今回注目するのは、映画『空に聞く』。

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この作品は、岩手県陸前高田市で、2011年12月に開局、2018年3月16日まで放送を続けた臨時災害放送局「陸前高田災害FM」のパーソナリティ、阿部裕美さんを追ったドキュメンタリー映画です。監督の小森はるかさん、そして、阿部裕美さんにお話を伺いました。

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まずは、監督の小森はるかさんにこの映画を制作することになったきっかけを教えていただきます。東日本大震災が発生した当時、東京にいた小森さん。ボランティアとして岩手県宮古市をおとずれ、そこである言葉をかけられました。

「避難所のボランティアをしていた時にあるおばあさんと出会って、その方が『被災して、自分が生まれ育ったふるさとの風景を見にいくことができない』とおっしゃっていたんです。そこも津波の被害があったようだけど報道でも聞かないし、どうなったか知りたいんだと。『あなたたちカメラ持っているんだったら行って撮ってきてくれませんか。』と頼まれたんですよね。その時に初めて、カメラって自分が撮りたいものを撮るだけじゃなくて、誰かが行きたいけど見れないものとか、そういう人の目の代わりになって記録をする役割があることに気づいて、それからは自分が記録するということを引き受けて、撮影を続けてきています。」

2012年、小森さんは岩手県陸前高田市で暮らし始めます。

「住んだはいいものの、自分がどういう風にカメラを向けたらいいのか、というのは迷いがありました。なかなか映画を作るぞと踏み切れなかったんですね。特に自分は全く陸前高田に縁もなかったので、そこで生活をしていくだけで精一杯で。アルバイトをしていろんな人と出会って関係性ができて、という中でカメラを向けると、被災した人と撮りにきた人、という関係に結び直されてしまう。それがしんどくて、できなかったんですよね。」

そんな中、小森さんは、ラジオで伝える、という仕事をしていた阿部さんと出会います。阿部さん自身を見つめることに加えて、たえとば、阿部さんが地元の人へ取材する場面に同行するなど、ラジオの制作を追うことで 街の様々な人に出会うこともできました。「陸前高田災害FM」でパーソナリティをつとめた阿部裕美さん。ラジオの仕事を始めたのは、こんな理由からでした。

「この震災の津波で営んでいた和食店の店舗をなくして、そして、私の実家の両親が犠牲になったんですね。震災直後は両親を探すことでいっぱいだったんですが、5月の末ごろにDNA鑑定を経て両親が見つかって私たちのところに戻ってきたんです。その直後くらいに陸前高田で災害FMを立ち上げますということでスタッフの募集がありまして、経験はなかったんですが、何かやらなくちゃということで応募しました。それがきっかけです。」

それまで ラジオ番組を制作した経験があるスタッフ、出演者がほぼ いない状態でスタートした「陸前高田災害FM」。開局に際して、放送でどんなことを伝えようと考えたのでしょうか?

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「今からラジオでできることは何かとみんなで考えました。で、バラバラになってしまったコミュニティをつなぎとめるツールになれないかなと考えたんですね。一人でも多くの市民の声を届けようと思いました。そして、言葉ではなくて、放送を通して、『ひとりじゃないよ、みんなで前へ進みましょう』というメッセージを送り続けました。」

「陸前高田災害FM」の番組取材で、阿部さんがさまざまな人にお話を聞くシーン、、、映画『空に聞く』の中でもたくさん出てきて、心に残ります。監督の小森さんは、「映画の中では紹介できなかったけれど、素敵な番組がたくさんあった」と語ります。

「例えば、中学生のみなみちゃんっていう子がパーソナリティをつとめる番組で、復興に切り込む、みたいな面白い番組があったり、いろんな障害のある人がパーソナリティとなって語る番組があったり、中国からお嫁にきた方たちが中国語でおしゃべりをする番組があったり。聞こえてこなかった声がラジオをつければすごくにぎやかな笑い声として聞こえてきていて、災害FMは本当に素晴らしい活動だったと思うんです。」

小森はるか監督に、最後にうかがいました。映画のタイトル、『空に聞く』。 これは、どんな想いを込めてつけたのでしょうか?

「『空に聞く』というタイトルは、2つの空の意味を込めています。一つは、亡くなられた方を想う空、スカイです。その空で、阿部さんはやっぱりずっとこのラジオは亡くなった方たちも聞いていてくれるというか、そういう想いでやってらっしゃったんじゃないかなと思っていて。いろんな弔い方があるんですけど、空にその想いをはせるということを阿部さんはされていたなと思ってつけました。

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もう一つはラジオを収録している時に、みなさんがかつての町のことを思いながら話してらっしゃるのが印象的で、もう実際に風景としては前の町は見れないんですけど、みなさんが頭のちょっと上を見ながらそこに風景を思い浮かべて話されていて、その頭のちょっと上の空というか、見えないけどある記憶、記憶に中にある風景みたいなものを残せたらなというか、そこに耳を傾けたいなという想いで、『空に聞く』というタイトルにしました。」

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映画『空に聞く』ウェブサイト