今回はクラフトチョコレート・メーカー、Minimal -Bean to Bar Chocolate- のHidden Storyをご紹介。

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Minimal -Bean to Bar Chocolate-の代表、山下貴嗣さんは以前、コンサルティング会社に勤務されていました。チョコレートの道に入るそもそものきっかけは どんなことだったのでしょうか?

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「最初は少子高齢化とかグローバル化が進むなかで、日本は外貨をとっていかないと経済が成り立たなくなると20代のときに思ったんです。そこで、何か外貨をとれるビジネスをしたいなと思ったときに、日本はいいものを作れるので、日本人らしさを活かしてものづくりをして、よいプロダクトを海外に広めようと。そうすれば外貨も落ちますし、もっといえば職人さんもちゃんと雇用されますし、それが広まれば日本のブランディングになっていく。そういう漠然とした想いがあって、僕は何も決まってないのに先に仕事をやめることが決まったんですよ。」

山下さん、何をやるのかは決まっていない状態で 所属していた会社をやめました。そして...

「さて、なにやるかな、みたいな。(笑)Bean to Bar Chocolateというカカオの豆から仕入れてチョコレートを作るというスタイルは知っていて、ニューヨークのマストブラザーズで食べたりお土産でもらったりしていました。ただ、あまり印象に残ってなかったんですが、ある時、Bean to Bar Chocolateをやってるコーヒー屋さんがあると、知人から紹介されたんです。それが今うちのシェフをしている朝日という人間なんですが、彼はもともとコーヒー屋さんをやってまして、そこで手作りでBean to Bar Chocolateを作っていたんです。コーヒーを飲みながらチョコレートをひとかけ食べさせてもらったんですが、それがオレンジみたいな味がしまして、『オレンジ入ってますか?』と聞いたら、『何も入ってない。』と。すごい衝撃でした。ちょうどその時、僕は日本人のよさって何だろう?ということを考えていて、引き算とか侘び寂びとか枯山水とかもそうかもしれませんが、ものを引いていく。和食も素材のよさを季節ごとに美味しく出していくというのが日本の美意識としてあるなと考えたときに、これはチョコレートをものすごく引き算でとらえてる。西洋発のチョコレートを日本人がもう一度再解釈したらこういうプロダクトができました、というのは面白いなと思いまして。」

カカオに砂糖や油や乳化剤、香料を加えて作る一般のチョコレートに対して山下さんが口にしたのは、カカオと砂糖だけで作ったチョコレートでした。2014年、山下さんは動き出します。    

Bean to Barという流れが世界的に来てるというのは知っていたので、その流れを自分で咀嚼しないといけないと思いました。当時はまだFacebookとかLinkdinがゆるくて、海外で Bean to Barやっている人の名前を打ち込むと出て来たんです。そこで、その人にダイレクトメールで、『僕はこういう日程でいるから、どこかで工場見学と話を聞かせてくれないか?』と送って、ロスから入って、サンフランシスコ、ポートランド、ニューヨークに飛んだ後、ブラジルのワールドカップに寄って。(笑)ブラジルの産地も見て、ヨーロッパに向かって、北から下りて行ってという感じでまわって。連絡がつかなかったところも突撃で行って『見せてくれ!』みたいな。めちゃくちゃ行きましたよ、2ヶ月で100はこえてると思います。」

およそ2ヶ月間、チョコレートをめぐる旅を経て、山下さんは、こんなことを感じました。     

もう世の中の流れとしてBean to Barのムーブメントは確実に来る。でも、日本はまだ来ていないから次の2015年のヴァレンタインには必ず来るなと確信しました。チョコレートに関わる人たちがみんなそっちを見てましたし。このBean to Barの流れはふたつあって、ひとつはアメリカで、ガレージでクラフトで始めましたみたいな人たちと、ヨーロッパのショコラティエやパティシエが源流にかえるという意味で素材に立ちかえる、という流れ。もう1つは、いい素材を使いたいという気持ちはみんな一緒なんですが、もともと足し算で作ってきたので、そのベースをよくするためにいい素材にたどりつきたいという想いが欧米の人は強いということ。そもそも素材のよさを最大限にまで削ぎ落として表現するという考えではないんです。」

山下さんが目指したのは、いわば『引き算のチョコレート』。

そして、2014年12月、渋谷区富ヶ谷にMinimal -Bean to Bar Chocolate- がオープンしました。板チョコは、切れ目が 大きめの長方形だったり、小さい正方形だったりいろんな形で入っています。

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「僕がヨーロッパ行った時に思ったのは、向こうのチョコレートは1センチくらいで全部同じ形なので、後半になってくると胃が重たくなるんです。美味しいけどこんなにいらないなとか、太すぎて噛み切れなかったりするわけです。でも、僕らは香りを繊細に感じてもらうブランドだから、大きさによって口の中で広がり方が違うなと思ったし、これも日本人のきめ細かさじゃないですか。当時、素材をなるべくストレスなく出すというのを決めていたので、ざくざくした食感のレシピは完成していたんです。そして、このチョコレートは割れないギリギリのところで厚さ6ミリにしているんですよ。6ミリって何かっていうと、口に入れた時に薄いほうが香りがたつ、という実験をしたんです。だいたい1個の大きさが3グラムから4グラムになるように体積を計算しているんですけど、そのくらいが口に入れたときに一番気持ちいいねと。でも、当社調べでサンプル4なので、有効数じゃないかもしれないです。(笑)」

そのときの気分で、さまざまな大きさで食べることができる板チョコ。ちいさいところは、5ミリ角の正方形に切れ目がついています。そんな板チョコを、香りを閉じ込める密封パックに入れて販売中。そして、そこには山下貴嗣さんのこんな想いも詰め込まれています。

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「旅の最後のほう、スペインとポルトガルにいたんですけど、ほんとはちょっとだけ食べたいのにひとかけらかじらなきゃいけないし、かじったら中途半端に残せないから気分によって変えたいなと。だからひとかけら5ミリ角にして、夜はちょろっとだけお酒とあわせてもいいですし、朝は豪快にかじるとか、人が気分によって食べ方を変えれば、チョコレートは一日を通して楽しめる。しかも、密封パックなので香りをのがさず持ち運べます。最近は『ライフ・イズ・チョコレート』と言ってるんですけど、人に寄り添う、人の生活を豊かにするプロダクトにする、というのは最初からやりたくて。」

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Minimal -Bean to Bar Chocolate-

渋谷区富ヶ谷の本店のほか、銀座、白金高輪、東武百貨店 池袋店や WEBでも購入できます。富ヶ谷本店や銀座店では、ワークショップも開催されています。