今回ご紹介するのは、先月、東京・京橋にオープンした【アーティゾン美術館】。

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同じ場所にあった【ブリヂストン美術館】がビルの建て替えにともない 2015年から休館。新築された 23階建ての『ミュージアムタワー京橋』の中に、名前も新たに【アーティゾン美術館】として開館しました。そのHidden Story、ご紹介します。

お話をうかがったのは、【アーティゾン美術館】の教育普及部長で、開館記念展 担当学芸員の貝塚健さん。まずは、前身となる【ブリヂストン美術館】について教えていただきました。

「石橋正二郎は株式会社ブリヂストンというタイヤメーカーを作った人物、いわゆる20世紀を代表する実業家のひとりです。その石橋正二郎が40歳になるころに絵を集め始め担ですが、それを秘蔵するのではなくて、一般の方と一緒に楽しむことを目指して自分の個人コレクションを一般公開するために作ったのがブリヂストン美術館です。

タイヤメーカー、株式会社ブリヂストンの2階に(本社ビルの2階に)ギャラリーを作ってそこに個人コレクションを展示しました。それが出発点です。」

ブリヂストン美術館は、1952年の1月に開館。その後、65年以上にわたって愛され続けてきましたが、今回、名称も変更し、【アーティゾン美術館】として新たなスタートを切りました。

  「私立美術館のほとんど、99%は、創業者・創設者、あるいは創設に関わった企業名、もしくは地名がつきます。

創設者がらみか地名がらみ、そうではない新しい名前をつけようということでいろいろ議論がありまして、アートとホライゾン、芸術と地平線、それを組み合わせた造語、英語の組み合わせの造語を館名にしました。

ホライゾン、というのは、これまで人間が積み重ねて来た作品、アートが地平線にずーっと様々に連なっている。さらに地平線の向こうから次のアート、次の時代のアートが少しずつあらわれてくる。そういう地平を我々は待ち構えているし、美術館のなかでそういう地平をお見せしていこう、という気持ちを名前にした形がこの名称です。」

【アーティゾン美術館】は、新しい技術も取り入れています。例えば、

空調設備は、美術館では比較的新しい試みなんですが、下から新しい空気がじわじわっと吹き出す置換式というもので、下から吹き出す空調は美術館では珍しくないのですが、多くは風が感じられるくらいの強い吹き出しなんです。

しかし、我々のものは手をかざさなければわからないくらい、じわじわっと出て来て...、私はしみ出し型と言っていますが、置換式の空調、それは日本の美術館では新しいものです。

あと、絵や彫刻を照らす照明は、いまはどこでもLEDです。ちょっと専門的な話になりますが、青色励起、青を基準にして色を作るのがいままでのLEDなのですが、紫色をもとにして光を出すという紫励起というLED照明を新しく開発しました。

これは照明会社のYAMAGIWAと我々の共同開発で、3年かかりました。今の段階では、最も絵の色の素晴らしさを引き出すものです。青ばかり強調されたり、赤ばかり強調されたりという照明があるのですが、我々が開発したのは、青い絵は青く、赤い絵は赤く...という色の再現性が一番優れている照明です。」

現在、【アーティゾン美術館】で開催されているのは、開館記念展『見えてくる光景 コレクションの現在地』。

「最初は我々の持っているコレクションをまずお見せして、5年ぶりの自己紹介をきちんとやろうということでコレクションだけの展示にしました。

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これは2部構成にしています。1部が『アートを広げる』という第1部で、6階にある最初にご覧いただくフロアは正方形の柱がない空間なんです。

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そこに仮設の壁をたてて、我々の持っているコレクションの強みである近代美術、具体的に言うと、1873年のマネという作家の絵から2007年のスーラージュという人の絵まで約130年間、それを一望できるような、これをきっちり見てもらおうというのが第1部です。

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続く5階と4階は、『アートを探る』というテーマにしまして、7つのテーマでちょっと深く掘り下げてみよう、ということで組んでみました。例えば【装飾】というコーナーには、6000年前の土器があるんですが、これには幾何学紋様があります。6000年前の人類はそんな模様は必要ないはずなのに模様をつけたくなっちゃう。そういう装飾という欲求は6000年前に持っていて、それが20世紀のマチスや前田青邨(せいそん)という画家にも受け継がれていく、というところを作品で探っていく、文章や言葉ではなく作品で探っていく。」

そして、展示のHidden Story、ひとつご紹介いただきました。  

「例えば、ある角度から見ると、ポール・セザンヌの最晩年の風景画と青木繁の『海の幸』という絵がちょうどずれて見えるような壁を作っているんです。

亡くなる間際のセザンヌが抱えていた問題と青木繁が22歳のときに描こうと思っていたことは全然違うんだけど、実は、同じ年に描かれている。

全く関係ないけど、距離をこえて、ふたりの個性が、南フランスと千葉県の館山で燃えていた...というのを見ると、どこか面白い。関係はないけど組み合わせると面白い。そういう見方ができるような隠し所をいくつも用意しています。そこを楽しんでいただきたいです。」

最後に、【アーティゾン美術館】の貝塚健さんは、『美術館』そして『美術作品』についてこんなことを語ってくれました。

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「美術館とか美術作品というのは、人間に対してのスイッチみたいなものだと思っているんです。

ひとりひとり、さまざまなアプリをダウンロードして持って、普段は気づいていないけど、そういうアプリを起動するスイッチが作品、美術品。

こういう作品を見ると、今まで気がつかなかった思い出が思い出されたり、何かと何かをくっつける自分の中のシステムみたいなものが起動したり...。

でも日常生活では、いらないから気づかないけれど、それが美術館に来るとひとつひとつの作品が起動させてくれる...。

それが美術館だったり美術品の面白さ、だから美術館って美術品を見にくるところでもあるけど、自分のアプリを確認しに来るところ。

自分はこういう絵が好きなのか...というのもひとつのアプリが起動している...そういうところだと思います。」

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アーティゾン美術館ウェブサイト

https://www.artizon.museum