今回は2012年から2018年まで、ソニーの社長 兼 CEOを務め、現在はソニーグループのシニアアドバイザー、平井一夫さんのHidden Story。

平井一夫さんは、1984年、CBS・ソニーに入社。1994年にアメリカのニューヨークへ転勤。これは、久保田利伸さんが全米デビューに向け現地でレコーディングをされていた頃ということで、音楽ビジネスでの渡米でしたが、このあと平井さんはあの『プレイステーション』を扱う、ソニー・コンピュータエンタテインメント・アメリカの社長をつとめることになります。

「当時、私がトップをやってくれという話があったときに、プレイステーションは大変素晴らしい商品で在庫切れでお客様にご迷惑をおかけしてしまう状態だったんですが、その商品を実際にマーケティングして営業する組織がバラバラで、一言でいえば、組織として機能していなかったんです。まず手を打ったのは、自分で現場を回る、もしくは社員と対話をして、今自分が任された会社がどのような状況なのか把握することでした。

一番むずかしいなと思ったのが、音楽業界から来ている、日本からの赴任者である、初めてのマネージメントのポジションである、という3つのマイナス要素があるなかで、いかに社員の信頼を勝ち取るかが大事だと思いました。社長の言うことだから聞け、ということではなくて、人格で仕事をしなければいけないと思ったので、人格を認めてもらうためには、対話をして、丁寧に説明をして、会社をいい方向に持っていくということをしなければ、アウトサイダーでしたからそこをあえて対話をすることでいい方向に持っていけたなと思っています。」

2006年、平井さんは、ソニー・コンピュータエンタテインメント本社の社長に就任。しかしこのとき、ソニー・コンピュータエンタテインメントには問題が発生していました。  

「一番大きな問題となっていたのは、当時発売して間もなかったプレイステーション3。こちらは素晴らしい商品だったんですが、コストがかなり高くて、ビジネス的には苦しい状況となっており、私が社長に就任した年度には確か2300億円の赤字を出すことになってしまいました。

これはソニー・コンピュータエンタテインメントのみならず、ソニー本体の利益にもかなり大きな影響があった、という中でスタートしたポジションだったんです。まずはどういう風にプレイステーションのビジネスを立て直すか考えたときに、ここでもやはり、マネージメントチームの方々と毎週10人くらいかな、お会いして話を聞いていきました。

その中で『平井さん、このプレイステーション3とは何なんですか?』という質問を受けたんです。というのは、ゲーム以外にもブルーレイの再生ができる、ネットワークを介して様々なコンテンツを楽しむことができる、素晴らしい機能がついていたんですが、それが逆に【プレイステーション3】はどんな商品なのか定義がブレていたので、いろんなことができるんだけど、『【プレイステーション3】はゲーム機であります』と。」

プレイステーション3、日本での当初の販売価格は4万9980円。1台売るごとに赤字が積み重なる状態だったそうです。平井さんは、『プレイステーション3はゲーム機である』と定義づけ、このあと数年かけてコストダウンを徹底。ソニー・コンピュータエンタテインメントを立て直しました。2012年、平井一夫さんは、ソニーの社長兼CEOに就任。しかしこのとき、ソニーは、4年連続で赤字。2011年度は過去最大、4550億円の赤字を出していました。平井さん、またしても、逆境に立ち向かうことになります。

「一番大きな不調はエレクトロニクスビジネス全体だったんですけども、その中でもテレビ事業はたしか8年連続で営業赤字を出していたので、テレビを中心としたエレクトロニクスビジネスがかなり苦戦をしていたというのが、私が就任した2012年のソニーの状態ですね。

自分に自信があったというよりは、どちらかというと、副社長の時代、EVPの時代からいろんな形で社員と対話をしていたんですが、この会社はこのままでいいと思っているという人は誰もいなかったので。社員のみなさんも、もっともっとお客さんに喜んでもらえる商品を出せるはずだという情熱みたいなものを感じていました。

まずソニーの社長になってから、ソニーはエレクトロニクス、ミュージック、ゲーム、テレビのビジネス、日本では金融ビジネスも展開しています。各ビジネスがいろんな方向にむかってそれぞれビジネスをして、ソニーグループとしては何をする会社なのかが定義されていなくて、まず、ソニーというのは、『KANDO』を届ける会社なんだと定義づけまして、そのメッセージとともに私は全世界を回りまして、タウンホールミーティングといいますが、社員やマネージメントと対話をして、ちょうど6年間、社長兼CEOをやっていましたが、だいたい月1回、日本国内か海外のどこかでタウンホールミーティングをして社員と対話して、自分の考えを直接お話するということをまずやりました。」

この対話とともに、例えばエレクトロニクスの分野では量よりも質を追求したものづくりに転換するなど、徐々に黒字化を達成。平井さんが社長を退任された年は、過去20年間での最高益を出すことになりました。 現在は、ソニーグループのシニアアドバイザーを務める平井一夫さん。これからやっていきたいと思っているのは、どんなことなのでしょうか?

「今、私の活動として大きな時間をさいているのは、4月に立ち上げた一般社団法人『プロジェクト希望』です。その社団を通じて、日本における教育格差、特に、経験の格差、恵まれないお子さんたちは、例えば、ご両親と遊園地に行ったとか、野球の試合に行ったとか、コンサートに行ったとか、体験ができていないということがあるので、体験の格差を是正していきたいと思っています。日本の場合は、7人にひとりの子どもが相対的に貧困であるというデータもありまして、その体験の格差を是正していきたいと思います。自分がエンターテイメントのバックグラウンドがありますので、そういったエンターテイメントを含めた感動体験をお子様に提供できたらいいなと思いながら、まだまだ少人数で始めた団体なんですけども、いろんなチャリティイベント、いろんなチャレンジをしていきたいなという風に考えています。」

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