今回ご紹介するのは、書店員の新井見枝香さんです。現在、三省堂書店神保町本店で働かれている新井さんは、芥川賞・直木賞が発表される夜に【新井賞】を選定。これが話題となっています。そんな新井見枝香さんにお話をうかがいました。まずは、本屋さんで働くことになったきっかけについて。

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「もともと三省堂の有楽町店によく買いものに行ってたんです。ある日、有楽町に他のバイトの面接に行った帰り、いつも通り本を買いに行ったらポスターでアルバイトを募集していたので、『へ~、働くこともできるのか』と思って応募しました。本屋で働くっていう考えがまったく頭になかったので、ほとんどタイミングですね。その場で携帯で電話をかけて『働いてみたいです』と言いましたが、『きょうのきょうで面接はできないので出直してください』と言われて、別の日に面接に行きました。」

三省堂書店に立ち寄ったのは、パン屋さんのアルバイトの面接に行った帰り道。アルバイト募集のポスターに導かれ、新井さんは 三省堂で働くことになりました。

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「まずはレジですね。初めてだったので何もわからなくて、レジの打ち方から本の検索の仕方、お問い合わせに答えられるようになるまで本当に大変でした。すごくあこがれる先輩というか社員の人がいて、あの人のようになりたいと思ってからは何から何までまねしました。例えば、読む本。その人が読んでいる本をかたっぱしから読んで、ああでしたね、こうでしたね、と話したり、その人がポップを書いているから見よう見まねで書いて持っていって、いいものは使ってくれたり、だめなものは『これじゃちょっと』と言われたりして。そのうち、その人が出版社の営業さんとか作家さんと話しているのを見て、ああいう風にするのかと思ってまねしてみたり。女性だったんですけど、いきいきと働いていて、あんなかっこよく働けるのかと。書店とか本がどうのというよりは、かっこよく働く先輩にあこがれたのが、今につながっていると思います。」

その後、新井さんはアルバイトから三省堂の社員に。そして働きながらさまざまな企画を考え、実施し始めました。    

例えば、本の試し読みを配って誰が書いたか当てる【誰本(だれぼん)】という企画をやりました。誰が書いたのかを応募してもらって、当たった人には発売されたその本にサインを入れてプレゼントするという企画です。作家さんも自分がどの作家と間違えられるのか面白いらしいです。なかなかできない経験ですよね。本を買う人は作家の名前を見ずに買えないんですけど、書店員ってもらった試し刷りというかゲラ発売前のものを読むことがあって、たまに名前が書いてないことがあるんです。誰のだろう?と思って読んでたら面白かったのでそうい企画を思いつきました。」

そんな日々のなか、新井賞が誕生します。

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「芥川賞、直木賞が半年に一回発表されるんですけど、そのときの候補を読んでみて、『これだな』と思う作品があるんですね。【新井賞】を作ったときは、直木賞の候補になる前によんでいた千早茜さんの『男ともだち』が本当におもしろくて、これはとると思っていたんですがとらなかったんです。でも、じゃあそれでおしまい、というのは変でしょうと思って、芥川、直木って名字がついた賞なので【新井賞】って手作りで帯を作って巻いてそのまま出したのが始まりです。苦肉の策ですよね、やり方が何もない、と思って。」

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【新井賞】と書いた帯を本に巻いて、お店に出す。ちなみに、これは上司の方に相談などされたのでしょうか?

「上司には聞かずにやりました。勝手に巻いて出して、レジの人が『なんだこりゃ?』って。(笑)聞くとおおごとになってしまうし、やって売れてしまってからでは何も言われないので、やってしまったもの勝ちというか。(笑)第一回目からものすごく売れたというか、私のいた店では直木賞の作品よりも売れて、もう誰も何も言えないみたいになったんです。そうなると次の芥川賞、直木賞のときも『次の新井賞は誰だろう?』みたいにお客さんたちの盛り上がりがあって、そのときは芥川賞、直木賞の候補に関係なくすごくいい本があったので、じゃあ2回目はこれにしようと。早見和真さんの『イノセント・デイズ』にあげて、それもまたドカーンと売れて。」

新井見枝香さん、実は本も出されていて、その一冊が『本屋の新井』。その帯にはこうあります。

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【本は日用品です。だから毎日売ってます。】

「私はこれだけ本を売っているので、みんなが思うほど本を神聖なるものとは感じずに、単なる商品と思っていて、でもそれは悪いことじゃなくて、もっとそういう風に思うことで売れるんじゃないかなと思ってたんです。特に日本人は本をすごく大事にする。丁寧にカバーして保存したりとか、すごくいいことです。でも、読み捨てる感じでもいいと思うし、そうじゃないとまわっていかないですよね。そうしないと作家もやっていけないし、出版社も大事に売るのも大切なんだけど、もっと下世話にやっていいと思うんです。やっぱり本を読まない人には高いハードルがあって、でもそれを作っているのは本が好きな人なんです。どうしても本に詳しい人って、『それも読んでないの?』とか、『これを読んでないとだめだよ。』とか。それが本を読まない人を遠ざける一因になっているので、私のようにミーハーに好きなものだけを読みあさって、ときにはわからないものはわからない、というのを体現していけば、『あ、それでいいんだ』って思って、自分なりの本の付き合い方ができる人が増えるんじゃないかなと思っています。そこを変えたら本はめっちゃ売れると思ってます。」

三省堂書店

新井見枝香さんウェブサイト

新井見枝香さんの新刊『この世界は思ってたほど うまくいかないみたいだ』