佐賀県のある温泉地に一日一組限定で泊まることができる宿があります。しかし、そこは普通の旅館ではなく図書館なのです。今回は、泊まれる図書館『暁』のHidden Story。

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佐賀県佐賀市の古湯温泉。静かな温泉地にできた 泊まれる図書館『暁』。ご主人は、白石 隆義さんです。そもそも、白石さんがこうした施設を作ろうと思ったのは、どんな理由からだったのでしょうか?

「ずっと同じ会社で働いていて、はじめはデザイナーとして働いていたんですけど、今はこの泊まれる図書館をやっています。自分のいる会社が福岡のデザイン会社なんですが、会社が副業を推進していて週末だけ古本屋をしてたんです。そこで本好きの友人たちとつながって、3年くらい前にその友人たちと『図書館に泊まれたら楽しいのにね』と話したときに、これはすでにあるんじゃないか?と思って調べたらなかったので、じゃあ作ろうかっていう発想です。」

福岡でデザイナーとして働きながら、『ひとつ星』という古本屋さんも続けてきた白石さん。3年ほど前に思いついたのが、【泊まれる図書館】でした。では、それにふさわしい場所はどこなのか?白石さんはこう考えました。

「本を読む環境として、静かな温泉地がいいなと思っていたんです。福岡は150万の人口があるので、そこからアクセスの良い場所を探しているときに、たまたま出会ったのが古湯温泉でした。僕も温泉が好きなんですけど、温泉好きの知り合いに相談したら、『古湯温泉がいいんじゃない?』って教えてくれて、そこから調べました。実際、福岡から1時間圏内で行けるところは行って、10カ所くらいリサーチしたんですが、最終的には古湯温泉の時が止まったような、自然の中にある温泉地がよくて、古湯に決めました。」

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佐賀の古湯温泉では、偶然の出会いもありました。

「街の中を歩いていたときにたまたま古民家を見つけて、風情があっていいなと思って写真を撮っていたら中からオーナーさんが出てきたんです。ずっと空き家になっていたんですけど家の掃除をしに来ていたみたいで、『中、見ますか?』って言っていただいて見せてもらって、『これ借りれるんですか?』って聞いたら借りられることになって。とんとん拍子に決まった感じです。もう10年くらい空き家になっていたそうなんですが素敵だなと。もともと材木商の別邸として作られた建物で、贅をこらした造りになっていて、ほんとに借りていいのかな?っていう感じでした。築110年なので、明治の後期に作られた建物です。」

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『暁』は、泊まれる図書館であって、普通の旅館ではありません。こんな仕組みを 取り入れています。

「ひとりでやるのが前提だったので、みんなに助けてもらわないと無理だなと思ったんです。普通の温泉旅館みたいに、上げ膳据え膳で、お布団敷いて、みたいなのはできないので、温泉は温泉街にある温泉に入ってもらって、食事は温泉街に飲食店があるのでそこにお願いして、うちは本と寝床だけ提供するスタイルに持っていこうと。なので、地域の人に、『協力してもらえませんか?』と挨拶するところから始まった感じです。古湯温泉は昭和のころには30軒くらい旅館があったんですけど、今は半分くらいになってしまって、寂しい感じになってきたところに新しい人が入って来たので『ありがとう』みたいな、好意的にとってくれてる感じもあったように思います。」

食事や温泉は、温泉街の 別の宿や飲食店に 協力してもらうことになりました。図書館の本は、資金をクラウドファンディングで調達。本を愛する70人ほどが、【自宅の本棚に置いておきたい本】をテーマに20冊ずつセレクト。その理由とともに箱に入れて置かれています。そして、 宿泊は一日一組限定。

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「午後4時から翌日の午前11時まで貸し切りになります。夕食は他のお店から事前に作ってもらったものを運んで、朝は散歩がてら外に食べに行ってもらう、という形にしていて、温泉も近くにある温泉の温泉券をお渡しして、そちらに行ってもらうようにしています。別料金になってしまいますが、3つの温泉に入るという温泉手形のようなものがあって、それを購入いただくこともできます。昼の12時から3時はカフェタイムというか、ここは図書館なので、地元の方や古湯温泉の別の旅館にお泊まりの方には本の貸し出しもしています。古湯温泉は徒歩圏内に宿が集まっているので、チェックアウトのときに本を返しに来てくださいね、ということにして、他の宿からうちに本を借りに来たり、うちからはその宿に温泉に入りに行かせてもらったり、お互い行き来する感じになっています。街全体をひとつの宿に見立てて、古湯の街自体を楽しんでもらえたらなと思います。」

『暁』のご主人、白石 隆義さん。オープンから2年弱、こんな発見があったそうです。

「来られたお客さんのなかには、本を読みに来たんだけど本を読まずに本の話をしていました、という方がいらっしゃいます。普段、日常会話であまり本の話とかしないと思いますが、ここに来ると本がたくさんあるので、本を通して自分の心というか、相手の心と通じ合う部分が話せるんだなというのがわかりました。大事な人と来て、ゆっくり深く話せるんじゃないかなと思っています。」

泊まれる図書館『暁』 ウェブサイト

http://library-inn.jp