今回はニッキー・ミナージュのニューアルバム『Queen』のアルバムジャケット。そこに記された【Queen】という文字の制作チームのメンバーであるYuta KawaguchiさんのHidden Story。

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グラフィックデザイナー、アートディレクターのYuta Kawaguchiさん。美術大学を卒業後、デザイン制作会社に入社。実は、この会社員時代にJ-WAVEのウェブサイトの制作にも携わっていただきました。そして、そのころから 自分の作品をSNSで投稿する、ということを始められました。 

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「社会人なってからも自分の趣味嗜好100%丸出しのグラフィックデザインは続けていて、会社員時代に多少無理をしてでもそういう活動をしていたことが今につながっていると思うんですよ。制作系だとどうしても時間がめちゃくちゃになってしまうというか、何徹もしたり自由な時間が作りにくいなと思ってたんですけど、それでもやっとこうと思って、一日一個は必ず作るようにしてました。それをTumblerというみんなが投稿できるブログのシステムがあって、そこにひたすら無言で投稿し続けていたら、だんだん海外の人からLikeとかRepostという通知が来るようになったんです。それがだんだん、ちりも積もればじゃないですけど、大きくなっていったという感じです。そのころからInstagramとかでも作品をメインに投稿するようにシフトしていって、そしたらそこでも外国人の音楽系だとかファッション界隈の人たちからラブコールじゃないですけど、連絡がくるようになり始めて。」

大きな一歩となったのは、パリのブランドからの依頼でした。

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「Youth of Parisっていうブランドで、まさにパリのブランドなんですけど、このブランドのデザイナーの人からインスタでDMがきたんです。『おれはこういうことをやってて、今度自分のブランドをやるんだ。今そのグラフィックを頼みたい人を探してて、お前が一番適任だと思って連絡した』みたいな。それまで僕もこれでがっつりお金稼ごうとかじゃなくてノリで作ってたところがあったんですが、けっこう予算もがっちりあるお仕事だったんです。自分の好きな感じ100%で、なおかつお金もちゃんと出るような、ちゃんとしたお仕事として受けられるものをふってくれたのは、このブランドをやっているアレックスが初めてでした。彼は影響力がある人で、それこそ向こうのラッパーとかに服をあげたりできる環境にいる人。簡単に言えば、楽屋にさくさく入れる謎の人のひとりみたいな感じで、結構いろんなアーティストにあげてました。例えばこのブランドだったらPlayboi Cartiというアーティストがライヴとかでも着てくれているんですけど、それで徐々に音楽系の仕事も来始めて、っていう感じですね。」

『Youth of Paris』の洋服は、プレイボーイ・カーティがライヴで着用。そのほか、先日フジロック・フェスティバルでも来日したポスト・マローンがライヴで着るTシャツのグラフィックも担当。ラッパー、フェティ・ワップの公式 Tシャツも手がけました。そして今回は、ニッキー・ミナージュ!!!20180810hidden04.jpg

「ニッキー・ミナージュのやつは、『Youth of Paris』のデザインを見て僕をフォローしてくれた人がいて、その人はカニエ・ウエストとかその辺のアートディレクションをずっとやってる人だったんです。その人から『最近あげてるタイポグラフィ(文字のデザイン)を使いたいから仕事をお願いしたい』という連絡がきて、2~3案件やりました。その3つ目をやってる最中に、『別の大きいのがあるんだけど、どう?』って言われて、どんな仕事か聞いたら、『ニッキー・ミナージュだ』って言われて。」

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舞い込んだのは、ニッキー・ミナージュのニューアルバムにまつわる仕事でした。

「最初からアルバムのジャケに使う文字だという話は聞いてたんですが、どういうデザインにするかまでは当初の段階では決まってなくて、MinajのMだけだったり、QueenのQだけだったり、それをめっちゃ書きました。コピー用紙の束、A4くらいのを買ってきて、1枚にMとかQだけで30個とか、ああでもないこうでもないと書いて、そのコピー用紙の束は半日で使いおわるくらい書いていたんです。文字のデザインをするときは割と手で何となくラフを書いてからそれを最終的にはイラストレーターとかに持っていってデジタルにします。データにしてイラレでトレースしなおして、全部同じようなモジュールで構成して、アルファベットをどう並べてもいい感じで見られるようにするのがとてつもなく時間がかかるんですが、そういうラフをかなりの数を出さなきゃいけない、という時期がニッキーやってる最中にあって、それはしんどかったです。最終的には『Queen』になったんですけど、途中でニッキーが、『写真だけでいいかも』って言い出しちゃったらしくて。そういうことになってるっぽい、という話を聞いて、『ええ~??こんなに書いたのに』って。それで僕はなくなったと思ったんですよ。」

一度はなくなったと思った仕事。しかし、6月8日の朝、ベッドから起きてYutaさんは再び驚くことになります。

「朝起きて携帯を見たらものすごくいっぱい通知が来てて。昨日何か投稿したわけでもないし、過去のが何かバズったのかなと思ってたどったら、ニッキーのクリエイティブまわりの人がこれについて投稿してて、僕の名前もクレジットされてたんです。それでみんな僕のページに飛んで来て、いいねとかフォローしてくれて。そこで初めて『あ、使われたんだ』って明確に気づいて。『文字あるじゃん。やった。』って感じでしたが、写真も思ってたのと全然違うし、文字入ってるし、『これ何だろう?』と思って。」

Yuta Kawaguchiさんに最後にうかがいました。ニッキー・ミナージュ、ニューアルバム『Queen』のタイトルの文字。このデザインのアイディアは、どこから出て来たのでしょうか?

「一番最初のルーツになってる習字的な部分だったり、あと僕グラフィティが好きで。ちっちゃいころロンドンで見ていた記憶もありますし、中学高校のときはすごく見てたし。グラフィティのなかでもタギングっていう、文字だけペンでしゃしゃしゃって書いてるのが好きで、それがルーツにあるんじゃないかなと思うんですよ。はらいみたいなのとか、小学生のころ習字を習い始めたとき、『しんにょう、めっちゃかっこいい!』と思って、「しんにょう」とか「さんずい」とかかっこいいなと。そういうのが残っていて、ビジュアルとして出て来ているのかもしれないですね。」

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http://yutakawaguchi.com/

instagram
https://www.instagram.com/guccimaze/