今回、注目するのは夜にオープンする、パン屋さん。その名も【夜のパン屋さん】。実はこちら、ホームレス状態の方を支援する『ビッグイシュー』が手掛けるプロジェクトです。

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夜のパン屋さんというものを始めました。閉店間際になって、いろいろなパン屋さんで残りそうなものを買い取らせてもらって、それを1か所、神楽坂のかもめブックスという本屋さんの軒先なんですけど、そこに集めて、いろんなパンを売っています。パンをピックアップすることが仕事づくり、パンを売ることも仕事づくり、それからパンのロスを出さない、捨ててしまうことがないように、食べきったり売り切ったりすることもお手伝いするパン屋さんです。」

お話をうかがったのは、料理研究家で、NPO法人ビッグイシュー基金 共同代表でもある 枝元なほみさんです。

路上生活を送る人が、街に立って、雑誌「ビッグイシュー」を販売し、その一部を収入とする。このプロジェクトで知られるビッグイシューが、なぜパン屋さんを展開することになったのでしょうか?

北海道の帯広の友人が、帯広に6店舗パン屋を持っているんですが、各店舗の残りそうなものを1箇所に集めて夜だけ開く夜のパン屋さんをやっていると聞きました。こういうのを東京でもやったらいいのに、と。それを聞いて、そうか、と思ったんです。これならビッグイシューでもできると。ビッグイシューは、もともと、路上生活になってしまう方が1冊450円の雑誌を販売して、その半分強の230円が各人の収入になる、という仕組みで自立支援をしている団体なんですが、各土地で路上でみなさんが雑誌を売っているので、その近くのパン屋さんからピックアップしてくれるのであれば、ピックアップがスムーズじゃないかということで考えました。」

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課題となったのは、パンを販売する『場所』でした。

自分たちがこれから運営することを考えると、固定店舗を持つこと、維持するのは難しいと思いました。ちょうどその頃に、コロナが広がってきていて、もしかすると東京もロックダウンになって動きがとりにくくなるのではと思って、私は焦り性なので移動販売車を買ってしまいました。それを駐車場のようなところに置けば、かかる経費が駐車場費だけで済むかなと思って、そこでパンを売ることができないかと考えました。でも、なかなか思ったように駐車場でパンを売らせてくれるところもなく、困っていたところで、同じようにパン屋さんにも声をかけ始めていたんですが、知り合いのパン屋さん【BEAVER BREAD】さんが『いいよ、参加するよ』と言ってくれて、『どこでやるの?』と。『神楽坂あたりでやりたいんですけど、まだ決まってないんです。』と言ったら、『神楽坂なら知っている人がいる』と言って、その場で電話してくださって、その方が、かもめブックスの柳下さんという方で。お会いしたら、本当に即断で『いいよ』って言ってくださって、まるで奇跡みたい【夜のパン屋さん】を始めさせていただくことが決まりました。」

食品の廃棄を減らすアクションでもある「夜のパン屋さん」。去年の10月16日、「世界食料デー」にオープンしました。場所は、神楽坂の本屋さん「かもめブックス」の軒先です。パンがそこに並ぶまでの仕組みは どうなっているかというと、雑誌ビッグイシューの販売員の皆さんがプロジェクトに参加するパン屋さんを営業終了後に訪ね、余ったパンをピックアップします。

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外で売っているということもあって、パンは袋に入れています。しかも、いろんなパン屋さんからパンが来るので一つずつを販売するのが難しいので、3個セットとか5個セットとかにして、それでいくら、という値段、卸値をパン屋さんに決めていただいて、その卸値が5割から6割になるよう価格設定で販売しています。」

パンの種類によっても違いますが、実際のパン屋さんでの販売価格と同じくらいか、セットになっている分 少しお得な場合もある、というお値段。だいたい3個か4個の袋詰めで、500円から600円ほど、なんだそうです。そんな【夜のパン屋さん】について枝元なほみさんは、こんな話もしてくれました。

もともとの発端としては、コロナのこともあって、外に出る人も減って、ビッグイシューの販売数も減ったんですね。そういう方へ仕事づくりのプロジェクトでもあったので、パン屋さんだけで食べていけるとはとても思えないんです。でも、小商いとうか副収入になるといいなと思っているので、今、コロナで困る方もいらっしゃるとしたら少しでも仕事の機会を増やしたいと思っています。

ビッグイシューの販売って一日同じ場所に立って、『売ってます』と雑誌を掲げて路上で販売をするんですが、これが本当に大変な仕事で、どうしても男の方の仕事というイメージが定着しています。でも、あるとき女の人の貧困のことを気にかけていたけれど何もできずにいたな、と思ったことがありました。そんなときにパン屋さんを始めてみて、パンを売るのは女の人にも向いているなと思ったんです。女性のちょっと大変です、という方にも働いてもらえるような形になったらいいなと思うので、どんどん広げていきたいです。」

夜のパン屋さんウェブサイト