今回は宮城県 南三陸町、志津川湾をのぞむ場所に2020年20210312h05.jpg=去年10月にオープンした、【南三陸ワイナリー】のHidden Story。

南三陸ワイナリーの代表、佐々木道彦さんは東日本大震災の発生当時、宮城県に暮らしていたわけではありません。静岡県浜松市でYAMAHAに勤務、商品企画の仕事をされていました。そして、ワインの醸造も全く手がけたことがありませんでした。そんな佐々木さんがなぜ、ワイナリーの代表を務めることになったのでしょうか? まずはそのきっかけを教えていただきました。

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「震災後、ボランティア活動をしていたんですが、三陸の沿岸部、岩手県の釜石や大槌町で活動していました。もともと私は山形の出身で東北出身ではありますが、宮城県に知り合いもいましたし、大変なことになっているということで、何かできないかと考えていました。そこで、当時住んでいた静岡県から宮城県へ復興支援バスが出ていましたので、それで支援をしていました。自分も現地で目の当たりにして、街があったところが住宅の基礎しか残っていない状態で唖然としまして、ボランティア活動で、復旧も進んでいきましたが、このまま復旧が進んでも、復興は難しいと感じていました。東北に行った時は本当に何もなくて、おそらくこのまま既存の産業が復活しても元通りにはならないし、それだけでは賑わいは戻らないと感じまして、被災地で事業を始めなければならない、と思いました。あてはなかったんですけど、2014年、仙台へ移住しました。」

佐々木さんは 41歳で それまで勤めていた会社を辞め、仙台へ移住。そこで、ものづくりに関わる会社で働く中、一つの出会いがありました。

「仙台で2つほど勤めていた中で、日本の職人の技を使ってものづくりをしよう、という会社で、たまたまそこでワイングラスを作る機会がありました。『神の雫』という漫画がありますが、その原作者の方と一緒に『神の雫』向けのワイングラス、日本人のためのワイングラスを作ったのが、ワインとの出会いというか、仕事にしようと思ったきっかけです。ワインの地域とのつながりの強さというか、そこにひかれまして、食卓でも、食中酒として、どこでどういう出来事で作られたことが語られますし、お水を使わないお酒なので、現地で育ったブドウそのものが味に反映されやすいし、地域が反映されやすい。もう一つ、ワイン会の仕事にいくと、ワイン会のスタッフの方々も楽しそうに仕事をされていて、必ずグラスもペアで買われますし、人と人、人と地域をつなぐような可能性を感じて、そのあたりから漠然とワイナリーができたらいいなと思い始めました。」

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その後、佐々木さんは、宮城県の秋保ワイナリーで、ワイン造りを学び始めます。

「震災後はじめて、秋保温泉のところに秋保ワイナリーができました。そこにお手伝いに行ったところ、実は、南三陸で、南三陸ワインプロジェクトというものが始まっていて、秋保ワイナリーはそのパートナーで応援していたんです。でも、南三陸でブドウは植えたんだけど、なかなかワイナリーまでの道が見えない中、事業化を推進するためのメンバーを募集していたということがありまして、もうこれしかないと思いすぐに手をあげて、プロジェクトに加わリました。」

ワイナリーは、震災後 仮設の水産加工場だった場所を使えることになりました。さらに、町の皆さん、ボランティアの皆さんの協力もあって、去年10月、オープン。そして、今、【南三陸ワイナリー】では、どんなワインを造っているのでしょうか?

「もともとは志津川湾の美味しい牡蠣、牡蠣といえば、シャブリ、ということで、シャルドネとあわせるといいというのがあったので、最初に植えたのがシャルドネです。少しずつ自分たちの方でも栽培の品種としては、白ワイン用以外にも赤ワイン用のブドウを植えたりですね、赤ワイン、ロゼワイン、スパークリング、一通りワインを造っています。南三陸というと海のものが有名ですが、山にいくと、放牧している美味しい豚、さらにワカメの茎を食べた臭みのないワカメ羊、仙台牛、コメ、野菜、、、南三陸は海と山がすごく近くて食の宝庫なんです。南三陸ワインプロジェクトで何度かワイン会をしたんですが、ワイン会のフルコース全て南三陸の素材でした。なので、そうした食材をより楽しむために、変に味付けをせず、ブドウの本来の美味しさ、香りを大切にして、味わいとしては基本的にはドライで辛口のすっきりしたものなので、どんな食事でもあうワイン造りを今も心掛けてやっております。」

静岡から宮城に移住、南三陸町にワイナリーをオープンさせた佐々木道彦さんに 最後にうかがいました。ワイナリーをどんな場所にしていきたいと考えていますか?

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「南三陸の復興というのは、まだまだこれからなのかなと思っています。当然、この10年間、町の方中心に頑張って、いろんなあたらしいこともできてきましたが、インフラ整備など工事も続いていますし、復興記念公園ができたのもワイナリーができたのと同じ去年ですし、これから本当の復興へ走り出す土台ができたところだと思います。ワイナリーもスタートラインに立ったところだと思います。南三陸の食とワインをきっかけに、いろんな人が交流する場所をワイナリーだったり、ワイナリーのブドウ畑でのワイン会、いろんな生産者さんとのイベントだったりで南三陸の魅力を伝えることを継続して毎年毎年何回もやっていくことが、その先の10年、10年後にですね、あの時はじめたことがようやく賑わいが戻ったり、移住される方が増えることにつながるのかなと思って、目の前のことを諦めずにやっていくこと。1年とか2年で諦めたり、数回で辞めたら何も残らないと思います。だから時間のかかる話ですが、1年2年ではなく、5年、10年と続けること。その中で新しい面白いことも加えて、進化してやり続けることが、本当の意味での復興につながってくれればといいなと今思っています。」

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南三陸ワイナリーウェブサイト