東京・銀座に、12階建ての『木造の』ビルが建設中です。木造の高層ビル、、、これを可能にしたのは、木材を燃えにくくする技術、そして、板の繊維方向が直角になるように重ねて接着した大きなパネル=CLT(Cross Laminated Timber)、という技術です。

このCLTに早くから取り組んできた会社が岡山県にあります。そして、そこには、環境への想いも込められていました。岡山県真庭市、銘建工業のHidden Story。

20210604h03.jpg

1923年、銘建工業は岡山県真庭市の製材所として創業。まさに、木を扱ってきた会社です。そんな銘建工業の社長、中島 浩一郎さんがCLTに注目したきっかけは、今から10数年前、オーストリアのウィーンでCLTによって作られた 木造のマンションを見たことでした。

この技術を日本で展開できないか、と考えた中島さんですが、社内では『日本は、地震もあり、難しい』という意見が多数を占めました。しかし...

20210604h01.jpg

「木造の建物を推進しようというか、山を大事にしようということも含めた委員会があったんですけど、その国の委員会みたいなものがたまたま林野庁と国交省が一緒になって、動いていた時に、委員長の養老孟司さんが『あんたも何か発表しろ』というので、『夢みたいな話ですが...』ということで、あることを紹介しました。

その当時から杉の木が花粉症の問題も含めて、なかなか使い道がないというところで、もし杉をCLTに使えれば、大量の木材も使えるし、二酸化炭素のこともできるということを言い出していた頃で、そういうことが可能だということを話したら、すぐに反応があって、『あんた本当にやる気か?』ということになって、『やる気がない』とは言えないもんですから、林野庁や国交省の方がもしやるんだったら、という話が持ち上がったのがきっかけになっています。」

戦後、大量に植えられた杉をどう活用すればいいのか?この課題も、CLTを推進する背景にありました。   

「戦後、木材需要があるぞ、ということで杉の木を大量に植えたわけです。だから今みたいに杉の木がこんなに生えている風景は、この60年、70年のことで、真庭でも以前は広葉樹林が大半だったんです。杉を何に使おうとしていたかというと柱に使おうとしていたわけです。だけど、ちょうど大きくなった頃は、2030年前から大きくなっていますが、そんなにたくさん柱もいらないし、柱の材料としては他のものもあって、杉が切られない状態でどんどん大きくなっているのが今現在です。この杉をどう使うのかは、今現在でも大問題でありまして、なかなかうまく使えない。そういう中でCLTも使えたらな、ということで、先ほどの話の皆さんの前で話したらいろいろ反応があった、ということです。」

杉を有効に使うための一つの方法として、CLTへの活用がスタートしました。そして、実は、このプロジェクトに至るまでに、銘建工業は、こんな取り組みもおこなってきました。それは、製材する過程で出る『木のくず』を使った発電事業。

20210604h02.jpg

「今も私どもの工場で2000キロワットの発電所が動いていて、その電気を会社で使っているんですが、燃料は、集成材やCLTを作る過程で出るカンナくずです。カンナくずをボイラーで燃やして、その蒸気でタービンを回す、という単純な方法です。集成材は多分、日本で一番作っていますし、一つの工場としては世界でも多い部類だと思いますが、その作業工程で160トンから170トンのカンナくずが出てきます。そのカンナくずを利用して木材の乾燥の熱源にも使うし、タービンを回して電気にも変えると。

発電の規模も最初は175キロワットだったのが、1998年からは2000キロワットの発電、2015年からは、私たちだけでなく、地域をあげてやろうということで1万キロワットの発電をやっているます。」

20210604h04.jpg

銘建工業が独自におこなっていた、木質バイオマス発電。これが地域ぐるみのプロジェクトに発展し、今や、1万キロワットの発電能力のある発電所が稼働中。また、その燃料は、地域の方が集積所に持ち込んだ不要な木材を原料にしています。

「森林の伐採現場は、丸太だけじゃなくて枝なんかがたくさん出ます。丸太も先っぽは細いですから製材にはなりません。それを真庭の場合は、全部持ち出してこようということで、山から持ち出したものを地域で作っている集積所があるんですが、そこへ持ってきたら重さを測ってお金を払っていると、燃料代を払っていると、そういうことがまわり始めています。多い日は1日に100台くらいのトラックが集まってきているというのが現状です。これに年間に14億円くらいの燃料費を出しています。発電所の売り上げが23億円くらいなですけど、そのうち燃料代として14億円を払っているという、これは地域にとっては非常に大きいです。

なおかつ、枝木だとか木の根株、短い丸太みたいなものは誰も見向きしなかったんですが、それが山からきれいに出てくるので、そういう山は整備できていて、もう一度植林するとしても非常にいい状態で植林ができ始める、そういう地域になってきています。」

発電事業も、CLTのプロジェクトも、どちらも根底にあるのは、今ある資源をいかに活用するか、ということ。銘建工業の社長、中島 浩一郎さんは、こう語ります。

20210604h05.jpg

本当にあるものを大事に使いたいというのはずっと思ってまして、それは去年なくなった親父もよく言っていましたし、『もったいない』という言葉はマータイさんが世界に広めてくれましたが、もったいない、あるものをちゃんと使おう、ないものを持ってくるよりもあるものを使った方がいいなというのは思っていまして、地域の材料をちゃんと使いきろう、そのためにはいろんな仕組みがいるわけです。

発電所もその中の一つですが、もっといろんな機能があれば山の木が使われて、地域の所得にもなるし、発展にもつながります。それは私どもだけでできることではないので、行政も含めて、地域の木材組合も含めて、前に進めていきたいなと思っています。

最近SDGsのバッジをたくさんの方がつけられていますが、つけるだけでは意味がないので、サステイナブル、持続可能な社会の中で、小さいけれど木材は一丁目1番地だと。

会社が確か再来年に100周年になりますが、もしちゃんとそういう仕組みができれば、もう100年も仕事ができるかなと、夢みたいなことを思ったりなんかもしています。」

銘建工業ウェブサイト