音楽やデータを記録するCD-R。これは、太陽誘電という日本の会社が開発、世界で初めて製品化したものなんですが、いま、そのCD-Rの技術が、水害対策に使われようとしています。そのHidden Story、ご紹介します。

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電子部品メーカーの太陽誘電がCD-Rを開発したのは、1988年。まずは、CDとCD-Rはどこが違うのか? CD-Rはどこが画期的だったのか、教えていただきました。    

CDというのは、スタンパーと言ってピットという凹凸があるものをプレスのところに作っておいて、樹脂を入れてパッとプレスするんです。CD-Rは、手元で記録機がレーザーで出力をオンにしたらハイパワーですよね、ハイパワーにしたときにピットが記録して、オフにすると記録されない、オンにすると記録する、これを繰り返してピットを記録していく。しかも渦巻き状になっているんですね。そこをディスクが回転して光を当てたり消したりしてピットを書いている。市販されていた音楽のディスクとまったく同じものが手元で書き込めるようになったんです。それは画期的でしたね、当時は。本当に画期的でしたよ。」

お話をうかがったのは、太陽誘電株式会社の砂川隆一さんです。砂川さんが 当時 たずさわっていたのは、CD-Rをさまざまなハードウェアで使えるようにする技術でした。      

「いろんなハードウェアに適合させるために、ノイズ低減という技術をやっていたんです。光が光ディスクに当たります。当たって反射して光が返ってきます。でも光ディスクは見た目は平らですけど平らではない。回ってますからあちこちいきますよね。ピットも案内溝もあるんですけど、フラフラ揺れてたりする。揺れていると返ってくる光も揺れている。そういうのが全部ノイズになるんです。読み出しするとき、もしくは書き込むときには邪魔になるだけなのです。」

このノイズを低減する、少なくする技術は川の水位を計るためにも活用できるのではないか?今から10年ほど前に そんな発想が生まれました。   

「川もいろいろありますから、揺れも何もない川ってないと思うんですよ。大雨が降ったらバサバサやってるし、ゆるやかに流れていたとしても波打ってますよね、だから水の表面はキラキラしているんですけど、それも返ってくる信号として見ると、光ディスクに信号と結構似てるんです。光ディスクというのは非常に小さなもの、目にも見えないピット、ピットというのはくぼみです。それを書いたり読んだりしています。それを川に当てはめるとスケールが大きくなっただけなんですよ。橋があって、光ではないんですけど、ミリ波を使って川に照射して川から返って来た反射信号を見て距離を見ています。」

例えば、橋の上から、ミリ波という電波を川にあて、返ってくる信号によって、橋と川の水面の距離をはかる。砂川さんは、かつてCD-Rに使ったノイズ低減の技術をこの測定に使えると 考えました。取材にお答えいただいた砂川隆一さんは水位計の開発に際し、日本全国の川を視察しました。  

「当時、水害があった場所を何カ所か回っていろいろ確かめました。水位センサーもいっぱいあったんですが、まだまだ足りない。すぐ感じたのは、本当に人が逃げるということを考えると、自分の家が川のそばだったとして、すぐそばの水位がわかれば逃げるかもしれないですよね。でも、例えば10キロも離れたところのデータを言われてもピンとこないじゃないですか。だからセンサーっていっぱいつけないといけないなと思ったんです。我々企業ができるのは、正しく情報を伝えるようなセンサーを、設置しやすく、小さく、さらに低コストで作る。今回そういう風に作ったつもりですので、いっぱい網の目のようにセンサーを設置できるはずだという風に想定しています。」

太陽誘電は、従来のものより、格段に小さく、コストも安い水位計を開発。去年からは 実際に川に設置して、実証実験がおこなわれています。そして、その中で見えて来たことがありました。それは、大雨によって土砂が流れ込み、川底が上がる場合がある、ということ。

「あとで確認に行ったんですけど、川底が上がってます。この水位計をつけたところは、1メートルくらいあがりました。そうするとどういうことが言えるかというと、ずーっとある距離ごとにつけておくと、いま、危険氾濫の水位があるんですけど、川底が上がってしまえば、より早く、氾濫しますから、そういうことをちゃんと見られるようになるんですね。いま誰も見れてないんです。これは大きな問題だと思いますよ。」

砂川隆一さんに最後にうかがいました。これからの目標は、どんなことでしょう?

「これは第一弾で作ったものだし、できる限りみなさんが、みなさんというのは危ない地域だけではありません。いろんなところに水位計、もしくは災害対策のものをつけてもらって、正しく情報を判断してもらう状況を作って、危ないときは逃げてもらう。逃げるべき時に逃げるべき所に逃げてもらう。そういう仕組みを作りたいというか、そういうことに少しでも貢献していきたい。私たちが仕組みまでは作れませんがそれに貢献していきたいと思っています。」

太陽誘電ウェブサイト