今週注目するのは、いよいよ今日開幕するラグビーのワールドカップで 日本代表が着用するジャージ。実は、そこには勝利のためいくつものアイディアが詰め込まれています。

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ラグビー日本代表、桜ジャージのHidden Story。

桜ジャージを手がけるのは、スポーツアパレルメーカーの『ゴールドウイン』とグループ会社の『カンタベリーオブニュージーランドジャパン』。今回は、開発のチーフ、『カンタベリーオブニュージーランドジャパン』の 石塚正行さんに お話をうかがいました。

ラグビーのジャージはこれまで、耐久性の強化・軽量化といったテーマで進化を続けてきました。

そして2015年、日本代表が強豪・南アフリカをやぶるなど大躍進したワールドカップでは、こんな桜ジャージが作られました。

2015年のときは耐久性を維持しながら軽量化をはかること、快適さをアップさせていくこと、というところで、要は、伸びる必要性があるところ、つかまえづらくするところ、通気性を高めるところ、あとは今回の2019年もそうなんですけど、肩に滑り止め効果のある生地を使ったんです。

これはなぜかというと、ラグビーはスクラムという特殊なパフォーマンスがあるんですが、スクラムを組むときに味方同士が接触するんです。肩とヒップが重なって押すんですが、ここに滑り止め効果の生地をつけて、ヒップ部分にも同じように滑り止め効果のものをつけました。

ヒップ部分と肩が接触して、これで『スクラムが固まる』という言い方をしますが、そういう素材を使って滑らないようにしました。

あと袖ですが、上腕の筋肉はよく動くのでここは伸びる素材を使わないといけないですよね。

脇下の部分にも非常に伸びる素材を使って、身ごろ、袖、脇下、それと肩で、4種類のハイブリッドをしました。」

さらに、フォワードのフロントロウ、つまり胸部が発達し、体重も重い背番号1番、2番、3番の選手には、特別なジャージが作られました。このジャージを着用し、大きな成果を残した2015年。大会後、2019年への挑戦が始まりした。

「まず選手のインタビューから始めました。『実際使ってみてどうなの??こうしてほしいとかある?』というようなことを聞き出そうと思ってインタビューをしたんです。どちらかというとネガティブなことがあったほうが簡単というか、前に進みやすいんですが、2015年モデルというのが、ポジティブな意見しか出てこなかった。

その中でどうしていくかとなったときに、今まででと同じことをやったことしていてもこれを越えられないなと思って、原料選定から始めました。

ほんとゼロからスタートみたいな話です。そこから糸の開発、そしてそれをどういう編み方にするのか、もしくはどういう素材にするのか、すべてをテーブルにのせたんですね。」

石塚さんいわく、ゼロからのスタート。     

2015年に、フォワードのフロントロウ用とバックスなどそれ以外のメンバー用の2種類があったジャージ。それをまた一歩、進化させることになりました。

「2015年は同じ素材で2種類だったんです。だから今度は素材から変えようと。フォワードとバックスで、彼らの求めているものを満たすには素材から変えようと思ったわけなんです。

バックスは2015年をブラッシュアップして、和歌山県にある丸編メーカーと開発を進めていきました。丸編というのはストレッチ性が出しやすいのと軽量化しやすい。そして、そもそもフォワードとバックス、どこが違うかというと、フォワードはやっぱりコンタクトがめちゃくちゃ多いんです。

だから体を守るホールド感が必要。あとは耐久性を重視する。だから、フォワード用は今まで初めて使う経編という編み方に到達しました。

もともと経編は資材関係で使われることが多いんです。車のシートとか、スニーカーとかのメッシュっぽい部分なんですが、ランニングシューズに使うくらいなので軽いんです。で、かさがつけられる、生地に厚みをつけられて、かつ軽いんです。フォワードの求めるホールド感は、肉があったほうが守られてる感じがあるので、そこに着目したんですね。」

2015年は2種類だったジャージですが、今回は3種類。フォワードのフロントロウ用、セカンドロウ・バックロウ用、そして、バックス用。この3種類が作られました。最前列=フロントロウの3人のためには、こんな技術も使われました。

単純にシルエットを変えているということではないんです。これも今回初なんですけど、フロントロウの特殊な体型ありますよね。だから、ホールド感を高めるために立体成形技術を導入したんです。当然、生地って平面で立体的ではないです。それに切りかえを入れたりして立体的にしてシルエットを作るんですが、それだけだと限界があります。2015年のときはダーツが入ってて、ダーツというのは女性のワンピースの胸のところに線が入ってると思いますが、あれがダーツです。立体的にするためにはさみを入れて立体的にするんですが、これがダーツ手法。ただ、ダーツを入れるということは、はさみも入れますし、縫いしろもでる。であれば、型を作って成形しちゃおうというのが立体成形技術なんですね。当然、縫いしろ分も軽量化できます。ですから、今の時点で考えられることはすべてやってみてる、という感じですね。」

『カンタベリーオブニュージーランドジャパン』の石塚正行さんが、『考えられることはすべてやった』と言う、ラグビー日本代表の桜ジャージ。このジャージを着用し、いよいよ戦いが始まります。

「ウェアが勝敗を分ける領域は、少なからずあると思うんです。その領域がある限りは、その領域を最強なものに、ベターなものにしたいと思っています。

ほんとにあると思います。このトライをしたら勝つ、というときに、つかまれなかった、と言ったら、それはジャージが作用したと思います。すべるように作っているんです、はじく、という感じですかね。

つかまったらパーンとはじかれるようなバックスの素材を作っているので、そうなったら、嬉しいですよね。」

ジャージを手がけるのは 今回のワールドカップで5大会目、という石塚正行さん。最後に、こんなことも語ってくれました。

「もともと、人間を育むために生まれたスポーツである。そして友情を育む、そのためのスポーツである、とうことで世界に広がっていった、ということがあります。ラグビーというとフィジカルに優れている人しか参加できないと思われがちですが、例えば背が小さい人でも太っている人でも背が高くても、足が速くても遅くても、みんな参加できる。みんながこれを教育として使えるということからそうなっていったんです。

なので、いろんな体型の人がいるんです。そして、ルールがしっかりしているので、役割がちゃんとしているんですね。ということは、役割が違うとか、体型が違うとなると、それを突き詰めるとそれ用のウェアが必要ということになります。必然性があって、我々が考えた開発がある、ということなんです。」

カンタベリーオブニュージーランドジャパン公式ウェブサイト