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今回は、岩手県岩泉町にある【なかほら牧場】に注目します。

この牧場の牛乳...

1本720ミリリットル入りが 1188円、という値段設定にもかかわらず大人気となっていて、年商、およそ5億円。その人気の秘密は どこにあるのでしょう?

【なかほら牧場】のHidden Story。

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【なかほら牧場】があるのは、岩手県岩泉町、北上山系の標高750メートルから800メートルほどの場所。平らな牧草地、ではなく、山を活用する『山地酪農』という方法で酪農を営まれています。

「日本の国土の7割が山なわけです。そもそも酪農という産業はいわゆる牧畜という感じで捉えてもらったほうが良いのですが、自然にある草を牛に食べさせて、牛乳や牛肉をとる、というのが本来の牧畜としての酪農なんです。ただ、日本の酪農の場合はそうではなくて、牛舎という工場で、牛というロボットに、輸入飼料という原材料を用いて牛乳という製品を作っている。全部の牛が牛舎の中で飼われる仕組み。これとまったく相反する手法が山地酪農です。」

取材にお答えいただいたのは、牧場長の中洞正さん。山地酪農について、さらに詳しく教えていただきました。

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山に牛を放す。しかも、1年365日、真冬はマイナス20度近くなることもありますが、それでも外で生活をする。そして、自然の山に生えている草を食べて牛乳を生産する、というだけの話なんです。野生の牛からしぼっているような感じです。牛乳をしぼるときだけ朝晩2回、搾乳所に戻ってきます。要は牛を入れる建物がないだけなんです。野生の鹿とかそういう感じで山にいるという風に捉えてもらうと分かるかなと思います。」

東京農業大学 在学中に猶原恭爾さんが提唱する山地酪農に出会い、卒業後、岩手県の現在の宮古市で山地酪農をスタート。

その後、中洞さんは より大きな土地を求めて 岩泉町に移り、牧場を開かれました。山に牧場、最初はどんな風に始めるのでしょうか?

「日本の植物の生態から言って、最初はジャングルなんです。やぶだったり、林だったり、そういうところに柵をはって、とにかくジャングル放牧から始めます。これをすることによって林の中の下草を牛が全部食べ尽くします。食べ尽くすと人間が山に入りやすくなります。山に入りやすくなったところで木を伐採すると、地表に日光が届きやすくなります。日光が届くと今までの日陰の下草ではなくて、向日性の下草が生えてくる。そのなかで生命力、再生力のある野芝、これが最終的に残るんです。だから、人間が何をするでもなく、牛を山に放して地表に日光が届くようになれば、自然に野芝に変わっていきます。この野芝の特徴は肥料がなくてもやせ土でも再生するし、牛の食べる草のなかで再生力、生命力のある草なんです。しかも土壌保全効果、山崩れを防ぐ効果、保水力を高める効果、こういうものを兼ね備えながら牛の餌としても最適な草なんです。」

720ミリリットルで、1188円という価格の牛乳。

人気は高まり続けています。

「味がよくて背景がしっかりしてる。日本のスーパーで売られている牛乳を、店員さんでもバイヤーさんでもいいから『この牛乳はどこの牧場でとれた牛乳ですか?』と聞いてみてください。誰もわかりません。最終的にわかるとすれば農協さん、でも農協さんも『どこの誰がしぼったものですか?』というとわからない。全部混ぜちゃうからです。それよりも中洞正がこういう環境でこういう風に牛乳を生産して加工して販売しているというのがわかれば、消費者は安心できますよね。

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それと同時に、牛乳は牛の母乳なんです。赤ちゃんのためにあるものなんです。それを私たちはお裾分けしてもらっているんです。

ところが日本の酪農家は最初の1週間くらいは出荷できない牛乳を子牛に与えますが、そのあとは子牛には粉ミルクを飲ませて、絞って出荷できる分を全部出荷するんです。

我々の考え方はまったく違います。最初に子牛を育てるために牛乳があるんであって、人間はそれをお裾分けしてもらう。そして、持続可能な酪農のためには、いっぱいしぼっちゃだめなんです。」

牛からお裾分けしてもらっている牛乳。

なかほら牧場では、低温=低い温度で殺菌をしています。

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「殺菌方法が低いというのは、どういうことかと言うと、牛乳本来の味、牛乳本来の味というのは、もっとすっきりしているもので、口の中でふわっと溶ける感じなんですよ。

高温殺菌したものは口とか喉にからんだりするんですが、あれは高温殺菌の特徴なんです。そういうのを飲んでいる人がうちの牛乳を飲むと、『あれ?なんかさっぱりしすぎてる?』と思うそうです。

そして、牛乳には『乳白色』という色があるんです。ただ日本の牛乳はすべて真っ白になってしまいました。なぜなら、放牧しなくなったからです。本当に青い草を食べた牛の牛乳は乳白色になるんです。」

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日本の高度経済成長期には、誰も見向きしなかった『山地酪農』。

しかし、いまや、中洞さんのあとに続こう、という人も出てきました。

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「私の今後の生きがいというか、今後の使命は、後継者を作ることです。現実に、全国に何十人もいるわけじゃないけど、数名、10名弱くらいはこの手法をやろうとしている若者たちがいます。今ここにいる25名の牧場スタッフは全員じゃないけど半数くらいはやっぱり自分で将来やりたい、ということで、こんな辺鄙な山のなかにわざわざ来てくれます。関東の子、なかでも神奈川が一番多いです。あるいは、短期研修という形で、全国の農学部の学生、最近は農学部以外の人も来てくれますが、その子たちが短い間ですけど、ここで研修をしていく、という形になっています。」

中洞牧場ウェブサイト