山形県の内陸部にある河北町。人口およそ1万8000人、小さな町ですが、イタリアンのシェフには、その存在を知られています。そう、この町では、イタリアンレストランで使う『野菜』を生産しているのです。今回は、地元の農家のみなさんが集まって生まれた、【かほくイタリア野菜研究会】のHidden Story。

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山形県、河北町。

実は、町にはイタリアンレストランは1軒もありません。そんな町がなぜイタリアンで使う野菜を作ることになったのでしょうか?

【かほくイタリア野菜研究会】の牧野聡さんにお話をうかがいました。

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「もともと10年ほど前に、リーマンショック後の雇用対策事業から何か事業を起こそうということで河北町の商工会が中心となって農商工連携事業というものを行いました。そこで地域おこしのネタを探していたときに、たまたまイタリアンレストランの料理人がイタリアで修行していたときに栽培していた野菜が河北町で作れて、自分で栽培して店で出していた。その品物が輸入品しかなくて、作ってくれたら、日本中の料理人が買ってくれるよ、というのを聞いたのがきっかけになります。河北町にはイタリアンレストランはなくて、河北町出身の料理人の方が隣町でレストランを経営していて、その方の話を聞いたのが最初です。」

隣町のイタリアンのシェフが自ら栽培していたのは、トレヴィーゾ・タルディーヴォ、という野菜でした。

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「皆さん多分ご存知のトレヴィス、という赤いチコリがあるんですが、その仲間になります。こういったものがあるんだということで協力してくれる農家さんを何軒か集めてその年に試験栽培が始まったんです。

これがそんなに簡単にうまくいきませんで、実は、畑に植えればいいだけの野菜ではなく、畑で栽培した後、その株を掘り起こして、それを暗いハウスの水槽に入れて水耕栽培するというちょっとめんどくさい野菜だったんです。どうやっていいかさっぱりわからずに最初は適当にやっていたんですが、ある日、YouTubeでイタリアの農家さんがそういう風にやって、自分たちの野菜をPRするための動画があるのに気づきまして、そのイタリアの農家さんの映像をみながらハウスの作り方を想像して、形にしていきました。」

栽培方法はわかりました。でも、その先にはさらなる壁が待っていました。

「作ったものをどうやって売っていくかが1番の課題であって、最初できたものを市場に持って行ったら、市場の人もどこに買ってくれる人がいるのかわからず、市場じゃダメなんだとわかって。いろんなところに持っていって、やっと、レストランの料理人さんにまっすぐに持っていけばいいんだなとわかったんです。

料理人さんに直に持っていくと『日本で作っている人がいるんだ』ということで取引が始まりまして、直接販売するためには、いろんなアイテムを揃えないと料理人さんになかなか継続的に使ってもらえないので、そこからいろんな野菜を植え付け始めました。」

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ちょうど10年前、トレヴィーゾ・タルディーヴォという野菜からスタートしたイタリア野菜作りは、現在、60品目に増えました。また、取引のあるレストランは全国に200軒ほど。レストランとの取引がメインだったため、新型コロナウィルスの感染拡大で大きな影響を受けました。しかし...

「もともと私たち、イタリア野菜自体が販売しにくい野菜だったものですから、いろんな方々と繋がって紹介していただいたりということでレストランさんに販売してきたんです。その人の繋がりがメリットになりまして、『イタリア野菜研究会、今、苦戦しています、協力してください』という案内を出したところ、うちも買うよという個人の方がたくさんいて、捨てる野菜がほとんどなくなったという状況です。」

ちなみに、今も主力野菜の一つであるトレヴィーゾ・タルディーヴォ。牧野さん、こんなエピソードも教えてくれました。

「トレヴィーゾが非常にエコな野菜というか、イタリアのトレヴィーゾという町の特産の野菜なんですが、トレヴィーゾと山形の気候が似ているというので栽培に適しています。冬に栽培するんですが、暖房を使うわけでもないし、井戸水を使って水耕栽培するので、労力はかかりますが、灯油をたいたりしなくてもいい収益性の高い野菜ですね。寒いからこそきれいな赤い色が出るそうで、南では作れない。寒い気候を利用して農家が暇なときに作れる、非常に条件がぴったりな野菜です。」

イタリアンレストランのない町で、イタリア野菜の生産を始めて 10年。牧野聡さんは今、こんな想いを込めて野菜づくりを続けています。

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「これ、あの料理人さんに持って行ったら喜んでくれるだろうなとか、使ってくれる人、食べてくれる人の顔が近い、というのがイタリア野菜の魅力というかモチベーションになっていますし、栽培するときの想いになっているのかなと思いますね。人のつながりがすごくモチベーションを高めてくれると感じています。」

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かほくイタリア野菜研究会ウェブサイト