今週は、自転車に乗るときに着用するサイクルウェアを製造・販売する会社【パールイズミ】をご紹介します。開発するウェアは、年間およそ600種類。その商品開発の指揮をとる 佐藤充さんにお話をうかがいました。

【パールイズミ】では今、東京オリンピックに向けた新しいウェアの制作が最終段階を迎えています。まずは、そのウェアの素材について教えていただきました。

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「スピードセンサー®という素材がありまして、それはアテネオリンピックのときに空気抵抗を軽減させるような素材ができないかなということで我々が初めて研究して作った空気抵抗を減らす生地なんです。

それはどちらかというと競輪競技やトラック競技のスピード域でいかに抗力を下げるかという素材だったので、今度考えたスピードセンサー®2という素材は、ロード競技で使えるような素材で空気抵抗を減らせる素材ということで開発したものになります。」

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わずかな薄さのウェアですが、世界トップレベルの争いのなかではそのわずかな差が勝敗を分けます。

「風を受ける面積が減れば減るほど空気抵抗は減って行くので、そのなかで、必要な部分に凹凸をつけて、そうでない部分に凹凸をつけない、ということをやっています。

よくF1とか車で風洞実験って言いますけど、ああいうことを自転車でも素材開発から製品開発までやったりしています。

でも、人が乗って風洞実験をやると1回の試験、2回の試験、3回の試験で結構ばらつきが出るんです。いかに選手といえども何十キロの風を受けながらこいでいるとペダリングもおかしくなってきたりもするので、今回はちゃんと動くマネキンを制作して、1回1回のテストのブレが極力ないようにということでやりました。通常、風洞実験ってあんまり動くものでやらないらしいんですよ。

通常は止まっているもの、飛行機の羽根とか、自動車にしても止めた形でやるので、結構珍しいらしいです。」

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風洞実験は、JAXAの施設を借りて実施されました。動くマネキンを作成して、ペダルをこいでいるマネキンに風をあて、空気抵抗を測定しました。そんな実験を経て開発されたウェアは、いま、最後の詰めの段階。

「今ちょうど、全日本のロードの選手にプロトタイプを渡して着用してもらっています。素材的には、肩のところに格子柄が入ったものが新しい素材になります。

上腕部のところと、脚の側面に配置しているんですが、その部分の抗力を低くすることができる、という実験結果のもとにこういう形で入れてます。実は、ここの配置がいいよねってなるまでにサンプルだけで20体くらいは作っているんです。それをすべて風洞実験にかけて、どれが良い・悪いというのを比較しました。

そして、もちろんこれになる前に生地だけの単体のテストもやっています。いろんな凹凸素材を集めてきて、生地単体を風洞実験にかけて、この格子柄が一番よかったんですよ。

その後もそれをそのまま製品にするのではなくて、格子柄の中でも大きさが違えばどうなんだ、という実験をしたり。素材から始めて、2年かそこらはやってますね。」

【パールイズミ】」では もちろん、一般の方向けのウェアも作っています。例えば、これからの季節でおすすめは??

「ちょうど今、冬時期に差し掛かっているので防風のアイテムが人気です。弊社の品番でいうところの3500-BLというウインドブレーク ジャケットというのがあるんですけど、体にびたっとフィットするわけでなく適度なゆとりを持ってフィットするので、着心地がよくてしかもあたたかい。関東では今くらいから2月くらいまで着られる商品になっています。この商品は前身頃と後ろの背中の中心の部分は違う素材を使っています。自転車は汗をかくので、汗をかく部分は汗を抜けやすくしたいんですよね。

でも寒いところは抜けちゃうと困るので風を止めないといけない。なので、相反する機能を一着の中に入れないといけないんです。」

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こうした商品づくり、開発の段階では必ず試作品ができ、それを社員のみなさんが実際に試すそうです。

「弊社の場合はほとんどのスタッフがロードバイクに乗っているので、サンプルはきょうほやほやできあがったものをパタンナーが「今日着て帰ります」って着て帰って、次の日会社に来て、だめだったとかよかったとかすぐに聞けます。ちょうど、おとといも社員と三崎にちょろっと走りに行ったんですけど、サンプルを着用したスタッフが前を走っていて、再帰反射の位置が悪いなとか。再帰反射って、光に反応してピカッと光る資材です。あとは、走っているのを見て、こういう風に見えるんだとか。」

最後にうかがいました。佐藤充さんは、どんな想いをこめて自転車のウェアを作ってらっしゃるのでしょうか?

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「自転車ウェアを作っているんですけど、決して自転車を楽しむ中で自転車ウェアってメインじゃないんですよね。やっぱりメインは乗っているライダーさんというかユーザーさんなので、その方たちになるべく不具合をかけたくないというか、着た時にちゃんとフィットして、ハンドルを握る時に握りやすくて、ペダリングするときにペダリングしすくて、着ていることを忘れるようなウェアを作りたいと思って作っています。できるかぎり、ユーザーさんがメインでいられるように、ものを作っていきたいなと思っています。」

リンク https://www.pearlizumi.co.jp/