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今週は、本との新しい関わり方を提案している二つの場所、箱根のブックホテル【箱根本箱】、そして、六本木の 入場料のある本屋さん【文喫】に注目します。

このスポット、手がけているのは、出版社と本屋さんの間の流通をになう、いわゆる取次の会社、日本出版販売株式会社の社員の方です。日販、リノベーション推進部の染谷拓郎さんと武田建悟さんのHidden Story。

まずは、取次の会社がなぜホテルを、そして入場料のある本屋さんをつくることになったのか、その始まりを教えていただきました。

 染谷さん:なかなか本屋さんに人が集まりにくくなっている、本を手に取る機会が減っている。そんな中、流通の立場から本屋さんをリノベーションしたり、新しい本屋さんをつくったり、あとは本屋さんじゃなくても全然違うところに本がある場所をつくったりするプロジェクトというか、新規事業部として発足しました。それが今のリノベーション推進部の前身のリノベーショングループで、以来、4~5年かけて新しい本がある場所のプロジェクトを進めています。」

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現在は リノベーション推進部でブックホテル【箱根本箱】を担当されるなどご活躍中の染谷拓郎さんですが、新入社員のころは、初めての配属先で、ご本人いわく、悶々とした日々を過ごしていたとか。

染谷さん:最初の2年間は物流の仕事で、すごく悶々としていました。最初、入社前にやる気をみなぎらせて入ったんですが、理想と現実のギャップに落ち込みながらというか、最初2年そういう仕事をして、そのあとは音楽レンタルの商品情報をまとめる仕事とか、メーカーさんとやりとりする仕事、それもルーティンで。

仕事中は、Googleのサイトをだしておいて転職サイトを見たり、古道具が好きだったので恵比寿の古道具屋さんの面接に行って内定ももらったけど、やっぱりやめたみたいな...全然一貫性がなかったんです。

もうさすがにこのままだと行き詰まってしまうなと思って上司に退職届を提出したのが、2015年の1月くらいでした。」

退職届を出した直後、社内で発表会のようなイベントがあって、そこでおこなったプレゼンテーションが染谷さんにとって大きな転機となりました。音楽活動もされていた染谷さん、こんな提案をしました。

染谷さん:本を読むスペースって室内とか電車の中とか図書館となると思うんですが、野外で本を読む機会をつくったらいいんじゃないかということで、アウトドアリーディングと名付けました。

音楽イベントで、公園で野外イベントをする機会があったんですが、自分がゲストとして出る機会があったので、はじっこに本を置かせてくれないかとお願いをしました。ちょうど秋だったんですけど、紅葉した木の下に自分の家からソファーとかテーブルとか本を持って来て、たまたま来た人が本を読み、コーヒーを飲んでみたいな...新しい本の楽しみ方を普段の本屋さんとか図書館とかとは別の軸でつくったんです。

で、こういう機会をつくることが本屋さんに足を運ぶきっかけをつくったり、本に興味を持つきっかけになるんじゃないかという投げかけをそこでした、という感じです。」

この発表をきっかけに、染谷さんは、日販に新設された『リノベーショングループ』に異動。箱根にブックホテルをつくるプロジェクトをスタートさせます。

染谷さん:ただ、ホテルをやると言っても右も左も分からない。そんな時、ちょうどホテルを自前で開業されて、普通のホテルじゃなくてお客様も体験してもらうみたいなホテルをやられていた自遊人さんとつながる機会があって彼らとやろうと。

自遊人さんと話すなかでも『日販さんがやるなら本でいこう』と。最初は、箱根の強羅というエリアなので、もっとラグジュアリーな感じにするとか、ペットと泊まれるペットホテルにしようとかお金になりそうな提案もいくつかの会社から受けていたんですが、『直球ど真ん中で、本でやろうよ』という話をいただいて。」

2018年8月、ブックホテル【箱根本箱】がオープン。

そして、その準備と平行して、【文喫】も開業へ向け 動いていました。六本木に入場料1500円の本屋さんを、というプロジェクト。武田建悟さんが明かすHidden Story。

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「 武田さん:六本木の青山ブックセンターさんの跡地でやらせていただいていますが、ここがあるからこの企画ではないんです。企画がいろいろ先行しているなかでたまたまお取引先の青山ブックセンターが閉店するというのをお聞きしたので、この場所で本屋の新しい、日販という本の取次の会社ならではの、再定義ができないかなということで今に至ってますね。いろんなアイディアが出るなかで、ふっと『入場料』みたいなキーワードが出てきました。本ってそもそも価値があるから、美術館とか映画館とかと感覚が似てるんじゃないかね、と、それがしっくりきて。」

【文喫】では、お客さんは、こんな風に楽しむことができます。


武田さん:入場料1500円をお支払いいただくとコーヒーと煎茶がそれぞれ飲み放題です。コーヒーは京都の小川珈琲さんから仕入れたり、煎茶も宇治のほうから仕入れていたり、ディテールにもとてつもなくこだわっています。

本のラインナップは3万点で、同じ本が一冊としてありません。本を楽しむ環境って人それぞれだと思いますので、お一人様で楽しめるカウンター席もそうですし、カレーを食べながらリラックスできる喫茶室を設けていたり、人をだめにするクッションが置いてあったりして寝っころがりながら本を読めるスペースがあったり、例えばそれがパソコンと向き合ってたまにインプットのために本を読んでいいアウトプットを出せるような閲覧室があったりとか。時間は無制限ですね。」

入場料のある本屋さん【文喫】

ブックホテル【箱根本箱】

共通するキーワードは、『本との出会い』でした。

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武田さん本屋に行くぞという感覚じゃなくて、知らず知らずのうちに本と出会って本を購入してくださる、みたいな。箱根もそうですが、目的買いにまったくあってない本屋さんなんですよね。みんな何に出会いたいかはきっとわかってなくて、でも何かには出会いたいという想いがある人が集まってきていて。

染谷さん:本離れとか活字離れってよく言われますけど、きっとそれって接する時間が、忙しいので触れている時間が短くなったということだったと思うんですよね。例えば、恋愛でもそばにいる時間が長ければ長いほど愛着がわいたりするじゃないですか。いっしょにいれる時間をどうつくるかというのが、アウトプットとして一泊とまっていただくホテルになったし、入場料をいただいて自由に過ごしてもらう文喫になったし、キーワードは一緒に過ごす時間とか出会う時間、機会をどうつくるのかがポイントにあると思っています。

武田さん:いい流れを業界全体にというとおこがましいですが、本屋っておもしろいよね、出版っていいよね、というそこにひとつでも力になれたらというかきっかけになれたらということで私も染谷もやっているので、箱根も文喫も一定の狼煙があげられたかなと思っています。」

文喫ウェブサイト

箱根本箱ウェブサイト

日本出版販売株式会社ウェブサイト