今週は、東京事変のニューアルバム『音楽』のHidden Story。

椎名林檎さんに語っていただきます。10年ぶりのオリジナルフルアルバムは『孔雀』で幕を開けます。メンバー五人の音が、より前に出ているようなサウンド。

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「とにかくみんなの特徴がより削ぎ落とされて強調されているというのはわかるんですけど。ちょっとしたポーズみたいなのが、カッコ付けがなくなって、丸出し、むき身、剥き出しになってきてるじゃないかな。私もそうでしょうし、人のこと言えないですが。」

2020年の元旦に『再生』を発表した東京事変。椎名林檎さん曰く、「アルバムの曲は、2020年には揃っていた」。

「やるやらないって何回か話し合って、やってみるか、となった後は、すぐにメンバー全員が提案してくる曲を全員で集まって演奏する、という、すぐ実作業に入りました。日本では特に歌がお好きな方が多いと思いながらも、双方、ギターのオブリとかドラムのフィルとか全部連動して、感情の発露を一緒に表現したい。なので、言葉のことは考えずに置いておいて、サウンドを固めてから、最後に、曲自体が楽器の演奏自体が呼んでいる言葉がはまるようにっていう風に私がパズルをはめるというイメージなんです。だから、楽器の演奏は2020年に全部録り終わっていて、あとはリリック、作詞して歌を入れるだけ、という状態でちょっと待ってました。」

作詞をちょっと待っていた、というのは、どんな理由からなのでしょうか?

「私が個人的に思っていることというよりは、まず第一に、今の世の中の気分、ラジオ番組、テレビ番組、YouTube、もっと個人的な無記名なものも含め、そのままスケッチしたいというのは思っていて、今回もそうでした。皆さんが見ている景色をそのままうつして、それがいろんな方の声であってほしいといつも思っています。全員の肩を持つようにしたいというか。なかなか難しいですけどね、それもあるかな、、、だからそのリアリティをそのまんま反映した作品にするのがちょっと怖いような世の中の雰囲気もありました。もうちょっと良くなってからホントはいい内容のものを書きたいけどな。なかなかみんなすさんで疲れておられるだろうなというのがちょっと引っかかってました。」

東京事変の作品はこれまで、『教育』『大人(アダルト)』『娯楽(バラエティ)』『スポーツ』『ニュース」、そして 今回は『音楽(ミュージック)』と【チャンネル】を タイトルにしてきました。

「メディアというもののいただき方、見聞きの仕方というのは、ユーザーの知性を前提としているべきものじゃないですか、信用していただいてお作りだと思うんです。でも、時折、バカにしようとしているというか、なんていうのかしら、麻痺させたいんじゃないかというプログラムがあった時に、それはすごくこわいなと思っていて。そういうこともあったんですよね、私たちが<チャンネル>をストーリーの軸において、事変のプログラムを進めてきたのも、通信、報道、放送されるもの、一方的に垂れ流されてくるものがなるべくおもしろおかしく、なるべく美しくあってほしいと願う時に、それって結局、世の中がどうなってほしいかということでもあるから、これで取り組むと面白いなと思ってアルバムがチャンネルしばりになっていったというのはあるんです。すごくメディアのことを若い頃から気にしていたかもしれないですね。こわいなと思って、もろ刃だなと思って。」

アルバム終盤に収録されたナンバー、『緑酒』は自由を求める革命を 鼓舞するような内容のリリックとなっています。

「『緑酒』はそれなりに強く思い入れて書いたと言えばそうですかね。メロディがすごく細かく、音符のチャンスを全部使うとすれば言葉がかなり多い曲だったんですよね。これだけ言えるんだったらどういうことなのかなと思った時に、おっしゃったみたいに、まあまあよし、としてきたことを、よしとしてはいけないんだろうな、という曲なんだなと思いました。であれば、あらゆることに対して、このことしかない、というか、『尊厳』について。もしかしたら言葉も詰められるし、かけるだけの尺もあると思うと気合が入ってしまいましたね。」

『緑酒』の壮大なコーラスアレンジについても、林檎さんに語っていただきました。

「歌詞を書いていて、はまりを確認しながら書いたりするんですけど、♪自由よ~とか、やっていると、どうしても、ベルカント唱法という発声で歌いたくなるんですよ。一葉が書いたメロディが朗々と歌いそうな、、、でも、私一人で急にバンドサウンドのなかでできないから、みんな一緒にやってくれれば、私はバンドサウンドのギターに寄り添う形できついエッジのある声で歌うから、あなた方がやってくれない?っていうふうに、それが一番いい調和だと思うって言って。」

最後にこんなことをうかがいました。林檎さんにとって、東京事変とは、どんな存在なのでしょうか?

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CDを作るとかライヴをやるっていう作業内容はあんまり変わらないんですけど、ただ、それ以外にも手札を持てるという感じはありますよね。衣装のこととかも毎回いろいろ持っていくんですけど、連動させたくて。さっきの楽器と言葉を連動させたいということのみならず、その時どんな色のどんな素材の服を着てどんな顔でどんな態度でやるかで何が伝わるのかということをチューニングしていくんですが、これをひとりでやるのと5人でやるのとはちょっと違いますよね。使える画材が違うというか。事変の場合は5人が主体性を持ってやってくれるし、残したい印象とか伝えたい作品の特性、受け取ってもらいたい感じを協力してもらえている感じがするのかな。だからそれはそれでやりたいというのが、今回やってみたら、また新たに芽生えたかもしれないですね。私はちょっといいなと思いました。仲間。昔ながらの仲間ですね。」

東京事変ウェブサイト