「いくらでも力を注ぎ込んでいい企画があったというのは、救いでもあった」Mummy-Dさんが明かす『MTV Unplugged: RHYMESTER』秘話。

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今回、注目するのはRHYMESTERが配信・CD・DVD・Blu-rayでリリースした『MTV Unplugged: RHYMESTER』。RHYMESTERのMummy-Dさんに語っていただきました。

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まずは、ヒップホップグループのRHYMESTER、アコースティックライヴシリーズであるMTV Unpluggedにどんなスタイルで臨もうと考えたのでしょうか?

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「ヒップホップアーティスト、ラッパーとかもUnpluggedは意外とやってるし、日本で言うとKREVAもやってたし、意外といるんですけど、基本的には日頃バンドでやってるロックバンドなりシンガーがアコースティックな形にして、いわばスケールダウンして近くに寄り添ってアコースティックギターとかでやる、という雰囲気。でも、僕らの場合はいつもがDJセットで出しているので、生で、自分たちの楽曲を再現すればイコールUnpluggedになるなというのはあったので、いわゆるロックバンドやポップシンガーの皆さんのUnpluggedとは逆に、スケールアップしていくというか、ゴージャスにしていく形でした。僕らは異種格闘技戦というか、バンドとのコラボレーションも多いので、バンドにホーンセクション、ラッパが入ったステージは意外と見せているんですよ。自分たちの曲もホーン隊が入った曲が結構あるからちょっと新鮮味がないので、ヒップホップと一番遠いストリングス隊を入れてみようと。」

キーボードプレーヤー、タケウチカズタケさんを中心にバンドを編成。そして、タケウチさんと共にRHYMESTERの楽曲の『バンドアレンジ』を作る、という仕事が進められました。

「昔から自分たちの曲を生で完全に再現し直すみたいなライヴは夢だったのね。基本的にヒップホップトラックがあって、それをカズタケ君に聞いてもらって、どうバンドで演奏するかスコアにしてもらって、それを打ち込んだものを送ってもらって、ここの音が違うよとかメールでやりとりしました。何せ時間はあるんですよ、コロナ禍だから。ライヴできないし、普通のレコーディングも、僕の相棒・宇多丸と、今の状況は過渡期すぎて、これに対して言葉を出すのも難しくて、新録の曲も作りにくいなというのもあって、もうひたすら時間があるのをこれでもかとばかりにこのアコースティックライヴ企画のアレンジに全てつぎ込んだみたいな感じで。ほんとに去年の秋から今年の正月くらいまで、これがなかったら自分のアーティストとして精神衛生というのかな、保てなかったと思う。それって、みんなあんまり言わないと思うけど、アーティストって常に音楽を作ったり、歌ったり、演じてないと死んでっちゃう部分があるんだよね。そういう意味では、いくらでも力を注ぎ込んでいい企画があったというのは、自分でも救いでもあった。」

Mummy-Dさんが全てをそそぎ込んだ、というバンドアレンジ。収録曲の中から、『梯子酒』という曲のアレンジについて解説いただきました。

『梯子酒』ってね、和なメロディというか、再現するのが難しい曲なのね。しかも和太鼓とか、和の楽器だとお祭り感が出しやすいんだけど、いわゆる西洋音楽のオーケストレーション、そこまでいかないけど、バンドセットだったので、どうやってお祭り感を出すかというのは、リハーサルでこの曲が一番時間がかかった。結局ね、要するにお祭りになってればいいんだろと。だったら海外の音楽で土着的な、例えば、アメリカのニューオリンズのセカンドラインとか、あるいはレゲエっぽくやってみるかとか、いろいろリズムパターンを試してみて、最終的にもう何のジャンルかわからないけど、架空の国の祭り感は出てるな、というところに落ち着いていったんだと思うよ。でもね、これが面白いの。もともと生楽器で作り始めてる曲じゃないから、それを生楽器で再現する時に一工夫必要になって。そこに時間がかけられたのはすごく嬉しかったですね。」

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『MTV Unplugged: RHYMESTER』、終盤に収められた、「It's A New Day」そして、「The Choice Is Yours」。この 2曲は、東日本大震災の発生後に書かれたナンバーですが、今聴くと、また違う意味を持って響きます。

「これらの曲は、東日本大震災の直後に書いた曲なんだけど、あれから10年経って、今、コロナ禍の中で、みんな窮屈な思いをしたり、分断みたいなものを目の当たりにして、これでいいのかなと感じてる時期だと思うんです。だから、あえて歌ったわけじゃないんだけど、歌ってるうちに、あ、歌が意味持ち始めているというのは、実際にステージに上がって誰もいない客席に向かって歌っている時に感じました。これが音楽の力だなと。俺の意思とはあまり関係ないっすね。もちろんね、観客の皆さんがその場にいて、声援を受けたり、実際演奏してみんながどのくらい吸収してくれてるか、しみてるか、反応してくれるかわかったら一番よかったんだけど、自分でびっくりしたのは、客席に誰もいなくても、ライヴやってて、緊張もするし、楽しいし、お客が見えてくるんだよね。長年ステージと呼ばれる少し高いところの立って、客席に向かって歌ってるんですよ。そうすると、その形になっただけで何かが戻ってくるみたいなね。誰もいないんだけど、満員に感じるみたいな。誰もいない向こう側を感じながら、何かこみ上げてくるみたいな気持ちを感じた。」

RHYMESTERウェブサイト