今回は、視覚に障害のある方だけが所属する【みみよみ ナレーション事務所】のHidden Story。今回は、みみよみナレーション事務所の代表、荒牧友佳理さん、そして、みみよみに所属するナレーター、北村直也さんにお話をうかがいました。まずは、なぜ、みみよみを立ち上げようと考えたのか?荒牧さんに教えていただきました。

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「荒牧:私、実は両親がふたりとも全盲で視覚障害者コミュニティの中で大きくしていただいた、というのがあるんです。その中で視覚障害者ってみんなが思っている以上にいろんなことができるのに、それが知られてないな、というのは私の人生の体感として思っていました。

私自身、みみよみを始めようと思ってデータを見て驚いたことがあって、視覚障害者の6割が同じ仕事についていて、それは、あんま、鍼灸、マッサージの仕事をしているんです。うちの両親もそうで、周りの人はみんなそうだったんじゃないでしょうか。なので、何かできればいいなというのはずっと思っていたんですが、視覚障害者って目が見えない分、声を、言葉を丁寧につむいだり、説明が上手だったり、行間を読むような表現の仕方が上手だというのがあったので、それをいかしたナレーションというのがいいんじゃないかなと思ったのがきっかけです。」

さらに、荒牧さんが【視覚障害のある方にナレーションの仕事を】と 考えたのには、こんな背景もありました。

「荒牧:コロナ禍になって、あんま・鍼灸・マッサージだと、実際会社に行って体に触れないとできないので、困っている人が多い、という話を聞いたり、あとは電車のホームの転落事故も毎年必ず問題になったりするんですよね。そういうこともあって、在宅でもできる仕事は何かあるんじゃないかなと思ったのもきっかけで、ほんとにいろんな複合的な、コロナがあったり声のこと思いだしたりとか、そういう感じですね。」

荒牧さんは、以前から ナレーターをはじめ 声の仕事をされていた北村直也さんに みみよみへの参加を打診します。ちなみに、北村さんが声の仕事をしようと思った理由は、

「北村:元から演劇だったりとか、演じることが好きだったんです。ただ、やっぱり普通の演劇だと、動きがあるから難しいというのがあって、だったら声の仕事だったらできるかなと思ったのがひとつ。でも、実際に映像にあわせるのが難しいので、視覚に障害を持った声優やナレーターを、業界の第一線で活躍されている方も存じあげなかったので、だったら自分が目指そう、世界初の視覚に障害のある声優になってみよう、というのがきっかけですね。」

北村さん、仕事の際は『点字ディスプレイ』という機械を使われています。ワードやPDFの書類を読み込み、そこにある文章を点字で表示、それを指先で読み取る、という機械です。

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視覚に障害のある方だけが所属する「みみよみ ナレーション事務所」。基本的には、依頼があったナレーションを、ナレーターのみなさんが自宅で録音、編集し、データで送信、というスタイルで仕事をおこなわれています。 現在 所属されているナレーターは、5名ほど。

「荒牧:まだ大学生の女の子もいたりとか、子どもを育てるお母さんがいたりとか、親の介護をしながらナレーションの勉強をしているとか、ほんといろんな状況で、いろんなところに住んでいます。でも、声の仕事にあこがれがあってずっとやってみたかったとか、こういう【みみよみ】みたいなものがなかったので、毎週公民館で読み聞かせの練習をしていたとか、本当に彼女たちの情熱にいつも胸を打たれています。

ただ、ひとりでナレーターをフリーでやっていくのは難しくて、収録することはできても、請求書を作るとか、目が見えていたら簡単なことが難しかったりするんです。そこで私が間に入ることで、ちょっとした雑務を私が引き受けることで、その才能と企業がつながっていくのは本当に嬉しいですね。」

みみよみの代表、荒牧友佳理さん、そして、ナレーター、北村直也さんに最後にうかがいました。 今後について、どんなヴィジョンを持ってらっしゃるのでしょうか?

「荒牧:これから将来どうしようかなと思っている子どもたちに、ナレーションという仕事もひとつあるんだよという未来を提示できるようになっていきたいですね。障害って誰もが持つ可能性があるじゃないですか。でも、障害を持ってもそれで終わりではなくて、そこからまた新しいことができたりとか、活躍できる社会になっていくと、純粋に楽しいだろうなと思うんですよね。そういう世の中になるように私とか北村でできることがあれば少しずつでもやっていければと思っています。

北村:やっぱり、これから職業、趣味などでいろんな生き方の選択肢が出てくると思うので、そこが障害があるからといって、他の障害の方も含めて狭まることがないように、証明していきたいと思っています。」

みみよみ ナレーション事務所