今週は、Official髭男dismのニューアルバム【Editorial】のHidden Story。

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語ってくれるのは、藤原聡さん、松浦匡希さんのおふたりです。まずは、アルバムタイトル、1曲目のタイトルでもある【Editorial】について、教えていただきます。

「藤原:【Editorial】は新聞の論説欄というか、事実を発しながらもその編集されてる方だったりとか新聞の会社として何を問題に思い何を語るのかって言うところが各社の裁量に任せられているような部分があると思うんだけど、そこにシンパシーを感じた楽曲が多かったという事はあるのかなと思います。

2019年あたりからこのバンドのことを知ってくださる方がたくさん増えていただいて、自分たちのやりたい音楽と求められている音楽ってどういう関係にあるんだろうとか、そういうことを頭で余計に考えてしまった部分が多少あったかなと思って、そことの向き合い方っていうのは結構楽曲にリアルに現れているのかなと思ったりもして。曲作ることって一筋縄では全然いかなかったし、そうでしょ?

松浦:そうですね。

藤原:一筋縄でいかないところに面白みや愛着や、自分が何を思っているのかっていうのを曲に教えてもらったりする。生きていてもなかなか出会えない稀有な現象がそこにはいっぱい詰まっていて、難航するっていう事はすごく素敵なことだよっていう。」

アルバムの2曲目は、プログラムされた細胞の死を意味する、『アポトーシス』。  

「藤原:この曲は僕が29歳になった誕生日に、メロディーは前から断片的にあったんだけど、今の形に並んだのはその日で、20代もあと1年しかないんだ、あぁ終わってしまうのだね、という感じがありまして。こういう風にどんどん終わっていくんだろうな、いろんなものが、と思って。その終わりの先に自分の大切な存在を失うっていう、お別れの瞬間が来てしまうっのはしょうがないことだと思うんだけど、しょうがないものを乗り越えられる救いの言葉って何かないのだろうかと言うことでこの楽曲はスタートしたんです。

結局、ほぼ1年ぐらいかけて歌詞を書いて、最終的にそういう救いの言葉が見つからなかったという歌詞になっています。小手先で大丈夫とか時間があるとか、そんなことを言っていられるような問題ではない、という風に思ったし、この29歳の間の1年間、本当にこのようなことをすごく思いながら、ある種怯えながら生きてもいたし、それを形にできたんじゃないかなと思っていて。」

今回は、メンバー全員が作詞作曲をおこないました。ドラムの松浦匡希さんと藤原聡さんが共作したのは、『フィラメント』。

「松浦:詞も、もっと僕の中にある感情をもっと出せるよっていうので、2人でディスカッションする場が結構ありましたね。

藤原:人生観の話をしたね、結構時間かけて。ちゃん松の楽曲も前を向ける楽曲ではあるのかもしれないけど、その中でもやっぱり葛藤だったり、できてたことができなくなっているようなものがあったりとか。

松浦:結構、各々ほんとに赤裸々、、、なんかほんとちょっとどろっとしたところが、、、 。

藤原:フィルターなく出てるかもしれませんね。」

アルバムの中盤に収められた『Shower』。この曲は、『アポトーシス』と同じく、時間の移り変わりが歌の中で描かれています。

「藤原:基本的に変化があったとしたら、自分であんまりわかんないんだと思うんですけど、でも『アポトーシス』作ったときは、こういうことも歌っていいのかしら?ということだったと思います。

『Shower』で描かれているのも歳を重ねていく、夫婦関係が変わっていってしまうんじゃないかっていう所の恐れだったりとか、変わらざるを得ないものや変わっていくべきもの、変わらないで良いものって何なんだろうねとか、『変わっていくもの、変わらないもの』みたいなものに対して何かフォーカスを当てているのは確かにあります。

今振り返ってみると歳を重ねていっているっていうこともあるし、そういった心配事だったりとか非常にリアルな感情を描いてもいいですか?っていうような感覚だったかな。自分の作りたいものが変化っていうよりは、その作りたいものは前からあったんだろうけど、2019年とかのあたりがありがたいことにタイアップっていう形で作らせていただいて、それが結果的にみんなの歌になってもらえたりってこともあったし、やっぱりタイアップってなったときに、どうしても描きにくいものでもあるのかな。

タイアップになったらなったで、すごく自分がリスペクトしてるから一緒にやらせていただくわけだし、そこにからインスパイアされて自分の感情に湧き上がるものを作るから、それはすごく楽しいし、前向きだし、自分たちが胸張ってやるべきことだと思うけど、それだけじゃないっていうのがより音楽の魅力を自分自身に再確認させてくれるような楽曲なんじゃないかなと思いまして。

『Shower』も『アポトーシス』も『はーいみんな前を見てください!元気出して!背中押すよ!』っていうテンションではないんだけど、僕は自分で聞き返して、この人すごく泥臭く人生を生きてらっしゃるなと、自分のこと見て思っちゃったりなんかして。でも、それが自分だから作れた楽曲でもあるなら救われるなと思うし。」

【Editorial】のラストは、『Lost In My Room』。曲作りに苦悩する主人公が、迷いに迷う1曲です。

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藤原:何も決まらないなんて言ってこのボーカル大丈夫か?と思いますけど、そういう事です、普段から自分は。このアルバム1枚通して『Editorial』で始まって、『Lost In My Room』で終わるっていうのはすごく自分の中で、『Editorial』と『Lost In My Room』は行ったり来たりしているんですよね、概念として。

つまずくからこそ楽しくてやりがいがあって愛おしいものだから、今日も前向きにクリエイティブを楽しもうじゃないか、っていうのをあなたにも伝えたいし、と言ってるんだけど、 そのさきで自分の今生み出してるこれはあなたに伝えたところでそれを楽しんでもらえるだろうか?でも、楽しんでもらえないかもしれないけど、でも自分はこれにすごく惹かれていて、これをやるべきか否か、ずっと迷ってる。あーもうわからん、と。

ずっと迷って、気づいての繰り返しだったりとか、迷って答え出せないまま、『はい、曲の締め切りですよ出してください』って言われて、出すみたいな。で、出した後で気づいて書き換える、楽しい。で、書き換えたらまたわからんくなる。ずっとそれやってる感じなので、最後にこの楽曲がやってくるのはすごく必然だったなと思っていて。」

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