東京・墨田区の森下駅と両国駅のあいだ、住宅街のビルの1階に、【喫茶ランドリー】が登場、話題になっています。その名の通り、喫茶スペースと、ランドリーのスペースをあわせ持つ【喫茶ランドリー】。こちらを手がける株式会社グランドレベルの田中元子さんにお話をうかがいました。

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『1階づくりは まちづくり』がテーマの株式会社グランドレベル。代表の田中元子さんは、この会社を立ち上げる前は建築や都市にまつわるメディアづくりをしてきました。ではなぜ、グランドレベルを設立しようと考えたのでしょうか?

「建築や都市を考えるとき、専門家はどうしても立体的に考えてしまうのですが、私たちは日々暮らしているときにそれほど見てないよね、と。1階が私たち一般市民にとってひときわ大事な場所なんじゃないかと気づくんですが、そのきっかけは、私の趣味だった"屋台でコーヒーを振る舞う"という活動の影響が大きいんです。この屋台は仕事ではなくて事務所の片隅にバーカウンターを作って、お酒をただで振る舞うというものだったんですが、それが楽しくなっちゃって"私の趣味はこれだな"と。街でこれをやったら面白いかもしれないと思って、『ここでバーをやったら楽しいんじゃないか』っていう、バーを置く視線で街を見るようになったんですね。そうするともっと川辺は美しくなりそうだし、もっと公開空地は使われるだろうし、都市ののびしろを発見することができたんです。そういうのびしろを伸ばす仕事があるべきじゃないかと考えて、1階の専門家を名乗り、グランドレベルを立ち上げたんです。こんなポテンシャルの高い土地がどうして有効活用されないんだろう?とか、1階というものは商空間としては重宝されているのに、高層マンションとかオフィスといった施設になると空洞になってしまいがちだなぁとか、そういうことへの単純な疑問が次々わいてきたんですよね。」

田中元子さんは、街で、コーヒーを無料で振る舞うというアクションをおこないます。そして、街を観察することでビルの1階部分の可能性に気づきます。会社をつくり、最初に手がけたのは築55年のビルの1階でした。 田中さんが提案したのは、【喫茶ランドリー】。

「ランドリーとカフェの一体施設は私のアイディアではなくて、こうしたランドリーカフェという事業を初めてみたのは、コペンハーゲンの町中だったんです。そこはランドリーがずらっと並んで横にちょこっとコーヒースタンドがある形ではなくて、外から見ると普通のかわいいカフェで、中に入ってやっと洗濯機があることがわかる、というバランスだったんです。でも、洗濯機があるというだけで多様な人がそこを行き交うきかっけになっているということが、お店に入って人を観察してて見て取れたんです。そのコペンハーゲンのカフェ空間を多様な人が使いこなすきっかけとして洗濯機があるという状態に、私はすごく心ひかれました。日本に入っているランドリーカフェのほとんどは、コインランドリー事業者同士が差別化するためにやってらっしゃるんですけど、喫茶ランドリーの場合は、洗濯機はあくまできっかけというか手段であって、その目的は多様な人が訪れることだったんです。」

墨田区に登場した【喫茶ランドリー】。コーヒー、紅茶、クラフトビールや軽食が楽しめる喫茶スペース。さらに、洗濯機のほか、ミシンやアイロンが置かれた【まちの家事室】が設けられました。20180914hidden01.jpg

そもそも、マンションのなかで気持ちよく家事をしている人がどのくらいいるかなという気持ちがあったんです。洗濯機置き場とかは、リビングやキッチンが素敵でも、そういうところにしわ寄せがきて最低限のスペースしかもらえてないんじゃないかと思ったんです。しかもマンションに暮らす人のなかには、旦那さんの仕事で東京に来て、地縁もなく友達もいない、マンションのなかで赤ちゃんとふたりきりで黙々とおしめを洗う、、、そうではなくて、たまにはコーヒーを飲みながら、広々と清々した気持ちでやるのもいいんじゃない?と提案できると思ったんですよね。それが洗濯ですが、意外と反応がいいのがミシンで、いっぺんしまうと出すのがおっくう、でも出したは出したでしまうのがおっくうというのがミシンで、ちょっと縫いたいときにさくっと使えるというのはすごく喜ばれています。結局、洗濯機は1フックでしかなくて、ミシンとかアイロンとかいろんなフックが増えていくことで、その分いろんな用事のある人が訪れてくれる。これからもいろんなフックを増やしていきたいと思います。」

【喫茶ランドリー】は、今年1月にオープン。その後、街の人がその場所を見て、さまざまなイベントを独自に提案、多様な人が多様な使い方をしています。まさに、1階づくりは、まちづくり。そして、株式会社グランドレベルはもうひとつ【ベンチプロジェクト】という活動も展開しています。

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「2017年に神田で社会実験として、ベンチを一定期間置かせてもらう【神田ベンチプロジェクト】というものをやったんですけど、その社会実験を実施してもいいエリアが限られていて、そのエリアでベンチがいくつあるのかを数えようとしたんです。3個しかなかったのが20個になりました、とかそういう言い方ができるかなと思って数えたんですが、1個もないんですよ。東京のど真ん中ですよ、そこにベンチがないというのは他の国でありえるのかなと。ベンチがなくて不便な想いをしている方もたくさん見て来て、手すりに寄りかかったり、いろんなところにしゃがみこんだり座ったり、ベンチのことを気にして街を見ていると、そういう人が結構いて。人のニーズとベンチの数がまったく比例してなかったんです。」

街にもっとベンチを。田中元子さんがおこなう【ベンチプロジェクト】。そこには、こんな想いも込められています。

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弱い人や年を取った人のものと思われがちなんですが、ベンチがあると健康な人でもちょっとカバンを置いたり、iPhoneいじったり、ラップトップを広げたり、ベンチを置いて観察すると、若い方もたくさん活用しているんです。最小限の公園みたいなもので、嬉しいときや楽しいときにいてもいいし、悲しくてさめざめと泣きたいときもいていいし、最少単位の共用空間なんですよね。そういうものが街にあると、『あ、この街は自分がどうなったときも何かが支えてくれる。座っていいよと言ってくれている』と思えるし、そういう環境に生きているときと、自分が健康だからベンチもいらない、何もいらないという、マッチョな人だけが暮らしている空間に生きているのでは、社会不安とか、安心して生きられるかというのは違ってくると思います。」

喫茶ランドリー

http://kissalaundry.com