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今回ご紹介するのは【シブヤフォント】。

フォントは文字の書体のフォントなんですが、きょう注目する【シブヤフォント】は、渋谷でくらし・はたらく 障がいのある人の描いた文字や数字を、渋谷でまなぶ学生がフォントとしてデザインしたパブリックデータです。どのような想いを込めて誕生したものなのか、そのHidden Story、お届けします。

今回お話をうかがったのは、【シブヤフォント】のディレクションを手がける磯村歩さんです。まずは、このプロジェクトの始まりについて教えていただきました

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「もともとは渋谷区長が渋谷のおみやげを作りたいということで、渋谷区のいろんな部署に呼びかけをしたところ、障がい者福祉課が手を挙げてたんです。そして、できれば地元の学生と一緒に地域の物語づくりを兼ねた形でものづくりをやりたい、ということでした。

障がい者の工賃が全国平均1万5000円ですとか、かなり低いこともあって仕事を作り出さないといけない、それに地域の学生と連係してものづくりをしたい。

それがひとつの物語になって地域のみなさんに支持をいただけるのではないかと。

私がたまさか渋谷区内の桑沢デザイン研究所という学校で講師を足かけ6年ほどやっていたんですが、そこで福祉施設のものづくりをテーマにしてやっていたんです。それで渋谷区の障がい者福祉課から声がかかって、私が学校と区を取り持つ形でスタートしたのがそもそもの発端です。」

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スタートは渋谷区長・長谷部健さんの『渋谷の【おみやげ】を作りたい』という想いでした。磯村さんは、学生8人とともにいくつかのアイディアを提案します。

その中には例えば紙すきの商品とか、さきおりといって手でおっていく商品、3Dプリンターを使う商品などがあって、その中に障がいのある方の文字をフォントにするアイディア、さらに紋様にするアイディアもあったんです。合計5案ほど提案して、長谷部区長以下、選考いただいた結果、文字をフォント化するアイディアが選ばれました。

7施設ほどの福祉施設にスタート時点で協力いただいていて、『何をみやげとして作り出すのか』けんけんがくがく議論したんです。

これは福祉施設の想いでもあったんですけど、せっかく渋谷の作業所なのだからいろんな企業とコラボレーションをしたいと。そのときに、そういった地域の企業とコラボレーションするアイディアとしてフォントをやりたい。

フォントを作れば企業とコラボしてものづくりができるし、作業所が作っているぬいぐるみだとかの生地にも使えるし、そういったデータを使うことで福祉施設が地域に開いていくだろうと。」

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最初の年は 文字をフォント化。2年目からは絵を使ったパターンデータもシブヤフォントのラインナップに加わりました。専門学校の学生が障がい者支援施設のみなさんと一緒にフォントを作成。それと同時に、おみやげとなる商品づくりも進められました。

「テーマが渋谷みやげなので、データを作る一方でおみやげの開発は事務局側で渋谷区と一緒に渋谷区の企業を回って商品化のオファーは同時進行でずっとやり続けていたんです。2年目は学生自身にデータも作りながらそのデータを使ったおみやげの試作品も作ってもらいました。それを営業ツールにしていろんな商品化を呼びかけて行ったんです。3年目は今度は具体的に恊働していただけるメーカーさんが出てきて、タオルをテーマに、タオル向けのデータをつくり、タオル向けのデザインをし、商品化につなげていったみたいな。」

2016年に始まったプロジェクトは、毎年進化をかさね、いまは毎月、シブヤフォントを使ったプロダクトが生まれるほどに成長しました。そして、、、

「販路拡大ももうひとつのテーマです。昨年は渋谷ヒカリエで2週間のテスト販売をして、2週間で200万円ほど売り上げ、それをひとつのステップに今年度は渋谷スクランブルスクエアに常設の販売スペースをご用意いただけることになりました。

僕ら自身も嬉しいお声かけだったんですが、何より嬉しかったのが、よく『渋谷区の斡旋ですか?』と聞かれるんです。

チャリティ枠での販売ですか?と。実はまったくそうではなくて、渋谷ヒカリエの商品ラインナップをご覧いただきその上でシブヤフォントを商品ラインナップに加えたいとおっしゃっていただいたんです。

なので、通常の委託販売という形なので委託費もお支払いしますし、それがかなえうるコスト構造を福祉施設と連係して作り上げ、一般流通で他の商材と同じ条件で選んでいただいたというのが、渋谷スクランブルスクエアでお声かけいただいた背景で、僕らとしても非常に嬉しく思っています。」

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シブヤフォントの事務局は、今回取材させていただいた磯村歩さんが代表取締役をつとめる会社『フクフクプラス』が渋谷区から業務委託をうけ 運営。企業とのライセンス契約も担当され、すでに多くのアイテムが生み出されてきました。

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「障がいのある方の描いた絵を活用するというのは全国で行われています。ただ、通常は四角いフレームに書いて美術館で展示して、なかなかそこからの広がりがあまり持ち得なかったんですよね。でも、シブヤフォントはある意味、障がい者アートを誰もが使えるフォントとパターンデータにしている、さらにデジタルアーカイブにしている。それによって企業とのコラボレーションが生まれて、区民の方々も無料でダウンロードできるものもあるので、どんどん自分たちのイベントに活用いただいたりと、いま非常に広がっていると思います。

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おそらく印刷物で言うともう数十万数百万とかその規模で事務局でも把握しきれないですし、渋谷区の職員の全PCにはシブヤフォントがインストールされているし、渋谷区の職員の名刺には数百人というレベルでシブヤフォントが採用されているし、フリーダウンロードはどんどんされているので数千万という規模で渋谷区で生まれた障がい者アートが広がっているし、企業の契約で言っても20社弱が契約いただいて使っていただいているし、それこそ商品だけじゃなくて室内のインテリアだったり工事の仮囲いだったりノベルティだったり、という広がりを持てている。これは全国になかなかない事業モデルになっているなと思います。」

【シブヤフォント】ウェブサイト