに行くというよりは、もちろん駄目なところをアップデートしていく前提ですが、その駄目なときにも別の方法でやれるっていうな形で、まず社会に早く実装するといったところを優先することで視覚障がい者の方と一緒に作り上げていくというか、彼らにとって本当に価値のあるものにしていくっていう方が優先かな、というふうにして、今、方針を決めて開発を進めているような状況です。」

株式会社Ashirase、代表の千野 歩さんに最後にうかがいました。【あしらせ】のヴィジョン、どんなことを思い描いているのでしょうか?

「僕はこの社会福祉みたいなところでは人の欲望ってすごいたくさんあると思うんです。僕も1人で他の人に知られないで、ラーメン屋で背アブラっぽいラーメン食べたいとか、あったりするので。(笑)そういったのも、やっぱり彼らが新しいところに行こうとするときに、どうしてもヘルパーさんがいないといけないとか、家族同伴でないといけない。そういった普通に僕みたいな人が自由にやれていることが、どうしてもそこを我慢しないといけないとかがあったりするんです。

まずは、彼らがどんどん自立的になったりとか、そういった自律的な人を応援していけるようなプロダクトに、ちょっと差し出がましいところもあるんですけど、なっていけたらなというふうに思っています。そのときに、視覚障がい者単独といってもやっぱどうしても困ったときに、社会の人の優しさとかそういったところで助けられる部分もあったりするので、そういう人のコミュニケーションといったところもうまくプロダクトの中にも組み入れたいと思っています。優しい社会に貢献できるようなところがあればいいなと思っているので、そういった活動もあしらせとしてはしていけたらなというふうに思っています。」

あしらせウェブサイト