今回は先週、Aimerさんが同時リリースした2枚のニューアルバム、『Sun Dance』と『Penny Rain』のHIDDEN STORY。
まずは、Aimerさんに2枚のアルバムを制作することになった理由を教えていただきました。
「最初のきっかけは、去年の2月頃に作った雨をコンセプトにしたシングルです。ここまで雨をモチーフにした、シングル全曲雨、というものを作ったことが初めてだったので、雨というモチーフはひとついいなと思っていました。そこで、太陽、という対になるものも作って2つのテーマにするのはどうかなという案を打ち出したんです。そこに至ったのにはもうひとつの背景があって、それはベストアルバムのリリースのあとに武道館公演を初めてやったんですけど、そこでライヴっていうものが自分にとって大きなものになっていったんです。それまでライヴでみんなと盛り上がる曲を意識して作ったことがなくて、結構静かなライヴが自分のライヴでは当たり前。私のライヴに来るとどこかみんな緊張してるし、私もバンドメンバーもやっぱりちょっと張りつめた感じがあるし、それが自分の独特の空気感かなと思っていたんです。でも、武道館で1曲だけ、アンコールで盛り上がる曲をやりたくて『ONE』という曲を作りました。それはライヴでやることを念頭において作った初めての曲で、4つ打ちで、みんなを踊らせることができる曲。自分としてはその曲でみんなと盛り上がった瞬間がすごく衝撃的だったんです。私がいま太陽を歌ったのはみんながいたからで、そうやってベクトルが外を向いたからこそ作れた曲たちなんです。」
アルバム『Sun Dance』の5曲目に収録されているのは、『コイワズライ』。
「『daydream』という自分のアルバムに収録した『カタオモイ』という曲があって、これと『コイワズライ』はタイトルもどっちもカタカナで、イメージをそろえて作りました。『続カタオモイ』じゃないけれど、そういう曲を作りたくて作った曲です。というのも、『カタオモイ』はシングルカットしてないんですが、思った以上にいろんな子に届いているなという実感があって、特に年齢層の若いティーンの子にカバーしてもらっているという印象があったんです。その曲が今までの自分にはなかったギターがメインの音数が少ない、コピーしやすい編成だったのかなと思って、それを意識してこの曲もギターポップを作ろうと思って作っていきました。」
『カタオモイ』から『コイワズライ』へ。太陽の光のなか、Aimerさんの声が切なく響きます。
続いて、雨のアルバム『Penny Rain』について。オープニングのインストゥルメンタル・ナンバー『pluie』の次に聞こえてくるのは、『I beg you』。
「『I beg you』は私にとっても今までになかった独特な曲で、こんなにオリエンタルな雰囲気をまとった曲は歌ったことがありませんでした。梶浦由記さんに作ってもらった曲なんですけど、レコーディングもスムーズにはいかなくて。どういう風に歌ったらいいんだろう?という、その選択肢がありすぎたというか、ヴォーカルがものすごく強くアタックが激しく歌うのか、静かに歌うのか、取り乱すのか、クールなのか、熱いのか、というヴォーカルのさじ加減ですごく印象が変わりえる曲だったんです。最初は割りとフラットにいこうという話だったんですけど、言葉の滑舌、あいうえおをはっきり言うとか、リズムをあえて後のりで歌うとか、そういうのも含めて、最終的にはマックス激しさが振り切れているような状態でレコーディングしました。」
『Penny Rain』の4曲目は、ディーンフジオカさん主演、テレビドラマ【レ・ミゼラブル 終わりなき旅路】の主題歌として制作された『Sailing』。
「いただいたドラマの脚本を読んで作ったんですが、それ自体がすごく壮大でした。例えば、「つぐないきれないような間違いとか過ちをおかしても、それでも人は生きていけるんだろうか」とか、そういう大きなテーマがあったので、それにあわせて曲も大きく考えていきました。でも、やっぱり自分たちが生きていて、私もそうだけど、日頃の大きな間違いにしろ小さな間違いにしろ、「あのときああいうこと言っちゃったけど大丈夫だったかな?」とか、「自分がこういうことしちゃったのはこれから取り戻せるだろうか」というのはいっぱいあるし、そういう部分で共感できるような歌詞が書けるといいなと思いながら作りましたね。」
新たなチャレンジをした『Sun Dance』と自身の原点を表現した『Penny Rain』。2枚のアルバムを完成させたAimerさんにうかがいました。Aimerさんにとって、理想のヴォーカルとは?
「自分が思う理想のヴォーカルは響きがいいヴォーカルです。それでいてちゃんと音楽的な歌が歌えているヴォーカルが今一番理想としています。もし自分が天才だったらパッって何も考えずにできちゃうと思うんですけど、そうじゃないのは分かっているので、ある意味、私はすごく考えながら歌っています。自分の声の響きを一番いかせる空間の作り方、のどの中とか体の作り方とか考えて歌っているし、いろいろヴォーカルのメロディを自分でプロデュースしながら歌っています。それを自分のなかで完璧にできたときに理想のヴォーカルになれるのかなと思います。」
さらに、Aimerさんはこんなことも語ってくれました。
「私はあまり歌詞をものすごく読み込んで、ここはこういう気持ちだからこういう風に歌おう、とかそういうタイプじゃないんです。そのとき歌った、自分の制限のなかでその響きとか音楽的なものを完全にコントロールした状態だからこそ出てくる言葉、ちょっとした言葉じりからの感情というのが一番気持ちがこもるし、自分でもよく分からないところに行ける気持ちよさがあります。それは意識してできるものじゃないし、むしろ何も考えていないから不意にわきあがってくるものですね。そうやって歌える歌が一番好きだし、自分でも意識していなくても、曲に、メロディに、その音楽に連れていかれるところが一番好きです。思ってなくても勝手に涙が出てくるとか、そういうところで歌ってますね。それこそライヴ中に泣いたりとか、プロだから泣かないように頑張ってますけど、ただ不意にそういう瞬間がありますね。それは全然意識していなくて不意に。ほんとに、音楽の力はすごく信じています。」