今週は、去年15周年を迎えたレコードレーベル、マネージメントオフィスの【カクバリズム】。YOUR SONG IS GOOD、SAKEROCK、cero、在日ファンク、スカートなど、さまざまなアーティストを世に送り出して来た 【カクバリズム】のHidden Story。

カクバリズムの代表は、角張渉さん。そもそも立ち上げのきっかけは、学生時代。角張さんが西荻窪のライブハウスでアルバイトをしていたころのこと。

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「当時90年代後半は自分らでレーベルをやり始めている先輩がいて、Hi-STANDARDとか憧れている人が多かったので、ああいう人たちみたいにレーベルをやってみたいというのが18、19歳くらいの時にあって。自分らで自分らのことやろうというインディペンデントなものに憧れがあったんです。で、GOING STEADY、銀杏ボーイズを今は抜けちゃいましたが、安孫子真哉君が同級生でよく遊んでて、安孫子君ともともと違うレーベルを始めてて、そういう経験もあったし、ちょうどそのころYOUR SONG IS GOODというバンドのリリースをしたいなと思っていたんです。憧れの先輩方だったんですけど、なにかその人たちの力になれないかと思ったのがきっかけですね。カクバリズム自体は、2001年くらいに、イベントを始めて、2002年にYOUR SONG IS GOODの7インチを出しました。当時、Bluebeardっていうバンドがいて、そこのベースのたっくんって子が『カクバリズムって面白いんじゃない?』って言い出して、それが残ってて今に至るって感じですね。まさかこんなにやるとは思ってなかったし、会社にするとも思ってなかったんで。まじか、って今は思ってますけどね(笑)」

大学卒業後、角張さんは、ディスクユニオンで働きながら、レーベルを運営する日々。

「まあなんとかなんじゃない?みたいな。でもレーベルでどうこうってあんまり将来像もなかったですね。働きながらかっこいい音楽に触れてたらいいやみたいな。新譜聞けるし、中古もいいの聞けるし、ライブの日は何とか休みもらって。自分で作った好きなかっこいい音源も店頭で売れるし、誰が買ってくのか見られるし、店頭プレーもできるし、いいことづくめじゃないかって(笑)」

状況が変わっていくのは、2004年。YOUR SONG IS GOODのファーストアルバムをリリース。2005年には、YOUR SONG IS GOODがフジロックフェスティバルのホワイトステージに登場しました。さらにこの年、カクバリズムにSAKEROCKが加入します。

「SAKEROCKはもともと高田蓮さんのバックでセッションとかしてたんですが、当時お世話になっていた宮内健さんってライターさんがいて、そのライターさんの企画にSAKEROCKが出ていて、ユアソンの MAURICEとジュン君が見に行ってたんですね。そしたら、『SAKEROCKってすげえかっこいいバンドがいる』って電話かかってきて、カクバリズムを定期的にやってたシェルターの企画に呼ぼうよってなったんです。PCからメールしたら『ぜひ出たいです』って言ってくれて、仲良くなって、そこから都内のライヴはよく行くようになったんです。ちょうど源君がスズナリか本多劇場かで大人計画の舞台に出てて、その休憩時間とか、僕はユニオンの休憩時間か終わったあとに会って、下北の花泥棒っていう喫茶店があって、そこでよくお茶してて、『ああしたいね、こういうことやりたいね』ってしゃべってて。そこからアナログ出さないかってなって、2005年の1月に7インチを出しました。」

SAKEROCKからはその後、星野源さんがソロデビュー。圧倒的な人気を獲得していきます。

「今思えば濃密すぎて。でも、おもしろいもんで、激流すぎて意外と覚えてないんですよ。たぶん本人もだと思うんですけど、ビクターの人とかとも『何があったっけ?』ってときどき話すんですけど、まあでも、源君にはいろんな景色を見せてもらいましたね。今まで話したことのない業種の方々もそうですけど、そういう方に我々のやり方がおもしろがってもらえるというのも分かったし、反面フィットしないんだなっていうときもあるし、その強弱がわかりましたね。」

カクバリズムはキセル、二階堂和美さん、イルリメさん、MU-STARS、さらに、在日ファンク、ceroなど素晴らしいアーティストを輩出。それぞれに、それぞれの物語がありますが、そのストーリーは、角張渉さんの著書、『衣・食・住・音  音楽仕事を続けて生きるには』に記されています。

「もともと『就職しないで生きるには』という70年代に出たレイモンド・マンゴーさんの本の、自分の好きなことを仕事にするというのが、今回本を書こうと言われたときの企画の一個としてあったんです。そのリトルモア版というか。で、僕の場合、好きな仕事が音楽仕事で、そもそも音楽を仕事にしようとしていなかった人が徐々に仕事になっていくんですが、それが好きだから続いているんですね。好きな仕事は音楽仕事で、それをどう継続するかとなったときに、好きなことを仕事にして続けていくって結構大変で。あがきつづけなきゃいけないっていうのが結果論なんですけど、水面下で見えない動きをして細かくやってはじめて好きな仕事で納得してキープできるというか。」

好きなことを仕事にして続けていくこと。そのために必要なのは、あがきつづけること。では、最後にもうひとつ。 目標は、どんなことでしょう?

「最優先すべきが売り上げ、ってわけでもなかったりするので、来年度の売り上げを50%あげましょうって言って、達成してみんなでやったぜ、みたいなのでもない。だから自分が帰り道に所属しているバンドの曲を聞いて超かっこいい、ってなったのをひとりでもふたりでも多く届けられたらやったぜってなるんですけど、実際と届けられたか分もかんないし。でも、自分のなかでよし、という瞬間もあるんです。例えば、こないだ高校生の女の子がこの本のサイン会に来てくれていて、その子はお母さんと小さい頃からSAKEROCKとか見に来てくれてる子なんです。で、Hei TanakaってSAKEROCKのベースの、最近戻ってきてくれた馨君のライブに来てくれたんですけど、その子は貧血だったのか外にいたんですよ。せっかく来たのにライブ見れないんだと思って、ピンバッチあげたんですけど、馨君も声かけてたみたいで。その子は嬉しかったようで、そのあとお母さんから手紙が来たんです。その子ベースをやってるらしいんですけど、『娘がそういう風に声をかけてもらって幸せそうで、母は胸がいっぱいです』ってもらって、僕も娘がいるんで、僕も胸がいっぱいですって思って。そういうご褒美みたいなのがくるんですよ。自分らが好きでやってた音楽で、なんかあるんですよね、続けていくとね。カキーンみたいな瞬間が。」

● 角張渉さんの著書『衣・食・住・音  音楽仕事を続けて生きるには』

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リトルモアから発売中

カクバリズム