今回注目するのは、ラッパーのSKY-HIさん。まず、メジャーデビュー5周年のアニバーサリー、今年8月7日に突如、無料で公開されたミックステープ、【FREE TOKYO】について、うかがいました。

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「ミックステープのあり方から説明すると、アメリカとかでよくあるアルバムじゃないものを気軽に作って、自分の音楽や自分自身の宣伝を音楽でやる。タダでばらまいてそれをきっかけに有名になってツアーまわったりとか、次の有料の作品を買ってくれたり、デモをまくっていう作業です。僕も18歳のときのとか、ラップ始めたのくらいのときはクラブにデモCDを持っていって、そのうちレギュラーで出してくれるクラブのイベントが見つかる、ということがあったので、今それをもう一回やりたくなったというか。自分の作品で自分のトラックだけ、っていうのは長いことやってなかったので、自分自身の根っこの部分のプロモーション、俺の存在のプロモーションです。こぼれた、もう出て来ちゃったみたいなものですね、サウンドもラップも。だから実際にラップを入れたのって1週間ないと思うし、トラックもあれとこれとそれは同じ日に作ったよという感じだったりするから、制作にかけた期間はとんでもなく短いんだけど、なんとなく何年越しの自分みたいなものもあるから、5年間ためてた自分の何かが、本質が出てきたものかもしれないです。」

【FREE TOKYO】に収録されたナンバー『I Think, I Sing, I Say』。この曲には韓国のラッパー、Reddyがフィーチャーされています。    

「アルバムで1曲、呼びたいなと思って。こういう曲でこういうテーマでこういうことを歌ってるから、Reddyのラップでこういうことを言ってほしい。具体的に言ったら、多様性みたいなこととか、ゲイとかバイとかの話が出てきたり、アメリカン、チャイニーズ、いろんなワードが出てきますけど、そういうのをおっきな話として捉えずに、日常のなかでそういう話を歌いたいから、あくまで日常の歌としてそういうことをやりたくて、Reddyだったらそういうことできそうだな、と。でも、そういうテーマで韓国のラッパーとやって、『差別やめようぜ』とか『We are same asian』だとか、そういう感じじゃなくて、いやいや普通に生きててもチャイニーズの服も着るし、それこそ服のデザイナー、この服のデザイナーもゲイだし、『ええ??バイの友達とかいるでしょ?』とか、そういうテンション。伝えたいこと何?っていったら、『アホにバカにインテリ、芸能、ブサイク、俺の友達に唯一ないのは、ヘイトクライム』そこだけですね、その2行で言えてる。」

東京をもっと自由に。そんなメッセージも込められた【FREE TOKYO】。こんな曲も入っています。絶妙なストーリーテリングで、日本、アメリカ、そして北朝鮮の関係を描く1曲、『The Story of J』

「去年、『キョウボウザイ』という曲を書きまして、それはわりと主観の歌なんです。チャイルディッシュ・ガンビーノの『This is America』とか大ヒットしていましたけど、あれはアメリカの銃社会について歌っていて、俺はひとつの法と表現者の距離感について歌いたいことがあったので、歌を作る人間のポジションとして『キョウボウザイ』という曲を作ったんです。でも、主観の歌を歌うとその歌を聞かないで、それに対する主観を言いたい人しかついてこないんですね。その曲を曲として聞いてくれることがなかった。だから、それよりもエンターテインした徹底したストーリーテリングで、物語を聞くように、聞いた人が誰でも『あら、これ国の話だな』と思える感じでやったら、関心を持ってくれる率は高くなるかなと思って。もうちょっと雑に言うと、意識高い系の人はポジティブ派もネガティブ派も聞いてくれるけど、普通に生活してたまに音楽を聞く人には届かないんだなと思ったので『Story of J』を作ったし、『ああ、こういう風なことを歌うの面白いな』とか、『俺だったらこういう風にやろうかな』という人が増えてくれれば、少なくとも音楽の世界はおもしろくなると思います。」

日本の音楽をもっと面白くしたい。【FREE TOKYO】には、そうした想いも詰め込まれています。

「アメリカは今どうなっているかというと、ケンドリック・ラマーがピューリッツァー賞とったりとか、チャンス・ザ・ラッパーが、地元の中学に寄付してっていうのもそうだけど、チャンスが広告に1枚、『え、俺じゃグラミーダメなの?』って広告をあげて、それでグラミーの歴史を変えてCDリリースをしてないアーティストなのにグラミーをとるとか、彼らは影響力が確実にでかい。日本でニュースの1面になる人って誰でしょうね?かねてのX JAPANとかサザンオールスターズ、Mr.Childrenのころと比べると影響力は絶対落ちてると思うんです。時代が変わったからしょうがないというのは当てはまらなくて、なぜなら日本以外のすべての国では音楽家の影響力がどんどん増している。日本でこれだけ影響力が縮んでいくとどうなるかというと、才能のある人はどんどん海外に行ってしまうし、他にも才能があって日本にいたい人だったら音楽をやらなくなっちゃいますよね。例えば米津君とか、米津君は音楽やるかな。(笑)でも、あのくらい絵が描ける人だったら日本で音楽は無理だから絵に集中しよう、ってなるかもしれない。」

【FREE TOKYO】につづく作品は、12月にリリースされるアルバム【JAPRISON】。ジャパン、プリズン、で ジャプリズン、なのでしょうか? 

「これダブルミーニングですよ。そのJAPRISONもそうですけど、もうひとつ、Japanese rap is on!という、日本発のラップだっていくぞ!っていう、そういうダブルミーニング。『JAPRISON』は、より研ぎすまされたものにはなると思うし、逆によりポップになると思うし、そういうものをポップにできたら一番最高。ポップっていうのは階段を下りたところにあるんじゃなくて、のぼりきった、一番とがったもの、一番研ぎすまされたもののことをポップというはずだと思うんです。だって、マイケルとかどう考えてもStranger has comeじゃないですか。そういうことを含めて、今自分ができる一番のポップを一番とがった形でやれればHip HopとしてもJ-Popとしてもすごい作品だ、ってみんなが言ってくれるものになるんじゃないかなと思うんです。ただ、今絶賛レコーディング中で、自信満々に完璧なのできました、っていうテンションよりは、作らなきゃな~というほうが強いので、この辺で勘弁してください。(笑)」

最後にもうひとつだけ、現在、開催中のライヴハウスツアーについてコメントいただきました。

「トラップビートでみんながのれる、という状況を作りたいなと。ファイナル、豊洲ピットなんですけど、あのくらいの人数でトラップ踊るとめちゃくちゃ楽しいんですよ。音楽との距離感の自由さをつくるために今僕ができること。トラップの曲、というよりは、【Free Tokyo】の曲でゆっくりリズムをとるところを早くとると、めちゃくちゃ楽しい、っていうのを知ってほしい。音楽の楽しみ方としてもったいないじゃないですか。いい肉を食べてるとして、そのまま食べるのもおいしいけど、さっきからお前、ソース一回も使ってないよと。ソースあるよ!というのを言ってあげられればなと思います、今回のツアーで。」

SKY-HI公式ウェブサイト