今回ご紹介するのは、中野区の新井薬師にある【しょぼい喫茶店】。これがお店の名前なんです。【しょぼい喫茶店】。大学生のときに就職活動がうまくいかず、鬱々とした日々を過ごしていた池田達也さんが、あることをきっかけに方向転換。去年の3月に開店した、【しょぼい喫茶店】のHidden Story。

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2017年の3月、上智大学文学部の4年生だった池田達也さんは15、6社にエントリーシートを提出。就職活動を始めました。 

しかし、なかなかうまくいかず、行き詰まりを感じます。

池田さん:6月くらいにどうしようかな、という感じになっちゃいました。自分の部屋に閉じこもるというか、鬱々とした毎日でしたね。6月はずっとそんな感じで、7月なかばくらいに友達が来てくれて、そこで元気が出たという感じです。とりあえず、いったん就職は置いておいて、いろんな生き方を見てみようと思って、本とかネットのブログを読み始めました。phaと書いてpha(ふぁ)さんという方がいて、京大卒で元日本一有名なニートと言われている人なんですが、その人の本と、えらいてんちょうさんのブログとかtweetを読んでいました。phaさんも一回就職してそのあと3年くらいでやめて東京来てニート、えらいてんちょうさんは一回も就職せずにちっちゃく起業して、という感じで、いわゆる普通の人生じゃないんですが、ふたりとも楽しそうに幸せそうに生きているのを感じました。えらいてんちょうさんの『ちっちゃく起業して、ちっちゃくやっていけば大丈夫だよ』というのを見て、自分も店をやってみよう、という感じでしたね。」

池田さんは、小さく起業すること。ここに活路を見出します。では、なぜ喫茶店だったのでしょうか?

池田さん自由度の高さというか、ごはん食べたい人はごはんを食べているし、寝たい人は寝てるし、携帯したいひとは携帯してるし、話したい人は話してるみたいな、何やってもOKという空間が好きで。放課後の部室というか、行ったら誰かいて、ひとりでいるよりはまし、みたいな空間がいいなと思って、喫茶店にしました。えらいてんちょうさんは、100万あれば店ひとつ始められると書いていて、卒業までに100万貯めようと思ってやっていたんですが、そのとき見ていた物件の初期費用が100万を超えていて、このお店の物件ではないんですけど、ああどうしようと思って、そこでtwitterアカウントとブログをつくって、出資者を募りました。」

池田さんがインターネットで発信した情報を、鹿児島で、ひとりの女性が見つけました。のちに、池田さんとご結婚、お店を一緒に運営することになる、おりんさん。そのときは、彼女も厳しい状況にありました。

おりんさん:高校卒業とともに上京して看護学校に行って、看護師になりました。それから東京で3年看護師をしていたんですが、激務で精神的にも肉体的にも限界がきてしまって、うつ病という診断もされて、療養したほうがいい、というので、仕事をやめて鹿児島の実家に帰ったんです。実家で療養生活をした2018年の1月に、池田さんのtwitterとかブログを発見しました。私もそこで働いてみたいなと思ったことがきっかけで、ブログのほうにコメントをさせていただいたんですね。見つけてから1週間くらい連絡するかどうか悩んだんですけど、でもやっぱりコンタクトを取れるかどうか分からないけどアクションを起こしてみようと思ってコメントをしました。」

2018年の2月、おりんさんは鹿児島から上京。池田さんと初めて会いました。

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おりんさん:池田さんが物件を探したりいろいろ動いているのを見て、多分、自分も東京に行かないかぎりは、鹿児島からできることはスマホ越しに『がんばってください』という言葉を打ち込むことしかできなくて、とりあえず会ってもらえるなら東京に行こうと思いました。帰りのチケットはとらずに『この日から行こうと思うんですけど、どこかでお会いできたらお会いしたいです』みたいなことを言って、初めて会った、という感じですね。そのとき、特に池田さんから採用・不採用みたいな話はなかったんですけど、話の流れで、『一緒にやるか』みたいな感じになりました。そして、その3日後にえらいてんちょうさんが経営する池袋の要町にあるイベントバーエデンというところで、昼に、しょぼい喫茶店のプレオ−プンイベントをしたんです。『オペレーションも分からないだろうからやってみたら?』というお誘いを受けて、【出張しょぼい喫茶店】という形でやったんですが、人が本当にたくさん、満員が続くくらい来てくださったんです。すごく疲れましたがすごく楽しくて、終わったあとは、生きててよかったなという感覚が久しぶりにありました。」

【しょぼい喫茶店】がオープンしたのは、2018年3月1日。お店の名前の理由は【人間誰しも、誰かにとっては しょぼい存在だけど、同時に誰かにとっては 尊い存在である】 ということ。池田達也さんとおりんさんは、開店からの日々をこう振り返ります。

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池田さん:生かされているなというのを感じました。普通にごはんを食べにくる人もいるんですけど、応援するために来るというか、応援したいからコーヒーを飲む人もいて、自分は生かされているな、という風にこの1年で感じるようになりましたね。

おりんさん:1年間振り返ると、かなりあっという間でした。でも、上京する前あたりは、『生きているのが嫌だ』とか、『あしたが怖い』とか、そういうのが常にある感じだったので、お店をオープンして働かせてもらって、お客さんともたくさん出会いましたし、もちろん、池田さんとも出会いましたし、暗いところから明るいところに導いてもらえた、というところがあるんです。なんていえばいいのかな、歩いている道が、光があふれる道になりました、というか。なので、感謝感謝という感じです、毎日。」

池田さんは、先月、「しょぼい喫茶店の本」も発表。いま 生きづらさを感じている人へ、こんなメッセージを届けたいと考えています。

池田さん:自分のように、就活厳しいなと思っていても、妻のように病気で仕事ができなくなっても、何とか生きていける、ということを、自分はえらいてんちょうさんとかphaさんに教えてもらったんです。それを今そういう風にこの先どうしようと思っている人に受け継いでいくというか、他の人に伝えていかなければいけないと思っています。

おりんさん:こういう人たちもいるんだみたいな、私たちとか、しょぼい喫茶店とか、今しんどいとか、生きづらいとかよく言われてますけど、生きづらさがあってしんどいなと思っている人も、こんな人たちいるんだなということを知ってもらえると嬉しいです。

ふたり:自分たちもそうでしたが、追い込まれると視野が狭くなるので、どうにでも生きていけるよ、というのを実践している人を見ると、この人たちができたんなら、自分もできるかも、みたいに思えるというか。生きる希望というか、知っていることがセーフティネットになるのかなと思います。」

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池田達也さんの著書「しょぼい喫茶店の本」は百万年書房から発売されています。より詳しいストーリーはこちらで!