今回は山下達郎さんもライヴで使用されているギターアンプを作るメーカー、SHINOS AMPLIFIER COMPANYの Hidden Storyです。

SHINOS AMPLIFIER COMPANYの代表は、篠原勝さん。個人が立ち上げたギターアンプ・メーカーです。そもそもなぜ、ギターアンプを作ることになったのか、そのきっかけを教えていただきました。

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「コンサートで楽器の面でアーティストをサポートするローディーと呼ばれるスタッフがいるんですが、僕はそのローディーからスタートしました。ローディーというのは、ミュージシャンの楽器をセッティングしたり、メンテナンスをしたりという仕事なんですが、あるとき現場で機材がトラブったんです。トラブルってその場で直せるものもあるんですけど、ギターの故障とかで修理屋さんに持って行かないといけないものもあって、そのときはそれが起こったんですね。現場のマネージャーに、『こういうときにパッとなおせるテクニシャン、アメリカのギターテクニシャンみたいな存在の人がいたらいいのにな。』と言われて、ハッと気づいて。そういう技術も身につけたローディーというか、ギターテクニシャン、アンプテクニシャンになりたいなと思って、それから現場の仕事もやりながら、ギターアンプのメンテナンスや修理、ギターの修理とか、そういうことを始めたんです。そして、そんなふうにギターの修理をしていると、だんだんギターアンプの内容とか構造がどうなってるのかがわかってくるわけです。で、『これは作れるな。』と。現場にいるスタッフが現場のことをわかって楽器を作ったらおもしろいものができるんじゃないかな、と思ったのがきっかけですね。」

ギターアンプは自分で作ることができる。

そう確信した篠原さんはまず、フェンダー・アンプをコピーすることから始めました。そして、何台かコピーを作ったあと、次のアンプはいきなりプロが使うことになります。

「THE MODSというバンドの森山達也さんと飲みの席で、『ステージでも使える小ぶりのギターアンプを作ってくれないか。』という話になりまして、やってみたかったので、『ぜひやります、材料代だけでいいんでやらせてください。』と言って作ったのがうまくいったんです。今でもメインで使ってます。なので、それがSHINOS1号機。そのころはまだロゴもありませんでした。」

このあと、のちに SHINOSを代表することになるアンプ,Luck 6 V の開発がスタートします。

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「森山さんのはM30っていうモデルで、これはうまくいったんですけど、このLUCK 6 Vは相当苦労しましたね。プリアンプ回路の調整で相当手こずりました。自分が望んでいる音が出ないんですよ。抵抗の数値を100キロから110キロに変えてみようとか、コンデンサーをコンマ0002マイクロファルトからコンマ0001マイクロファルトに変えてみようとかいうのを、一カ所ではなく何か所もあってその組み合わせなので、それをパズルのようにやって、いい音に持っていくんですけど、これがうまくいかなかったんです。これはほんとに泥沼といいますか、なかなか抜け出せないところにハマってしまって、ほんとにいい音が出なくて泣き崩れた日もありました。『もう無理だ。』みたいな日もあったし、納得いかないものは出せないじゃないですか。泣きながら帰ったのを覚えてますね。だから、できたときはすごく嬉しかったですよ。」

初期のころにこのアンプを購入したミュージシャンは、ORANGE RANGEのNAOTOさん、Mr.Childrenの田原健一さん、そして、佐橋佳幸さん。さらに、SHINOSアンプに魅了されたミュージシャンのひとりが、山下達郎さんです。

「達郎さんとの出会いは、2008年です。そのころ、サポートギターの佐橋佳幸さんの担当が次のツアーでいなくて、ツアークルーを探していたところ、僕に声がかかったんですよ。佐橋さんはうちのSHINOSアンプのユーザーでもあったのでステージで使っていて、その達郎さんの2008年のツアーでも使ったんです。達郎さんがそれを見て、『俺もそれ、一台注文するわ』って言ってくれて。(笑)達郎さんは2台購入する方なので、1台はスタジオで、もう1台はツアー用としてLUCK 6 Vを使ってくれています。でも、これは達郎さん仕様に少し変えていて、キャビネットの大きさがちょっと広いです。あと、リバーブとトレモロをつけてほしい、ということで増設していますね。」

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その後、山下達郎さんのツアーで、達郎さんのギターテクニシャンも担当されるようになった篠原勝さん。達郎さんのギターについて、こんなエピソードも。

「サブの、スペアのテレキャスターもあるんですけど、やっぱりメインで使っている、通称ブラウンと呼ばれているテレキャスターじゃないとしっくりこない。あれが山下達郎サウンドなんですよ。あれじゃないとあの音は出ないです。同じテレキャスターだけど、あれじゃないとだめなんですよ。それは僕もわかります。達郎さんがギターを弾く前にスタッフがチェックするんですけど、本人のギターとスペアもチェックします。チェックすると、やっぱこれじゃだめだな、と。だめってわけじゃないんですけど、いつものサウンドじゃないなって。やっぱり、あのブラウンじゃないとだめっていうのはこだわってるんじゃないですか。」

昨年は、山下達郎さんのライブが、フェスも含めて50本。そんな多忙な日々のなか、篠原さんは『CROSS BRIDGE』というウェブサイトをスタートされました。

ギターテクニシャンのこととか、ギターテクニシャンってこんな仕事です、ということだったり、現場でこんなことが起きた、というのを動画で説明したりしています。2018年、山下達郎さんのツアーの中野サンプラザのステージの袖というか、達郎さんのギターとか置いてあって、僕が作業をする基地的なところがあるんですが、そこをカメラで抜いてインタビューしているんです。そういうのを載せたりとか、僕が最初にアンプを作った経緯とかそういうのも載せたりしています。『CROSS BRIDGE』って、ミュージシャンとスタッフ、テクニシャンの架け橋というか、そういう意味も持たせているんです。」

篠原さんが始めたウェブサイト『CROSS BRIDGE』は、ミュージシャンと、技術のプロフェッショナルの架け橋。そして、篠原さんの仕事は、ギターアンプづくりも、ライヴをサポートする仕事も、まさにミュージシャンと観客の架け橋。素晴らしい音を、素晴らしい音楽を届けるため、篠原勝さんの挑戦は続きます。

SHINOS AMPLIFIER COMPANY ウェブサイト

CROSS BRIDGEウェブサイト