今週は、サカナクションがライヴツアーで無料貸し出しをして話題となりました、ライヴ用イヤープラグのHidden Story。

大きすぎる音から耳を守るため、ライヴのときに観客が使うイヤープラグ、つまり 耳栓を提案しているのは、【FiTEaR】というブランドです。

時はさかのぼること、2000年代前半。【FiTEaR】はまずアーティストのみなさんがライヴで耳につけて使う『インイヤーモニター』を開発しました。 代表の須山慶太さんは、当時をこう振り返ります。 

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もちろん私が発明したわけではなく、1990年代の初頭くらいからアメリカで広がってきた技術になります。

アメリカだとスタジアムとかそういうところで活動をするアーティストの方はどうしても非常に大きな音に囲まれることになります。聴覚にダメージを受けてしまうアーティストさんの耳をどうしたら守ることができるか?そんなところからアメリカのメーカーさんがカスタムイヤーモニターを発売することになったという経緯がございます。スタジアム規模になるとステージ上が100デシベルを超える音圧レベルになります。

そこに自分たちの演奏の情報を戻そうとするとさらにプラス何デシベルという音が必要になるので、非常に大きな音になってしまう。そんな問題もありまして、まわりの演奏音をシャットアウとして耳の中になるべく静かな空間を作って、そこに適正なモニター音を返してあげる。そんな技術として生まれたのが、インイヤーモニターシステムになります。」

日本では、【FiTEaR】がいち早く手がけたインイヤーモニターシステム。いまや、国内の6割ほどは、【FiTEaR】の製品なんだそうです。そして、時代は、『音楽を持ち歩く』という方向へ進んでいきます。

「ここ10年くらい、ポータブルオーディオというカテゴリーが人気となっている。その際にやはり危惧したのが、安全な使われ方がされているかどうかでした。

例えば、自転車に乗っているときにイヤホンを使ったらどうだろう?もしくは大きな音で長い時間聞き続けてしまったらどうだろう?長年、補聴器の事業もやってきましたので、そのあたりのことが大きなリスクとして感じていました。

それをどう一般の方にお伝えできるかを考えたとき、簡単に、『安全な場所で使ってください』『ヴォリュームに注意しましょう』『時々耳に休憩を与えてください』この3つの約束を提案して2010年に始めたのが、【SAFE LISTENING】という活動で、その延長でおこなっているのが 【SAFE LISTENING Live!】です。

ここ10年15年、ライヴシーンが人気があって、たくさんのファンがいらっしゃいますが、公演が終わって帰るときに耳がキーンとするとか、翌日も耳鳴りがする、そういう声を聞く機会がときどきありまして。」

ライヴのあと耳がキーンとする。耳鳴りが残る。そんな声を聞いた須山さん。ライヴでのSAFE LISTENINGについて考えるようになりました。 

「何かいい方法はないか。耳栓は確かに方法ではあるんですが、例えば、スキーをするときに太陽の光がまぶしいのでアイマスクをしてしまうと当然回りが見えなくてスキーを楽しむこともできませんし、車の運転でもそうですが、そんなときにどうするか。

サングラスを使って、明るさはおさえるが視界はしっかり見えますよね。そんなものがないかなと耳についても考えていました。オランダのメーカーさんとお付き合いがあったのでお話をするなかで、ちょうどラジオのヴォリュームを下げるように、音のバランスはそのまま、それでいてヴォリュームをライヴ会場でおさえることができる、音響フィルターという部品が入った耳栓の企画をおこないまして、そちらをここ2年くらい販売させていただいています。」

サカナクションがライヴツアーで観客に無料で貸し出し、話題となったイヤープラグ。これを開発した【FiTEaR】の須山慶太さんによると、ポイントは、オランダのメーカーとともに作った『音響フィルター』でした。イヤープラグのなかには、小さな、それでいて効果の大きいフィルターが内蔵されているのです。

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普通の耳栓を耳にいれると高い音、甲高い音はかなりおさえることができるんですが、逆に低い音はあまり変わらない。結果としてもごもごした音になってしまうんです。そうすると音楽を聞くのに適さなくなりますし、いくら耳を守ると言っても、音楽のエネルギー、楽しみをスポイルされるとせっかくライヴに行った意味もない。ですので適正な音圧抑制はどのくらいだろう、いかに音のバランスを変えずにできるだろう、ということで、音響フィルターのセッティングを変えまして、現在15デシベルをなるべくフラットに抑制する、そんなフィルターを使っています。」

耳を守り、安全に音楽を楽しむSAFE LISTENING。

そして、安全にライヴを楽しむ SAFE LISTENING Live!。

そこに込められたのは、こんなメッセージです。

「まず関心を持っていただきたい。振り返って、子どものころから耳について、音について勉強する機会があったかというと、体の仕組み程度で、じゃあなんで大きな音は耳に悪いのかとか、そういうことって知る機会はほとんどなかったと思うんです。あとライヴ用耳栓に関しては、じゃあ、きょう大きな音を聞いた、それが明日あさってに影響がでると『あれ、どうしたんだろう?』とすごく気がつきやすいんですが、実際にそれの影響が出てくるのは20年後30年後、、、いま聴力、聞こえ方というのは、それまであなたが過ごして来た音環境の履歴なんです、と言われるようになってきました。長年たって耳に影響が出てくることがある。でもそれを遅らせる、その低下を遅らせることもできる。

ちょっとしたところで耳を休めてもらったり、大きな音を聞いたら、じゃあ次の日も、ということじゃなくて耳をしっかり休めましょうという意識を持ってもらうだけで、そういったリスクを大きく抑制することができますので。」

最後に、ライヴ会場で、イヤープラグ=耳栓をしている方を見かけたときに気にかけてほしいこと。須山慶太さんにうかがいました。    

実は耳の聞こえ方が人それぞれである。聴覚過敏と言われる方がいらっしゃいますが、大きな音が苦手であると。例えば、自分が好きで楽しみにしたコンサートでも、これまでは大きな音大丈夫かなと不安を持ちながら参加している方もいらっしゃった。

そういう方が、いまのライヴ用イヤープラグを少しずつ使っていただいているんですが、じゃあそれを知らない方がそれを見た時に、『え、なんで耳栓してるの?』とネガティブなイメージでとらえられてしまう。そうすると自分にとっては必需品でもなかなか出してつけにくいとか、そういう環境も話としてはうかがっています。なので、耳に何かしてるということに気がついたら、『あの人は音に敏感なのかな。それでもライヴを楽しむためにしっかり準備をしているんだな』と考えてもらえれば。

さまざま聞こえ方が違う、感じ方が違う、でも同じ音楽が好きで集まっている。それをわかってもらえたら、みなさんが同じ場所で同じ時間を楽しむことができるんじゃないか、そんな風に考えております。」

FtTEaR

http://fitear.jp/music/index.html

20190614p02.jpg番組オリジナルパッケージのイヤープラグありがとうございました!!