今回ご紹介するのは、美術家・長坂真護さん。長坂さんは、ガーナのスラム街に先進国が投棄した『電子廃棄物』を再利用し、美術品を制作しています。なぜ、そうした活動をおこなうことになったのでしょうか?長坂真護さんのHidden Story。

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長坂真護さんは、1984年生まれ。ファッション系の専門学校へ進学し、ものづくりの楽しさに目覚めます。 そして、、、

「そのあとはホストクラブで1年半くらい勤務して、3000万くらい貯まったので起業したんです。アパレルをやったんですけど、全然経営がうまくいかずつぶれてしまって、2009年から路上の絵描きでしたね。2009年から2017年くらいまでの8年間はずっと路上でやってました。8年の間に就職もせず自由気ままに世界の15か国ほどで絵を描いていたんですが、そこで例えば、上海で絵を描いているときに、都会の一本奥にいくとスラム化しているというか、世の中に違和感を感じていました。そのあと、僕がForbesという経済誌を読んでいたときに、世界の富裕層が増えるほど、経済が成長するほど貧困国にしわ寄せが来るという記事を読んで、そのときに少女がゴミ山でゴミを抱えている写真があって。ここに行かなくちゃいけないなと思ったのが転機ですね。それはフィリピンのスモーキーマウンテンというところの写真だったんですが、そこから気になって調べていくと、ガーナのアグボグブロシーというアクラという首都に付随したスラムが今、世界の電子機器の墓場になっているということを聞きつけたんですよ。」

長坂さんは、現地に つてもないまま、単身、ガーナの首都、アクラへ。そして、電子機器の墓場と化しているアグボグブロシーを目指しました。

「Airbnbって民泊のアプリを使って宿を決めたんですけど、そこから歩いて行きましたね。一本の橋を渡るとそこからスラム化していくんですよ。子どもの頃に火遊びをしてプラスチックを燃やした時の異臭みたいなもののすごく強いものだったり、金属を叩いてスクラップにする高いカンカンという金属音。近くに玉ねぎ市場やトマト市場があって余ったものが捨てられるんですけど、そこにたかるハエとか蚊とか何万匹もいます。あと、放牧をしている牛の糞とか、もういろんな臭いが立ち込めていて、青い空には黒いスモッグがかかっている。僕は黄色人種なんで、3万人が住む黒人の社会なので、ものすごいブーイングだったんですよ。何人かにこっち来いって手を引っ張られたんですけど、その中の一人、僕に『ミスター』って声をかけてくれたマックス君という少年がいて、『何しにきたの?』って言われて、『電子機器を燃やしている場所に行きたいんだ』って言ったら、『それは僕たちの焼き場だから付いてくる?』って言われて。」

目にしたのは、想像を絶する光景でした。

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「実際、世界の墓場といってもテニスコート1面分くらいだったらいいなと思っていたんですよ。初めてそこに焼き場に飛び込んだときに広がった光景は、地平線の一歩手前までゴミの荒野というか。後で調べたら東京ドーム32個分。海外線沿いで、港から大量にe-waste、電子機器のゴミが運ばれてくるので、トラックから出たものに火をつけて、中の残った金属を売るっていう。同時に有害なガスが大気中に溶け出して、労働者の彼らも吸うんですが、ガスマスクなしで焼いてるんで、30代40代で命を落とす人も多くて。そういう現場でした。」

美術家・長坂真護さん。ガーナの首都近郊、アグボグブロシーから 先進国によって投棄された電子廃棄物を持ち帰り、それを 自身の油絵と組み合わせた作品制作をスタートします。長坂さんの耳には、ガーナから帰国する際にかけられた言葉が残っていました。

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「『Mago、君がつけてるガスマスク、今度は僕らの分も持ってきてね。僕らも死にたくないから』って言われて。その時から僕の人生の時計の針が動き始めたというか、1秒でも1日でも早く彼らを救いたいと思ったときに、現地の落ちている壊れた家電をアートに変えてしまえば、先進国の人はその現状をリアルに見ることができるし、実質的に地質からゴミが減る。これは一石二鳥だなと思いました。」

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最初の作品に早速予約が入り、マスクメーカーからは150個のガスマスクの提供を受けました。さらに、2018年3月、銀座で開催したエキシビションでは、一つの作品が1500万円で売れるなど、活動が加速していきます。

「4回目に渡航した時、その1500万円を使う先が決められたんですね。それが、現地にプライベートスクールを作る、というものでした。僕らが直営で教師を2名雇っています。寄付して学校を建てるという選択肢もあったんですが、そのあとが不透明だったんで、自分で直営をやろうと思ったんです。で、どんどんどんどんエキシビションをやったら絵がすごく売れるようになって、ロサンゼルスでもガーナ展をやったんですが、そのときにはハリウッドのエミー賞受賞監督が来てくれて、僕のドキュメンタリー映画を撮ろう、ということになりました。それは5回目の渡航、2019年に一緒に行って2ヶ月くらい滞在したんですが、その時はミュージアム、初めての文化施設を提供する、っていうので。」

最終的な目標は、現地に、リサイクル工場を建設すること。そこへ向け、一つずつ、着実にプロジェクトが進められています。

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「本当は10年後、100億円の超最先端のギガリサイクルファクトリーを作りたい、という気持ちなんですが、やっぱり、気候変動、人権の問題が一刻を争う危機なので、まずはもうちっちゃい工場から今年起業して、小さいリサイクル工場を作りに行きます。それが今年の目標ですね。」

長坂真護さんウェブサイト