今回は段ボールアーティスト、世界中で集めた段ボールで財布を作る、島津冬樹さんをご紹介します。2018年には、そのアクションを追ったドキュメンタリー映画『旅するダンボール』も公開されるなど、大きな注目を集める島津さん。コロナ禍の今、どんなことを考えていらっしゃるのでしょうか?

島津さんが段ボールを集める旅を始めて11年。これまで35の国と地域をめぐられたそうですが、そもそも、段ボールで財布を作る活動を始めたきっかけはどんなことだったのでしょうか?

「大学2年生の時に僕が使っている財布がボロボロになってしまったんです。買い替えたかったんですが、学生なのでお金がなくて。で、自分の部屋を見渡した時に段ボールが家にあって、とりあえずこれで作ろうかなと思ったのがきっかけでした。正直1ヶ月持てばいいと思ったんですが、使ううちに気がつけば1年くらい使っていて、自分でもそれに驚いて、あ、段ボールの財布って意外と使えるんだと発見して、そこからこの活動ちょっと面白いから広げてやってみようかなと思いました。この一番最初の段ボールが、スーパーに酒屋さんが入っていて、そこから出たワインのダンボールでしたね。デザインが木の木調がデザインしてあってなんとなくなんかに使えるんじゃないかなと思って取ってあったのがあってそれが最初の段ボール財布でした。」

翌年の2月、島津さんは初の海外旅行、アメリカ・ニューヨークを訪れました。

「段ボールの活動はちょっとずつ始めていたんですが、別に海外に行って段ボールを拾おうとは思ってなかったんです。ただ、ニューヨークについて街を歩いていたら、段ボールが日本のものと違ってかっこよく見えたんです。

エンパイヤステートビルとか自由の女神とか見たかったんですけど、結局段ボールの方に目がいってどこにもいけずに、段ボールの写真だけ撮って帰ってきた、というそのくらい没頭した記憶があります。色とかデザインが全然違って、色使いが華やかだったり、質感もしっかりしてかたくて、日本と違うなという発見があって。これ、日本で段ボールを拾うのと海外で拾うのは全然別物だなと思って、世界中の段ボールを拾ってみようという旅が始まって、かれこれ11年になります。」

この旅をきっかけに、島津さんはその後、イギリス、スペイン、ギリシャ、チェコ、ロシア。 アジアでは、ミャンマー、タイ、フィリピン、中国。さらに オーストラリア、南アフリカなど、35の国と地域をめぐり、ダンボールを集めました。

「段ボールを拾うために海外に行くのも慣れてきたというか、観光がないんですよね。世界遺産に行くわけでもなくひたすらスーパーに行ったり、街中にあるゴミ箱をあさって写真を撮ったり、拾ってきたり、っていう。こんだけインターネットが普及しても、やっぱり、段ボールがどこに落ちているかという情報は誰も知らないし、一期一会の世界なんですね。だからその国に行かないとわからないし、その国の風景とともに、生活とともに段ボールがあるので、やっぱり自分の足を使って行くのは大切なことだなと思っています。」

世界で出会った段ボール、数ある思い出の中で特に印象に残るエピソードを教えていただきました。

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「僕が面白いデザインだなと思ったのは、エジプト産のオレンジの段ボールで、実はこの旅をしていく中でフィリピンで初めてそのエジプト産のオレンジの段ボールを見つけたんです。どういうデザインかというと、段ボールにピラミッドとオレンジが書いてあるだけ、というデザイン。すごくその段ボールが欲しかったんですけど、フィリピンでそれを見たときに残念ながら使われていて拾えなかったんです。で、その2年後にリベンジのためエジプトに行ってその段ボールを拾おうと思ったんですが、やっぱりエジプトに行ってもその段ボールは見つからなくて、収穫できなかったんですね。ですが、1年後にマレーシアに行ったときに、たまたま市場でそのエジプト産のオレンジのダンボールを発見して。うわ、これはやばいと思って、しかも捨ててあったので、近くのおじさんに『これ持っていっていいですか?』と言ったら『いいですよ』ということで、急いで拾ってホテルに戻った、という記憶があるんですけど。」

段ボールを使って財布を作るアーティスト、島津冬樹さん。コロナ禍の今、どんなことを考えているのしょうか?

「自分の中で今興味があるのは、この段ボールで財布を作ること自体をもっと広げていくことです。今まで、自分で財布を作って販売してということを中心にやってきましたが、そうではなくて、自分自身で段ボールを作ってそれを財布を作ってという体験自体を自分でやってもらいたいなという気持ちが強くなっています。型紙を無料でダウンロードして自分で段ボールで財布を作ってっていう活動もしていますし、2月には『段ボール財布の作り方』という本も出ましたので、それを見て簡単に財布が作れるということもできますし、もっともっと段ボールで財布を作るということをシェアしていきたいですね。おうち時間で手作りも見直されているし、コロナ禍で通販を使う方も増えたと思うんですが、たまってしょうがない段ボールを捨てるだけじゃなくて、それを違うアイテムに変える、ということを自分の手でできたらすごく素敵なんじゃないかと思います。そういうことを今後は広げる活動をしていきたいと、それが日本だけじゃなく世界中に広がると段ボールのみならず、不要なもの、捨てられるものも視点を変えれば、こういうものに変えられるんだという気づきを与えられるといいなと思っていますね。それがコロナ禍で気持ちとしては変わったところではあります。」

島津冬樹さんウェブサイト