今回は、紙をめぐって世界を旅した この方のHidden Story。

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「【kami/(かみひとえ)】という屋号で活動している浪江由唯と申します。紙一重は、紙一枚のわずかな違い、という意味で、その違いを大切に活動していきたいと思うのと、紙一枚があることによって生まれる違いを、もっと意識していきたいという気持ちを込めてその屋号にしました。」

アルファベットでk、a、m、i そして /(スラッシュ)と書いて【kami/(かみひとえ)】。そんな屋号で活動する浪江由唯さん。2019年の3月から2020年の1月まで、303日間で15ヵ国を旅して、それぞれの国の紙工房や印刷所を巡りました。

でも、そもそも紙にそこまで興味をもったのは、どんなことがきっかけだったのでしょうか?

「手すき紙にはまったきっかけは、二十歳の時に紙の工房にお邪魔して自分で紙を作る体験をしたのがきっかけでした。高知県にある『かみこや』という工房でオランダ人の職人さんが工房兼民宿をされている場所です。もともとオランダで製本をされていた方が日本の和紙に出会ってその美しさを学びたい、作りたいということで日本に移住をされている方がやってらっしゃる場所なんですが、そこで紙を作った時に、紙に関わる仕事を一生やっていきたいと思いました。ほんとにハッと思って、それがなんでなのかなと考えたら、原料を刈り取るところから体験させてもらったのが大きな理由かなと思って、それをすることで、本当に木と水だけで手すき紙ができているんだと思って、感銘を受けました。」

大学生の時、青春18切符を使って、全国の工芸品の工房を訪ねる旅をしていた浪江由唯さん。高知の『かみこや』という工房で 手すきの紙に感銘を受けました。さらに、大学で専攻をしていた文化人類学の中で アジアの紙を研究。ネパールの手すきの紙に注目し、現地にも赴きました。

「それまで一人で海外に行ったことはなかったんですが、大学の研究のフィールドワークのために初めてネパールに行きました。まずは首都カトマンズのタメル地区という観光客が集まるエリアにある紙のお店に行って、そこでその人達がどうしてその仕事をしているのかを聞いたり、どこから紙を仕入れているのが聞きました。

日本で言うと日本の和紙は生産が落ち込んでいる感じなんですけど、ネパールの手すき紙、ロクタペーパーはもうかるからそれをやっていると言う人がいて印象的でした。ヒマラヤの標高2000メートル以上に生えるロクタという植物を使うのでロクタペーパーと呼ばれています。10日間かけて紙に携わる人にインタビューして帰ってきて、その時の経験が心に残っていて、日本ではみたことのない紙、日本にはない封筒の形とか、衝撃があったので、いつかは世界各地の紙を見て回りたいなと思ったのもそのネパールの旅がきっかけでした。」

浪江さんは大学卒業後、雑貨に関連する会社に就職しますが、やはり旅への想いがつのります。その後、会社は退職。2019年の春、世界の紙をめぐる旅が始まりました。旅はタイからスタート。そのあと、カナダ、アメリカ、メキシコ、ヨーロッパに飛んで、リトアニア、ラトビア、エストニア。ドイツ、デンマーク、イギリス。そしてアジアに戻って、インド、ネパール、ベトナム、ラオス、タイ、韓国。

303日間の旅の中、特に印象に残るのは、メキシコの紙。

「メキシコで作られている紙がアマテという紙なんですが、普通、日本とかの紙だと紙の原料を細かくしてから水に攪拌するんですが、メキシコ はあまり原料を細かくせず、それを板の上にちらばせて石で砕いて密着させていくという方法をしていました。メキシコシティから車で6時間くらい離れた山の中に住むオトミ族が作る紙で、もともと呪術用の紙だったそうですが、それだと現金収入が得られないので、今は観光客向けにお土産として作っているそうです。すごく不思議な意匠が凝らされていて、紙なのに織物みたいに編み込んであったり三つ編みになっていたり、これって紙なのかな?という不思議なシートが出来上がっています。そこへはバスを二回乗り継いで、その後タクシーに乗りかえていきました。」

ちなみに、こうした訪問先、どうやって決めたのかというと日本で紙の博物館に行って気になる紙を調べたり、行く国が決まったらgoogle mapで、「paper factory」と検索し、出てきた工房に連絡をしたり。でも、中には場所を調べて何時間もかけて行ったけれど、すでに廃業していたところもあったそうです。

「めちゃめちゃショックですよ。ネパールでのことなんですが、もともと町で教えてもらったバスに乗って1時間行って、さらに1時間かけて行って、それでつぶれてた時ははぁー、ってなりました。ネパールは電車もないし、タクシーに乗っても道が悪い場所なので、それで時間かけて行って出会えない時はショックですが、そうしないと出会えない紙があるので、次はちゃんと出会えたらいいなと思って行ってました。」

15か国、36の都市で、紙にまつわる人を訪ねた浪江由唯さん。深く心に残ったのは、どんなことなのでしょうか?

「心に残ったことは、改めてやっぱり紙の世界は美しいし、奥深いし、これからも携わっていきたいという気持ちです。今、ペーパーレス化が進んでいますが、手紙とか、伝えたい気持ちを紙にのせて伝えたいと思った時に、その紙にこだわれたらその気持ちもより届きやすいと思うので、そういう時に選ばれるものとしてこれからも手すき紙が存続していけたらと思います。

紙の魅力は、手すき紙を中心に考えると、木と水を原料にしてそこに人の手が加わることで一枚のシートになって、その紙を通して深くなってきた文化がこれまでにたくさんある、という歴史の積み重ねがあるところかなと思います。紙自体も何千年も歴史がありますし、そこに印刷されることで続いてきた宗教などもあるので、人の文化と紙のつながりはすごく深いものだと思います。」

浪江由唯さんの本『世界の紙を巡る旅』についてはこちらで。