今回ご紹介するのは、ファッションブランド【Beyond the reef】。

編み物に特化し、手編み、手縫いなどによるハンドメイドのアイテムを届けるブランドなんですが、実は、その商品づくりにはおばあちゃんやお母さんたちの技が活かされています。そのHidden Story、ご紹介します。

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横浜市日吉にある【Beyond the reef】のアトリエ兼ショップには編み物で作られたクラッチバッグやカゴバッグ、麻の糸で編まれたバッグなど、魅力的なアイテムがずらり。そして、お店には女性がひとり、またひとりとやってきます。彼女たちは【Beyond the reef】のスタッフのみなさんです。編み物が得意な高齢の女性や、子育てが落ち着いたお母さんなどが商品づくりをするファッションブランド【Beyond the reef】。代表の楠佳英さんに、その始まりについて教えていただきました。

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「きっかけは私の義理の母です。義理の母が夫が亡くなって子ども達が独立したら一軒家に一人暮らしになりまして、あれよあれよと元気がなくなってしまいました。一日中テレビを見て過ごしてたんですが、手はずっと編み物をしていて、できあがったものを私にくれるんです。一つ目二つ目は嬉しいんですけど、三つ目四つ目になると、「正直、これどうしよう」と。でも、一つ目よりもだんだんうまくなっているんです。だからそのとき私は"これを作りあげるのにお母さんは膨大な時間と労力を要している。でも、デザインが今にそぐうものではない。だったら、デザインを今にそぐうものにすれば、その労力が新しい付加価値に生まれ変わるんじゃないか"と思って、義理の母に『こういうバッグを編んでみない?』と頼んだのが最初です。」

楠佳英さん、実は、ファッション雑誌をつくる仕事をされてきた方です。そんな中、2014年の3月、義理のお母様に、編み物でバッグをつくることを依頼したのです。

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「お母さんに毛糸と編み棒を渡して、『こんなバッグ作れないかな?』と言ったのがそこにあるニットクラッチという、クラッチバッグなんですけど、お母さんは自分に依頼してくれたのが嬉しかったようで、すごく嬉々としてくれたんです。『やることがあるのが嬉しい』と言って編んでくれて、そのできあがったものがすごく素敵でした。私はそのころ洋服に囲まれて仕事をしていたんですけど、ファッションの流行のサイクルが速くて、3ヶ月前のものはダサいというような中で生きていたんです。でも、お母さんが手編みでつくったバッグがすごく美しく見えて、おばあちゃんの仕事も生み出しながら、私たちの心も豊かになれるもの、そういう新しい何かを作れないかなと思って。お母さんがつくったものを編集部のみんなに見せたら、『かわいいね!』って言ってくれたので、『あ、いけるかもしれない。』と思って。」


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楠さんはこう考えました。自分の義理の母親のようなおばあちゃんは他にもいるのではないか?編み物が得意なおばあちゃんを探そう。

「これがなかなか難儀で見つからなくって。最初、シルバー人材センターに行ってみたんですが、編み物っていう登録や仕事がない。老人ホームにも行ったんですが、お金を発生させちゃいけないとかそういうことがあったり、いろんな壁にあたってしまって。おばあちゃんは外にも出ないし、なかなか探すのが難しい。そのときに、NPO法人の新聞に【自分のお母さんのためにニットカフェをつくりました】という記事が出ているのをみつけたんです。そこには【シニアの方たちが編み物をするサークルをつくりました】と出ていたので、『一緒にやってもらえませんか?』と言いに行ったのがきっかけです。『私、母と一緒にこういうバッグをつくっているんですけど、ご協力いただけませんか?』と。それが、今でも一緒にやっているおばあちゃん達なんです。」

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2014年の7月には、ウェブサイトをオープン。【Beyond the reef】のアイテムが世に出ました。最初は1種類のバッグから始まったブランドでしたが、いまや、商品は60種類程度。作り手のおばあちゃん、おかあさんは、およそ50人。去年は日吉にアトリエ兼ショップもできました。

人がつながる場所、ということで、コミュニティをつくりたかったんです。ここではワークショップをやってるんですけど、おばあちゃん達がワークショップを担当してくれて、編み物とか習いに来た人におばあちゃんが教える、という新たなコミュニティづくりに挑戦しているんです。上がアトリエになっていて、そこでつくって、みんなに教えてという拠点みたいな感じで。」

【Beyond the reef】のきっかけとなった楠佳英さんの義理のお母様、楠美智子さんにもお話をうかがうことができました。

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「私も70歳を過ぎて主人も亡くなりまして、子ども達も独立してひとりで暮らしていたんです。専業主婦でしたからそんなに趣味も多くなく、家のなかで孤独というとおかしいですが、寂しく過ごしていたところに、まさかこういう光を、こういう日々を送れるとは思ってもみませんでした。ここでお客様はもちろんですけど、仲間と楽しくおしゃべりができて刺激をもらえて、本当に感謝しています。思わぬ日々を送らせてもらって嬉しくて、感謝のみです。」

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【Beyond the reef】の代表、 楠佳英さんに最後にうかがいました。ここまでの手応え、そして、思い描く未来とは?

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「私たちの目的としては高齢者とか、いったん社会から離れた女性が無理なくもう一度社会とつながるということを目指しているので、そのために規模を大きくしたいと思っています。手応えというとまだまだですけど、お店ができたり、作り手さんが50人になったり、そういう意味では手応えも感じています。今まではオンラインでやってきたんですが、4ヶ月このアトリエショップをやってきて思うのが、人を笑顔にするのは人で、人を幸せにするのも人で、人とのつながりやオフラインでつながることの可能性って無限大だと思うので、場づくりってとても大事。場をつくって、人が集えて、人が笑顔になる場所を全国につくっていきたいなと思っているんです。そうしたら地域で埋もれている産業なんかも掘り起こせるんじゃないかなと、最近思うようになりました。」

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Beyond the reefウェブサイト

https://beyondthereef.jp