今回はクリープハイプ、3年3か月ぶりのニューアルバム、【夜にしがみついて、朝で溶かして】のHidden Story。

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クリープハイプのボーカル・ギター、尾崎世界観さんにお話をうかがいました。まずは、アルバムに先行して発表されたナンバー、『ナイトオンザプラネット』。この曲は、どうやって生まれたのか、教えていただきましょう。

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「これは去年の2月の末に初めてライブが延期になってしまった日に作りましたね。なんとなく『今頃、ライブやってたんだなぁ』と思いながら、開演時間、7時過ぎぐらいです。ギターを持って、この曲のサビを作りましたね。 『夜にしがみついて、朝で溶かして』の部分。普段あんまそういうことしないんですけど。あえてライブが中止になったからって無理に曲作ったりしたくないなって、天邪鬼な性格なんですけど、その時はやっぱりそうせずにいられなかったので、曲を作りました。曲ができて、そんなに派手なメロディーでもないんだけど、ちょっと今まで行けなかったところに連れて行ってくれそうだなっていう感覚がありましたね。」

曲のタイトル、『ナイトオンザプラネット』。これは、ジム・ジャームッシュ監督による1991年の映画と同じタイトルです。そもそも、バンド名=クリープハイプの「ハイプ」は、この映画の中のセリフからとっているそうですが、今回、曲のタイトルにしたのは、どんな理由からなのでしょうか?

「ずっと好きな映画、あとはみんなが圧倒的に一番好きって言わない映画じゃないですか。結構みんな見てるけど、確かにいい映画だったよねっていう、そういうところも好きなんですよね。なんか、クリープハイプっぽいなというか、その立ち位置、、、自分で言うのも変ですけど。確かに、あのバンドそうだね、いたねっていう。もっと売れたいんですけど、でもすごい共感するんですよね。シンパシーを感じるというか、この映画に。みんながちょっと忘れてて、でも、よかったよなっていう。本当に絶妙な作品ですよね。その感覚がすごいいいなと思って。忘れてたことを思い出すというのはすごい魅力的な行為だと思っていて、今回のアルバムの4曲目に入っている『四季』という曲でも、「忘れてたら忘れてた分だけ思い出せるのが好き」っていうフレーズがあるんですけど、それもそこと繋がる歌詞なんですけど。忘れるってことは悪いことではなくて、忘れるということは思い出せる可能性が出てくるから、自分の中では結構、前向きなことだなと思ってますね。」

尾崎世界観さんは、文章も書かれていて『母影』という小説は、芥川賞の候補にもなりました。文章や歌詞は、どうやって書いているのでしょうか?

「普段から友達と飲んでるときとかもずっとくだらないダジャレみたいなのを言うんです。何かその言葉にかけたことを言っていて、ここで流せないぐらい、しょうもないことばっかり言ってるんですけど。そういうところを磨いてるだけで、元は全部僕の歌詞もそうなんですね。メモにはすごく恥ずかしい、見せられないような言葉が結構並んでて、それを歌詞にしていく段階で、精度を上げていくっていう感覚ですね。iPhoneのよくあるメモの機能。あれで全部書いてます。小説もそうなんですけど、あの改行とか、ひとマス開けたりする感覚が自分にはしっくりくるので。パソコンだとなんかちょっとでかいんですよね、自分には。言葉が出てくる瞬間を可視化するときの感覚が、パソコンで見るのと、スマホで見るので感覚が違うんですよ、自分の中で。もっと手の中にあってくれた方がいいというか。もっとちっちゃいものというか、ちっぽけなものの方が、自分の中では大事な言葉になりやすくて。」

アルバムには、尾崎さんの語りで進行する『なんか出てきちゃってる』というユニークな曲も収録されています。【偶然ネジがゆるんで、なんか出てきちゃってる】という内容の曲ですが、、、

「そうですよね、なんか変な曲ですよね。アルバムの中で1曲変な曲を作るっていうのを毎回やってたんですけど、今回本当に変な曲ができましたね。何も言ってないんですよねこの曲。(笑)

でも昔、アマチュアのときはこんなことばっかり考えてたし、こんな歌詞ばっかり書いてたので。久しぶりにこういう歌詞を書いて。3分ぐらいでバッと、それもiPhoneのメモに言葉を書いて、レコーディング当日に音ができたときに、なんとなくそれを見ながら喋っていきました。だから、あんまり何も決めずに、作った曲ですね。でも、こういう曲を作れるからアルバムを出すべきだなと改めて思いましたね。アルバムじゃないとこの曲の居場所がないし。こういう曲をやるために、普段真面目にやってるのかもしれないと思いましたね。」

アルバムのラストトラックは、『こんなに悲しいのに腹が鳴る』。リリックの完成が 相当ギリギリになったそうですが...

「本当にこれはまずいと思って書いた曲が何曲かあるんですけど。スタジオについて、音を録り始めているのに、まだ自分が書いていたりする状況にもだんだん慣れてきてしまって、何かそういう感覚にも近いですね。どんなにやばくても腹が減る。どんなに悲しくても腹が減るっていう。」

バンドとしてこれまでやってこなかった音作りなど、新しいチャレンジにも取り組んだニューアルバム、【夜にしがみついて、朝で溶かして】。尾崎さんいわく、「迷いながら作った。でもそこがいい。僕は、迷いがないものは こわいと感じる」。これは、どういうことなのでしょうか?

「なんでしょうね、やっぱり迷いがないと可能性がない気がしますね。自分がやれることの全てって、それ以上返ってこない、余白がないというか。何かが入ってくる隙間がないというイメージですね。そうなってしまうと、自分が想像しているところまでしか返ってこない気がして。あと迷いがないと何かが入ってきたときに受け止められないと思うんですよね。迷ってる分わからないなっていう部分があると、なにか予期せぬ反響が来たときにそれをあえてしっかり受け止められると思うので、それがまた次に繋がると思うし。今はそう思ってますね。あとは実際、迷ってない人に魅力を感じないですね、僕は。こうですよっていう意見をはっきり言える人の話にあまり共感することがないので、やっぱり自信しかない人よりは、自信もあるけどちゃんと迷ってる人の話の方が自分に響いてくるので、自分もそうでありたいと思いますね。」

ちなみに、この曲『こんなに悲しいのに腹が鳴る』はフェイドアウト=音がだんだん小さくなっていく形で終わります。アルバムの最後がフェイドアウトで終わることについてもコメントいただきました。

「そうですねちょっと古いんですよね、この曲。イメージ、イントロもちょっと90年代みたいなイメージで、最後フェードアウトで終わるのも、ちょっと昔っぽい感覚でやってますね。可愛げがありますよね、フェードアウトアウトって。ちょっと隙がある感じがして好きなんですよね。かわいいなって感じがして、めちゃくちゃかっこよくないじゃないですか。いや、格好つけてるのか。でも、なんか、どうなんでしょうね。自分は何か、かわいらしいって感じがしますね。」

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クリープハイプウェブサイト