今回、注目するのは手袋。日本一の手袋の産地、香川県東かがわ市のブランド【tet.】のHidden Storyをお届けします。

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アルファベットの小文字で、t e t そして、ピリオドで【tet.】。手袋を中心に、手にまつわる商品を販売する【tet.】のブランドマネージャーを務めるのは、松下文さんです。

「これは2016年10月に立ち上げたブランドです。私はもともと香川県の東かがわ市出身で、ここは『手袋の町』だと思って育ってきました。でも、大学進学とか就職で県外に出ていたとき、『実は、香川って手袋の産地なんですよ。』って話しても、全然知られていなかったんです。うどんは知ってるけど、手袋は『あ、そうなの?』みたいな感じ。それが悔しいというか寂しいという思いがあって、『いずれは育ててもらった地元に帰って、恩返しができたらいいな。』とぼんやり考えていたときに、この出会いがありました。

愛媛に今治タオルや愛媛の地場産業であるみかんや砥部焼とかをブランディングして世に出しているベンチャー企業があるんですが、『愛媛のとなりの香川は知られざる手袋の産地である』ということに魅力を感じたみたいで、それをやってみたいと。やるなら実際、地元で熱意を持ってやれる人がやるのがいいんじゃないかと動かれていたときに、それが人づてに私のところに舞い込んできて、会ってみたんです。」

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それ以前は、東京、大阪で家電メーカーに勤務されていた松下さん。彼女に声をかけたのは、香川県のおとなり、愛媛県の【エイトワン】という会社でした。松下さんは故郷の東かがわ市に戻り、エイトワンのなかのひとつの事業として、手袋に関わる仕事を始めることになります。ちなみに、『東かがわ市』とはどんな町なのでしょうか?

「この東かがわ市には100社くらい手袋に関わる工場があります。市内の人口が3万を切るくらいなので東京ドームも埋まらないんですが、そんな町にそのくらい会社がある。手袋を作る工場だけじゃなくて、染色する工場や縫製とか刺繍だけをやる会社も含めてになりますが、たくさんあります。クラスに手袋会社さんの息子さんは何人もいるし、私よりちょっと前の世代だと、家内制手工業から発展しているので、みんな家にミシンがあって、一般の住宅の中でも町全体からミシンの音が聞こえているというのが昔の東かがわの姿です。縫製とか手仕事の町ですね。」

松下さんはそんな東かがわ市で手袋に関わる会社を巡り、話を聞きました。

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香川にある会社から発売されている手袋はすごくたくさんあるんですが、その中でも80%~85%は海外生産なんです。手袋産業は海外進出がすごく早くて、みんな自社工場を海外に持っている。その結果、国内の職人さんがどんどん高齢化して、技術を残していくことが難しくなっています。日本にしかできないことも確実にあるけれど、それさえも10年後はどうなるんだろう?と、みんな思っている。でも、みんなそうは思いながらも、海外での生産が拡大しているなかで日本に戻すのは簡単にできる話ではないというのもわかるし、市民もそんなにいないし、あのキャパをまわせる人口はどこにいるんだ?ということで、それぞれの答えがあったりなかったり。」

手袋産業が抱える問題を前に、では、どうすればいいのか? 松下さんはこう考えました。

手袋は縫製ものの中だと最も難しいもののひとつと言われています。手というのはパーツが細かいし、そこにフィットするように立体的に作るのって難しいと、改めて知ったんです。まず、その奥深さは知ってもらうことができるのではと思いましたし、その手袋を縫う技術が他にも活かせるのであれば、広がりってまだまだ見いだせるんじゃないかなというのはすごく感じたところでした。なので、コンセプトとしては東かがわで作れる手袋をしっかりとした品質で届けて、それを【tet. from Higasi Kagawa】というふうにブランドにつけているんですけど、"東かがわが手袋の町だと思ってもらう"というコンセプトをかためて、各社さん、商品協力のお願いをして『オッケーオッケー』と言ってくださったところと商品づくりを始めました。でも、むやみやたらにデザインを施すんじゃなくて、そのメーカーさんにももともといいものがたくさんあるので、その魅力を引き出せるように、それをよく見せるような商品づくりを心がけました。」

東かがわに すでにある素敵な手袋の魅力を さらに引き出す。たとえば、女性用カシミア100%の深い赤色の手袋。

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「これはカシミア100%で昔からあるデザインなんですが、生地を縫い合わせて作っているので内側に縫い代がでるんです。手って感覚がすごく敏感なので、縫い代が深いと内側にあたってしまって違和感があるんです。洋服でもパタンナーさんっていると思いますが、手袋もどれも同じじゃなくて、その違和感がなく、かつ、手が綺麗に見えるように、この小さな範囲でどれだけ、香川だと"はきやすさ"っていうんですが、つけ心地と手が綺麗に見えるかをこの小さな面積で表現する。これがすごく難しいんですが、形が綺麗でステッチも素敵だったので、すそだったり色とか、ステッチの入り方をアレンジさせてもらって、『そのままに近い状態でやりたい』と伝えたら、了承をもらえたものもあります。」

【tet.】のブランドマネージャー、松下文さんに最後にうかがいました。職人さんたちの技が詰まった手袋、どんな想いを込めて販売していますか?     

「手袋ってそのくらい手間がかかって真心込めて作られている、というのを伝えたくてこういう販売の方法をしていたり、あたたかい手仕事を贈り物にするという提案をしています。手袋と言われたときにみんながどういうものを思い浮かべるか分かりませんが、東かがわの特徴は多様性なんです。手袋と一言に言ってもニットもあれば生地ものある、革のものもあれば子どものものもある。あとは、あまり知られていないですが、スポーツもあるんですよね。ゴルフ、野球のバッティング、スキーのジャンプ、フェンシング、サッカーのゴールキーパーのものとか、ああいうものも東かがわで生まれている、そして、消防士さん、林業のチェーンソーの振動対応のもの、獣医さんが犬にかまれないようにするものとか、農業、工場のラインに入っている人もしているじゃないですか。手袋と一言に言ってもありとあらゆる"手袋"だなと思っていたし、働く手袋というか、手袋がないとものづくりができないんです。」

tet. ウェブサイト