2021年 最後にご紹介するのは、映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』で、畳がつかわれた東京都 荒川区 西日暮里の畳屋さん、【森田畳店】のHidden Story。

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森田畳店は1933年創業で、今回お話をうかがった森田隆志さんは3代目。1983年、19歳のころ、家業を手伝う形で畳の仕事を始めました。

「まず僕が1983年にうちの家業を手伝うことになったきっかけですが、うちに、いま職人さんがひとりいるんですけど、もうひとり職人さんがいたんです。でも、その人が交通事故で体が動けなくなってしまって、ちょうどそのとき、仕事がめちゃくちゃ忙しいときで、もう何でもいいから手伝ってくれってことで始めたんです。そのときはまだ畳の仕事がいっぱいありまして、それから83年から1990年くらいまでは黙ってても仕事が入ってくる、という状態が続いたんですが、1990年を境に少しずつ、畳の部屋からフローリングに変わって畳が捨てられたり、新築物件に畳の部屋がなくなったりとか、それでだんだん危機感を覚えはじめて。」

畳をめぐる状況が激変した90年代、危機感をおぼえた森田さんはまだ始まったばかりのインターネットに挑戦。友人の協力もあおぎながら、ウェブサイトを作りました。これが、海外への扉となったのです。1999年、輸出第一号は、オーストリアに暮らす日本人からの注文でした。そして、2002年、イギリスでインテリアを扱う日本人の方と知り合い、イギリスへの畳の輸出もスタート。そんな中、エンターテイメントに関わる依頼が届くようになります。

「最初の問い合わせが、『ラスト サムライ』の美術監督の方がメールで問い合わせしてきて、うちの店にも来て、そのときは"家紋べり"というお寺についているような家紋のへりのサンプルがほしい、ということで、いろいろお渡しして。そのときはそれだけでうちは全然関係ないんですけど、あとは、『ゴースト・イン・ザ・シェル』という攻殻機動隊の実写版に畳のへりを500畳分くらい送ったり、『47RONIN』 というキアヌ・リーブスの映画にも見積もりだけして結局決まらなくて、それは送ってないですね。あとは、『007』にこないだ送りましたね。」

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そう、映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』で使用される畳。実に、112枚を送られたそうですが、、、この依頼は、いつごろ、どのように届いたのでしょうか?

2019年ですね、2年前の6月の末くらいに、2002年くらいに取引を始めたイギリスの業者さんから連絡があって。メールの表題に、多分007の美術担当の方の名前があって、うしろにかっこで007と書いてあって、それが007と気づかずに作っていて、作っている途中にイギリスの方と電話で話しているときに、『これジェームズ・ボンドよ』といわれて、『あ、そうですか』ってびっくりして送ったんですけど。わりと頻繁に、週に何回か電話がかかってくるので、そこで話してて、『え??』って感じでしたね。メールの本文には、007もジェームズ・ボンドも書いてなくて、映画の撮影用としか書いてなかったのでなかなか気づかなかったんですけど、電話で話しているときに気がついた、という感じですね。」

森田畳店に届いた、映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』からの畳の注文。90センチ×180センチの畳で、畳表は日本の天然のい草を使ったもの、ふちは黒、というオーダーでした。

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「一応、天然いぐさと言われたんですが、撮影用だと荒く使うこともあるだろうし、和紙素材も結構丈夫なのでそっちもどうですか?とその業者さんとも話して勧めたんですが、向こうの美術監督の方が、やっぱり本物がほしい、ということで天然のい草になりました。僕も映画を見て、なるほどなと思ったんですが、割と畳のアップが出てきたりしてたので、あのアップを考えると、天然の本物じゃないとだめなのかなと思いましたね。日本で公開する何ヶ月も前から敵役のサフィンが座っている写真が出回っていて、その下に畳が敷いてあるのは分かっていました。ここに敷いてあるのは随分前から分かっていたんですが、ただ、007、ジェームズ・ボンドがあることをするシーンがあって、そこで畳表のドアップがどんと出てくるんで、映画館で見てても、座席から滑り落ちるくらい驚きましたけど。」

さあ、森田畳店の3代目、森田隆志さん、実はいま 着手し始めたことがあるそうで、最後に、そのプロジェクトについて教えていただきました。

「実は今、始めたことがあってですね、世界で柔道とか剣道とかやられている方が世界に多いんですが、そういうところで武術用の畳を欲しがっている方が多いんです。それを日本で買うと割と高いので、なかなか海外で手に入れるのが難しいんですが、それを今といろんな方と協力しあって、日本で使われなくなった柔道畳をうちで引き取って、ほしい方に送ってあげよう、という話を進めています。実際に10年ほど前にネパールとブータンに送ったんですが、またこれをやってみようかなと思って動いています。新品で買うとかなり高額になるので、中古の畳を用意して、ちょっと掃除してあげたりとか、糸がゆるんでいるところは縫ってあげたりして、うちの倉庫に保管しておいて、必要なところがあれば、条件がそろえば送りましょう、っていう感じです。」

森田畳店ウェブサイト