今週ご紹介するのは、農家や漁師のみなさんが直接、ネット上で旬の食材を出品・販売するオンラインマルシェ、その名も【ポケットマルシェ】、通称ポケマルのHidden Story。

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【ポケットマルシェ】=ポケマルのアプリをひらくとそこには真鯛、ホタテ、車えび、そして、だだちゃ豆、きゅうり、さくらんぼに メロンなど多くの食材が 生産者さんのコメントとともに並んでいます。このプラットフォームを始めたのは、高橋博之さん。

「9年前に東日本大震災がありましたよね。僕は岩手の人間なので、大槌町っていう漁師町に支援に入っていたんですよ。でも、僕の生まれ故郷は岩手の内陸部の花巻というところで漁師さんはいません。被災地で初めて漁師さんに出会って、友達になっていろいろ話を聞く中で、魚や貝をとるのはこんなに大変なのかと知りました。一方で、漁師の町では若い人が『魚を穫ってもめしが食えない』って都会に出て行ってしまったので、正当な価値が伝わっていないなと、お魚のうしろにいる生産者さんの想いが伝わらないなと思って、当初『食べる通信』という食べ物付きの情報誌という形で、生産者の物語と食材をセットにして都会の生活者にお届けするということを始めたんですが、これが東北から始まって、全国に広がったんです。」

生産者の物語が書かれた冊子と食材がセットで届く『食べる通信』。2013年からスタートしたこのサービスを、もっと身近で、より多くの生産者を紹介する形にしたい。そんな想いで始まったのが、【ポケットマルシェ】。高橋さんが重要だと考えたのは、農家や漁師のみなさんが『簡単に』出品できることでした。

「農家や漁師は現場があって忙しいので、めんどくさがりの人もいるし、とにかく簡単に出品できるようにしました。スマホで収穫したばかりの農産物や水揚げしたばかりのお魚をパシャッと撮って、自分で商品名決めて、値段決めて、クールだ、サイズはなんだとうのをピピピと設定できるんですが、慣れると2~3分で出品できるんです。ポケットマルシェのプラットフォーム上に岩手県の釜石の漁師さんが今とって来たカニだって出品されるじゃないですか、お客さんがそれを見て買いたいと注文が入ると、ヤマトさんがお客さんの住所を印字した伝票を漁師さんのところまで持ってきてくれるんです。だからあとは箱や発泡スチロールに梱包してドライバーさんが持って来た伝票をぺたっと貼って渡すと翌日くらいには東京とかには届くという、それくらい簡単にしました。」

もうひとつのポイントは、生産者自身が、出品するものについての情報、ストーリー、おすすめの点を記入すること。

「生産者自らが生産現場にいるわけですから、そこの自然のことでもいいし、生産にかける想いでもいいし、いろんな工夫や失敗でもいいので、自分が生み育てた、育ての親なわけですから、自分の息子自慢をスマホで消費者に伝える。この競い合いを全国でやったら、農家と漁師の世界はすごく楽しいので、消費者をドキドキワクワクさせる世界ができるんじゃないかなとそういう妄想を抱いて始めたんですね。僕、一次産業のエンタメ化と呼んでるんですけど、エンタメなんですよ、あの人たち。何よりも消費者にダイレクトに生産者の価値とか素晴らしさが伝わるだろうなと思ってやってるんです。」

ポケットマルシェでは、今回の新型コロナウイルスの感染拡大を受け、特に大きな影響を受けた生産者さんからの出品に、『新型コロナで困っています』というハッシュタグをつけています。

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「ひとつ具体例をご紹介すると、三重県の南伊勢町に真鯛を養殖している漁師さんがいます。ネット直販したことない方なんですけど、数万匹、海のいけすを回遊していて、真鯛は高級魚なので首都圏や関西の飲食店を中心に卸していたんですよ。でもそれが卸せないのでひたすら回遊している。何年もコストをかけて育てた真鯛なんですが、その人にご縁があって出会ったので、『ポケマルやってみませんか』と。その人は丸の魚をそのまま一般の人に売っても売れるわけがないと思っていたんです。でも、実際売り始めたら、今、5000尾まで売れました。うろことか内蔵はとってあげるけれど、基本あの真鯛、切り身じゃなくてあのまんまです。その漁師さんはZOOMで定期的に真鯛のさばき方オンライン教室みたいなのを開いてやっているんですが、どんな人が買ってるのかなと見てみたら、多くは、生まれて初めて包丁で魚をさばくことにしてみたとか、子どもが今まで切り身の魚しか見たことなかったのに、いきなり一尾の大きな魚が届いて、『これがお魚なんだ!』と、まさに食育ですね。そういうことでみなさん包丁もって魚に親しみ、家族の会話もはずみ、漁師さんにごちそうさまを言う。そうするとね、衰退してきた魚食文化に一筋の光が差し込むみたいな、そういう感じがするんです。」

【ポケットマルシェ】の代表、高橋博之さんは、最後に こんなことを話してくれました。

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こういう予期せぬ災害が起きたときに威力を発揮するのは、日常からの生産者と消費者の顔が見える関係性なんですね。今回もコロナの感染が始まったころに田舎の生産者さんがニュース見てたら東京のスーパーが買い占めで食材が消えたみたいなニュースがやっている。すると、普段、東京でいつもリピートしてくれるお客さんにみんな一斉に連絡してるんですよ。『東京は大変だと言ってるけど、スーパーにないなら送るぞ。』と。それは何かというと、日頃からの顔が見える関係性が、何かあったときに、あの人大丈夫かなと心配して心を寄せる。だから、単純に食べ物とお金を交換しているだけじゃなくて、みなさん関係性を育まれている。だんだんにふるさとがない人が増えていますが、ここで出会った生産者さんのところに、夏休みとかにお子さんと収穫体験とか、海で水揚げ体験とかをして、ふるさとを作っていけばいいんじゃないかと思っています。実際、そういう人たちも出てきていて、そうすると都会のふるさとがない人もふるさとできたみたいな感じもあるし、逆に年輩の生産者さんは孫ができたみたいだと。」

ポケットマルシェ