今回、注目するのは会議の中で複雑な話や、議論のぶつかり合いを可視化する【グラフィック・レコーダー】。会議室の壁に大きな紙を貼り、そこに、会議のテーマ・発言の内容・議論の進展など、複雑な状況を文字やイラストでかいていく、というのが【グラフィック・レコーダー】というお仕事です。日本での第一人者、清水淳子さんにお話をうかがいました。まずは、今から7~8年前、グラフィック・レコーダーを始めた理由について。

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私はデザイナーなんですが、デザインをするためにはいろんな人たちと話し合わなければいけないシーンがたくさんあるんです。若手デザイナーだったとき、言葉でうまくまとめられないシーンがたくさんあって、そのときにとっさに絵でかいたら意外とまとまった、ということがあって、それがきっかけでこの仕事を始めることになりました。そのときは年上の方がいらっしゃる会議で、私は20代前半の若者。話がぜんぜんまとまらなかったんですけど、図でかいたら話がうまく伝わったというか、えらそうになりすぎないというか、そういうことがありました。AとBで悩んでいるときに、Aと言ったらBと言いづらいみたいなことって日常でよくありますよね。図にしないと、お互いの顔を見ながら話すことになるので、何となく相手に対していらりとするというか、そういう状態があると思うんですけど、図にするとみんなホワイトボードのほう、同じ方向を向くようになるので、同じ課題に対して向き合っている仲間なんだという意識が生まれる、という効果もあるんじゃないかな、と思います。」

グラフィック・レコーダーの作業、実際、どんな風に進むのでしょうか?

「流れとしては、まず話を聞きに行きます、どんな会議でどんな悩みがあるのかを聞いてみると、単純に議論の可視化をするだけじゃだめだなと思うときもあるので、そういうときは、いろんなサイズの紙やインタラクションできるような付箋とかを持って本番にのぞみます。10人の会議と100人の会議でも全然違うし、専門性が違うのか仲良しのメンバーなのか、会議の結果を社長に持っていくのか、その内部でまたもむのか、それによってかく内容とか、かき方とかを結構変えています。100人いたらグループに分けたりしながらなるべくみんなが自分の声を出せる時間を作ったり、会議のプログラムも主催者と話し合いながら決めていきます。」

会議本番の日、清水さんは縦1メートルほどの大きな紙をおよそ10メートル、会議室の壁に貼ります。

「本番はまず、みんなの話をどんどん紙に集約していきます。事前にブリーフィングしてもらうこともあるんですけど、だいたいそういうことはなく、『きょうはITについてだよ』という情報だけで、その話がどうなっていくかはほんとにぶっつけ本番で台本とかもありません。会議のストーリー、文脈を読み取りながら要点をまとめて残していくという作業です。かく内容は一言一句もらさず、というのは難しいですが、絶対にトピックは逃さないようにしています。AさんBさんCさんといたときに、Aさんの話は好きだからAさんのだけかく、というのは絶対なしで、AさんBさんCさんみんなの話をちゃんとトピックで拾って要点を残していく。グラフィックというと、イラストみたいなものを思い浮かべる方も多いと思いますが、文字と図と絵、というこの3つが組み合わさったものをかいています。図解も入れるし、文字をしっかり書き込むこともありますし、文字や図解で表せないものは抽象的な絵でかいたり、色で表したりなど、いろいろ工夫しています。」

会議と同時進行するグラフィック・レコーディング。時間が経過するとともに、状況も変わっていきます。

「いろんな論点、意見、感情とかが飛び出てきますので、それをどんどん1枚の紙にまとめていきます。そうるすと、だいたい話がつまってくるんです。だんまりしちゃったり、きょう結局何を決めるんだっけ?となったり。そのときにその紙を見ながら振り返りをします。リフレクションですね。そこできょう何を決めるかを再定義してまた出発したり、いつもみんな会議室でコの字型の席に座っていると思うんですけど、紙が貼ってあるとそこに移動して、立ちながらすごく近い距離で話をし始めるんです。実はそれが一番目指している光景で、座席順で座って話していると心も体もかたまってきちゃうんですけど、紙の前で隣同士で話をしたり、指差しながら話したりすると、『ぶっちゃけ、さっきは言えなかったけど』とか、そういう話がどんどん出てくるんです。そういう空間ができると、次の会議もうまくいったり、そういう感じです。」

過去の依頼、お仕事の性格上、公開できるものは多くないのですが例えば、こんな会議がありました。   

保育園問題について語り合うイベントで、議員さんと子育てをしているお父さんお母さん、地域の人が集まって議論するイベントがありました。そういう普段会わない人が集まって話す場をせっかく設けても、議員さんにいきなり何か言うというのは躊躇してしまうというかこわいと思うんです。でも、議論の可視化をしてその絵をはさんでなら言えるというか、そういうことがあったり。どうしてもよくしゃべる職業の人って言葉が上手なので、そういう人を前にすると言葉につまったり、聞き手になってしまったり、そういうバランスがあるんじゃないかなと。言葉で表現できない人たちがいたときに、その意見とか声って消えていっちゃうと思うんです。でも、それが可視化できれば、その場で言えなくてもあとから『実はこう思っていたんだ』と指差しながら話せたり、そういう新しい言語という役割もあるんじゃないかなと思っています。」

議論を、えがくこと。

それは、声の大きい人の意見だけでなく、小さな声の、でも大切な意見も ちゃんとテーブルにのせること。

いわば、新しい言語としてのグラフィック・レコーディング。清水淳子さんの挑戦は続きます。

TOKYO GRAPHIC RECORDERウェブサイト

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