今回ご紹介するのは、コラージュアーティスト・グラフィックデザイナーのM!DOR!さんです。

20191206h02.jpg

今年の大ヒットアルバム、 Offcial髭男dism『Traveler』のジャケットアートワークを手がけられたM!DOR!さん。これまでどんな道を歩んでこられたのか?そもそも、コラージュというのはどんな手法なのか?M!DOR!さんのHidden Storyをお届けします。

M!DOR!さんのアーティストとしての作品づくりの手法は『ハンドコラージュ』。1800年代から1950年代ごろまでの雑誌など、紙の現物を切り、それを貼って作品化されています。

「アウトラインは、はさみで切って、細かいところはアートナイフという小さいペンタイプのカッターみたいなものも使って切り抜いています。のりはみなさんも普段使ってらっしゃる普通のスティックのりです。作品に関してはハンドコラージュというのを決めていて、当時の素材をコピーせずに現物を使うということで自分に制限をかけています。そうすることによって作品が一点ものになるし、見る方も当時の紙ものの色だったりモチーフだったりをそのもので感じていただけるのでそれは決めてやってます。これはハンドコラージュという手法で、アナログコラージュとも言います。パソコンとかで作るのはデジタルコラージュと言いますね。仕事はデジタルコラージュ、作品はハンドコラージュ、という風に分けています。」

ご自身の作品をつくるときは、ハンドコラージュ。依頼されてアートワークをつくるときはデジタルコラージュという手法で日々、制作活動を続けているM!DOR!さん。最初にコラージュに興味を持ったのはどんなことがきっかけだったのでしょうか?

「高校生のときに古書店でロシアアバンギャルドという美術のジャンルがあるんですけど、そのロシアアバンギャルドのポスターの本を見て、そこにすごくかっこいいポスターが載っていたんですが、手法がコラージュって書いてあったんです。コラージュって何だろうと思って調べたら、簡単に言うと、切って貼る、みたいに書いてあって、私は絵を描くのが苦手なので絵以外で何か自分にできることはないかなと思って、ま、切って貼るんだったら私にもできるかもしれないと思って始めました。そのとき読んでいたファッション誌だったりとか、カレンダーの後ろの表紙だったり、今みたいにかっこいい雑誌は持っていなかったので、手持ちの素材でできるところで、という感じでやっていました。」

雑誌の誌面づくりに興味を持ったM!DOR!さんは文化女子大学(現在の文化学園大学)の編集デザインコースを卒業。デザイン事務所に所属されます。その後、原宿のギャラリーでグループ展にアーティストとして参加。さらに、仕事の面では、ファッション誌『Them magazine』をはじめ、雑誌の誌面での活動も増えていきました。

そして、2012年に独立。2014年には、GLAYのツアーパンフレットも手がけました。

「そのお仕事をいただいたきっかけなんですが、私がすごく入りたかったデザイン事務所があって、でもそこのデザイン事務所は私が就職する当時は募集していなかったんです。でもとにかくそこの事務所の作品がすごく好きだったので、とりあえずポートフォリオと自分の作品だけ持って『とにかく見てもらえませんか?』ということで押し掛けて見てもらって。で、そのときにお話を聞いていただいた方からのご依頼で、すごくびっくりしたんですよね。その方からいきなり電話がかかってきて「だいぶ前に面接に来ていただいたんですけど」みたいな感じで。(笑)それがまさかのお仕事につながって、それがGLAYのツアーパンフレットでしたね。」

音楽関係のお仕事といえば、今年、大きな注目を集めたのはOffcial髭男dismのメジャーファーストアルバム『Traveler』。そのジャケットのアートワークです。

20191206h01.jpg

「もともとヒゲダンさんのこれまでのアートワークをやってらっしゃるデザイン会社の方からご依頼をいただいてお仕事につながった感じです。

鈴木このみさんという方のアートワークをやったときにご一緒させていただいたデザイン事務所で、『ヒゲダンさんたちがコラージュでアートワークをやりたいということだったので M!DOR!さんしかいないと思って』とご連絡いただいて。

ヒゲダンさんってすごく人気だし、ラジオからも毎日曲が流れて、素晴らしい曲を作る方たちだと思っていたので、まさかヒゲダンさんとご一緒する機会があるとは思っていなくてびっくりしましたね。

そのあとは打ち合わせをしながら、アルバムのイメージだったりとか、どういう曲があるのか聴かせていただいて、曲のイメージや、曲に出てくるモチーフだったりとか、メンバーさんのことを調べさせていただいてこの方はこういうものが好きなのかとか、ファンの方のブログとかを拝見したりして、アートワークを制作させていただきました。」

ヒゲダンのアルバムには『ビンテージ』という曲も収録されていますが、この『ビンテージ』、M!DOR!さんも 好きな言葉でした。

「ビンテージって単語、私もすごく好きなので。その時点で嬉しくって。雰囲気も曲調もビンテージというか、ヒゲダンさんのポップなんだけどもどこか懐かしさを感じられるフレーズだったりとか、そういうのもアートワークに落とし込めたらと思ってイメージしました。ご本人たちがやりたいイメージがもともとあって、それが固まっていてコラージュでこういう形にしたい、というのがあったので、やりやすくもあり、その決まったイメージをさらにどうヒゲダンさんの音楽に寄せられるかということで楽しく制作させていただきました。やっぱりモチーフで曲を抽象的にイメージしていたりとかタイトルそのもののものを入れていたりとか、その辺はファンの方に、これはあれか?という感じで探してもらえたら楽しめると思います。」

CDのジャケット、雑誌の誌面、商業施設のショーウインドウなど、さまざまな仕事とともに、M!DOR!さんは ご自身の作品づくりも続けています。最後にうかがいました。コラージュの魅力、どんなところに感じていますか?

「やっぱりコラージュの魅力は偶然で作られる面白さ、というものがあって、それは現物の紙ものを使うから生まれる偶然なんです。デジタルコラージュだと色を変えられたり、サイズも変えられたりとかもう無限に変えられるんですけど、実物を使うことでもともとの紙の色も変えられない、サイズも変えられない。それを組み合わせたときに、例えばサイズが少しでもおかしいと組み合わなかったりするんですが、すごくうまくカチッとはまるタイミングだったり、年代と年代で紙質がぴったりあったりとか、そういう偶然が起きるのがコラージュの魅力だと思います。

その経緯を想像するのも面白くて、本に名前が書いてあったりするとどういう想いでこの方はこの本を持っていたのかなとか、時をこえて自分の元に今ある奇跡、というのがコラージュをやる楽しみの源でもあります。」

M!DOR!さん公式ウェブサイト